副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

労基出身の副検事(コメント質問への解答)

1 労働基準監督署勤務の方から、コメント欄にいくつかご質問をいただきました。

  副検事の一般的な職務内容については、いくつか過去記事を引用しておきます。

 

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

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2 以上の一般的な質問のほかにも、いくつか質問がありました。

  都道府県によって、労働基準監督署の事件相談に対応する検察官が、検事の場合と副検事の場合で違いがあるように感じておられ、この点が疑問とのことでした。

  あくまで一般的な話ですが、検察官には「係」という担当がありまして、その中に「公安労働係」というのがあります。詳しいことは、「係検事に関する規程」という訓令に書いてありまして、なぜかネットで検索するとこういうのが出てくるんですね。興味のある方はそちらを読んでください。

  「公安労働係」に限定して話をしますが、歴史を紐解くと、公安事件、労働事件というのは、社会のあり方を揺るがしていた時代がありました。当然、公安労働係は、力量が極めて高い、年次が上の検事に割り当てられるのが通例でした。そして、時代が変わった今であっても、公安労働係については、年次が高い検事に割り当てられることが多いようです。そんなことから、比較的多くの検察庁では、労基の事件相談対応は、検事が行なっているのではないでしょうか。

  ただ、労働事件と言っても、内容は様々です。例えば、労働安全衛生法違反事件(2m以上の高所作業をさせる時に安全措置を講じなかった等)などは、法律の面に限っては、形式的なルールへの違反を罪に問うものです。もちろん、安全衛生法便覧の確認や実務の運用を労基の方に教えていただく必要はあるでしょうが、よほど特殊な事例でない限り、必ずしも力量の高いベテラン検事が対応する必要まではないとも言えます。そういう観点から、副検事の方が事件相談対応をされているのかもしれません。

  また、いわゆる労災事故(工事現場の事故で作業員の方が死傷するなどした事件)についても、車両や重機の操作ミスが原因の場合、交通事故の過失運転致死傷に捜査が似ている場合もあります。このような場合も、交通事故は通常検事より副検事の方が得意ですから、副検事の方に事件相談対応をしてもらっているのかもしれません。

  私に想像がつくのは、そのくらいでしょうか。

3 また労基出身の副検事の実例や、その働き方についても、ご質問がありました。そう言われてみると、労基出身の副検事の方って、あまり聞いたことがないですね、、、。すみませんが、私は実例を存じ上げません。せめて受験者数くらい分からないかと思い、ネットで検索してみましたが、見つかりませんでした。何かの折に、副検事試験の受験者について、受験時の所属庁を一覧にした資料を見たような気がしたのですが、夢だったのかもしれません。

  なので、ここからは全くの想像になります。労基出身の副検事の方がおられたら、おそらく「公安労働係補助」として、労基の相談窓口になるでしょう。難しそうな案件は、公安労働係の検事のところに持っていけば良いのですから。基本的に安全衛生法違反は全件、労災事故も結果が極めて重大でなければ「やってよ」とか言われそうに思います。労働事件は、どこの検察庁でも必ず一定数の事件がありますし、やや特殊な類型の事件ですから、労基出身の副検事は歓迎される(こき使われるともいう)のではないでしょうか。もし副検事任官をお考えなら、是非労基でも司法事案(労基で刑事事件化する事案をこう呼ぶ)を担当されて、専門分野について腕を磨かれてください。

 

追伸 副検事試験の受験者の所属庁については、「副検事の選考受験案内」という、おそらく皆さんが目にするであろう文書に掲載されていました。こちらを見ると、そもそも労基の項目がなく、「その他」に含まれると思われますが、「その他」の人数が令和4年で1名、その前3年間はゼロでした。こう見ると、やはり労基の方の受験者は、多くはないようですね。   

司法書士法4条2号

0 新年明けましておめでとうございます。今年も2週に1回更新のゆったりしたペースでやっていきたいと思います。

1 たまたま見かけた法律がちょっと気になったので、取り上げてみました。

  司法書士法です。

  司法書士というのは、主に不動産等の登記手続を代理人として取り扱う士業です。マンションとかを売ったり買ったりするときにお世話になることがありますね。大金が動く取引についての履行に関する手続ですから、「間違っちゃった」では済まされません。専門的な知識や経験が必要な業務と思います。また、司法書士は、一定の民事裁判について、代理人の業務を行うことができます。元々は、弁護士でなければできない業務だったのですが、擦ったもんだの末に司法書士にも一部について民事裁判の代理人となることが認められたという記憶です。弁護士会は、こういう職務侵食に対して極めて厳しい姿勢であるのが一般的です。まあ、仕事を一部取られてしまうので、そりゃそうだ、という感じです。司法書士の団体もあるのでしょうが、よく弁護士会の壁を打ち破ったものです。

2 司法書士試験は難関試験として有名で、合格率は約4%(実受験者ベースでも約5%)くらいのようです。やはり司法書士試験の予備校に通ったりして合格を勝ち取るようです。司法書士を目指して勉強していた知り合いを見渡しても、実際に合格に至ったのは一部に止まります。かなりの難関試験と思います。

3 そんな司法書士ですが、なんと司法書士法4条2号に、検察事務官から司法書士になるための規定が設けられているのです。条件は「10年以上の職務従事」及び「業務遂行に必要な能力を有すると法務大臣から認められること」。他に裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官も同じ取り扱いをされています。

  このうち、法務事務官は、要するに法務局の職員を念頭に置いているのでしょう。申請のあった登記手続を取り扱うのが仕事ですから、10年も職務従事していれば、確かに司法書士の業務を遂行する能力は身につきそうです。

  一方、検察事務官は、、、、登記に関する業務を取り扱うことは、ほぼなさそうです。この制度を使って司法書士になった検察事務官っているのでしょうか?検察事務官だけ10年やってても、法務大臣から「司法書士OK!」と言ってもらうのは、かなり難しいように思います。

  どうして検察事務官がここ(4条2号)に入っているのでしょう?裁判所書記官は、まあ分からなくもないんですよね。和解調書の作成とか、色んな法律的業務を取り扱う関係で、多分司法書士法以外の法律でも、転身が認められていそうに思います。方や検察事務官が転身が認められている法律は、副検事を除くと私は司法書士法が初めてでした。

  念のため、税理士法を覗いてみましたが、税理士法検察事務官裁判所書記官も転身は認められていませんでした。

  もし、検察事務官を10年やったら司法書士になれる、となったら、検察事務官大人気になるでしょうね。でも、みんな10年経って辞めちゃったら、若手検察事務官しかいなくなっちゃって、検察庁は大変そうです。そんな話を聞いたことはないので、検察事務官から司法書士になるのは、ものすごくハードルが高いのでしょう。多分。

  ふと思ったのですが、法務局から人事交流で検察庁に来る人のために、検察事務官でいる間も職務従事期間になるようにこの規定に検察事務官を入れた可能性もあるかもしれません。

  検察事務官のどなたかが「司法書士になりたい!」と手を挙げたら、何かが変わるかもしれません。くれぐれも、「このブログを見て知った」とか言わないでください。

4 ついでに、税理士試験について少し。副検事試験とは試験つながりということで。

  税理士試験は、ちょっと特殊な制度になっていて、「1回合格点を取った科目は、以後免除になる」という建て付けになっています。つまり、全科目をいっぺんに合格する必要がないんです。極端な話、1年ごとに1科目ずつだけ集中的に勉強して、一つずつ合格していけば、全部揃うと税理士試験合格となるのです。ラジオ体操のスタンプのような感じでしょうか(違うか?)。

  しかも、修士(大学院卒)の資格があると、その専門分野に関する科目が免除(合格扱い)になるという制度もあります。修士は2年ですから、期間的にはそこまで大きな負担ではありません。まあ、修士論文は通らないといけませんが。

  朧げな記憶ですが、30年くらい前までは、2、3の専門分野の修士資格を得ることで、税理士試験合格に必要な科目全部の免除が得られたはずです。つまり、一切試験に合格しないで、税理士の資格が得られたのです。ただ、それはあまりにダメだろう、ということで、制度が変わったような記憶があります。しかし、今でも修士資格の科目免除の制度自体は残っているようです。

  私は、学生の頃に周りに税理士を目指していた知り合いもいたので、こういう話は自然と耳に入ってきていましたが、周りにそういう人がいないと、入ってこないものでしょうか。転身のタネは、実は色々あるかもしれません。

 

 

   

刑事訴訟法その7(令和5年答え合わせ)

0 季節がわりは、投稿がやや不規則になります。よろしくです。

1 では研修誌23年10月号による刑事訴訟法の答え合わせです。

  設問の題意等、答案の傾向等とも長いですね。

  刑法との違いを感じますが、なぜ違うのか、謎です。

2 設問の題意等からいきましょう。長いので、話の要点をつかむのも一苦労です。

  問1について。

  検証が緩やかな要件で伝聞例外として証拠能力を認められる理由、実況見分と検証との類似性から321条3項が準用される理由、作成の真正を立証する必要性を指摘するように書いてありますね。

  ちなみに、「作成の真正」の立証とは、作成者の警察官を証人尋問で呼び、「検証、実況見分のやり方について、何か研修等を受けたことはありますか?」「ちゃんと正しく検証、実況見分しましたか?」と聞くことです。証拠能力の疎明についてはこれで足ります。普通は、さらに証明力に関する質問(内容の正しさを裁判官に伝えるための質問)もしますが。

  その上で、各実況見分の立会人による指示説明部分の証拠能力を検討する際に、要証事実を何にするかによって、証拠能力の有無という結果が異なることを、伝聞法則の基本的理解を示しながら指摘するよう求めています。

  実況見分調書①については、「立会人が当該地点を指示した」という事実が要証事実であれば、証拠能力が付与されること、警察官がナンバーを見ることができたことは、五感の作用により認識した結果を記載したものだから、証拠能力が付与されること、などへの言及が必要だそうです。また、「被害者Vがナンバープレートを見たか否か」を要証事実とする場合には、321条3項ではなく、321条1項3号の要件を満たす必要があり、被害者Vの署名等を欠く実況見分調書①は証拠能力が付与されない点にも言及がいるようです。

  実況見分②については、立証趣旨を「被害再現状況等」つまり、被害者Vがこういう再現を行なったこと、としているが、実質的には「被害再現通りの事実があったこと」を立証するものと認められる以上、伝聞性を帯びており、321条3項の要件のみでは足りず、321条1項3号の要件を満たす必要があることの指摘を求めています。そして、被害者Vの指示説明部分は署名等を欠き、証拠能力は認められないこと、再現写真は撮影等の記録過程が機械的操作であるため署名等は不要だが、他の321条1項3号の要件を満たさなければ、証拠能力は付与されないこと、という検討も求められています。平成17年9月27日最高裁判決が引用されていますが、勉強しておけ、ということでしょう。

  「論ずるべきことが多いから、関連の薄いことを長々論じたり、論証パターンをそのまま記載するだけだと時間切れや、真に理解しているか疑問を持たれかねない答案となるので注意が必要」だそうです。

  問1だけでこのボリューム。しかも内容が大変実務的です。実際に公判に立ったことがない受験生には、なかなかイメージの湧きづらい問題と思います。

3 問2の設問の題意等です。

  再現写真を使った証人尋問に関する平成23年9月14日最高裁判決の理解を問う、と正面から言い切っています。この判例、普通勉強しているものなのでしょうか。

  再現写真について、事前に弁護人に開示した上で、証人の供述明確化のため、刑訴規則199条の12に基づき、裁判長の許可を受けて尋問時に証人に示すことができること、先に証人から十分に具体的な供述がなされていないうちに再現写真を示してはならないことの指摘が必要だと。再現写真を示すと、証人に一定の情報を与えることになり、その影響を受ける恐れがあるが、すでに十分に具体的な供述をした後なら、再現写真を示しても証人に不当な影響は与えず、供述内容を視覚的に明確化するにとどまるのだと。そして、示した再現写真は証人尋問調書に添付するよう裁判所に求めるべきだと。

  要求水準が高いですね。規則の根拠まで言及を求めています。問題が難しすぎるんじゃないかなー、と心配になります。

4 では、答案の傾向等、行きましょう。問1から。

  多くの答案が伝聞例外の問題と指摘し、321条3項、同条1項3号の条文を挙げて検討できていたが、伝聞例外の論証を展開しながら、伝聞証拠についての基本的理解ができていない答案も少なくなかったそうです。具体的に伝聞証拠のどういう点についての理解ができていないのかは、言及がありませんでした。

  また、よくない答案例として「写真は非供述証拠、現場指示は供述証拠など、実況見分調書を一体として見ることなく、個別に分割して証拠能力を論ずる答案」「『現場指示』『現場供述』とのキーワードだけ掲げ、区別の基準、理由を示さず結論だけ述べる答案」が少なからず見られ、判例の理解十分な答案は少数だった、とのことです。かなり実務的な問題ですから、皆さん苦労されたのでしょう。

  あと、再現写真に関しては、「記録過程が機械的操作によることから署名等不要だが、321条1項3号の要件が必要」と指摘できた答案が相当数ある一方、全く再現写真に触れず、被害者Vの説明部分のみを論じた答案も相当数みられ、ここで差がついたのだそうです。再現写真の問題点なんて、普通に勉強している時にどのくらい注意を払って勉強するもんなんでしょう?

  私の答案構成ですが、伝聞法則と例外、検証が緩やかな要件で例外を認められる理由、作成の真正の立証あたりは、まあまあ書けています。ただ、要証事実が何かによって伝聞性を帯びるかが変わる点の指摘は失敗してます。また、321条1項3号の検討をしてないですね。ここを検討していないのは、結構ポイントを落としたかもしれません。再現写真についての言及も、結構少な目でした。

5 問2の答案の傾向等です。

  問1と比較して出来が悪かったようです。「証人尋問での書面呈示を問われていることに気づいていない答案」「規則の条文をあげられない答案」が目立ち、知識、理解不足がうかがわれたと。

  また、再現写真の呈示根拠として、「記憶喚起のため」(規則199条の11)とする答案も一定数あったが、「許される場面などは想定されないところである」と一刀両断に切り捨てています。

  私の答案構成は、証言明確化のための呈示は可能だが、記憶喚起のためには呈示不可であること、証人尋問調書への添付を求めるべきことは書けてます。しかし、規則の根拠条文を示すことはできませんでしたね。

6 全体として、問1で321条1項3号が書けなかったマイナスと、問2が難しい問題の割にそこそこ書けたプラスを考えて、一応合格点かな、と思いました。

  ただですね、問2はやっぱり難しい問題だと思いますよ。判例を見たことがないと、示した再現写真をその後どうするのか、なんて見当もつかないでしょう。

  今年の問題は民法も刑訴も難しくて、受験された方は心が折れないように頑張るのが大変だったことと思います。

7 これまで、3年分くらい副検事試験の答案構成をやりましたが、かなり「判例重視」と感じています。法律の理屈を理解するだけではなく、関連する判例を見て、何が問題となっているのか、それについて判例はどのように解決しているのか、を十分勉強することが求められているように思いました。地道な勉強が大事なんだろうな、と思います。

 

 

 

      

体力とメンタル

0 最近の記事にコメントをいただきました。

 

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  要するに「そんな人は困る!」ということですが、言葉を尽くし、色んな面から困ることを述べておられました。まーそうでしょうね。こういう動機で副検事を目指す人のであれば、かなりの逆風を覚悟する必要がありそうです。

1 今回は、また別のコメントを参考にした記事です。

  他省庁の方とのことですが、コメントに「体力とメンタルへの不安」を書き込んでおられました。元副検事の方のお話などを聞かれ、「知り合いの検察官がみんなスーパーマンに見えた」とのこと。どれだけハードな話を聞かれたのでしょうか。かなり昔は検察官の職務は「超激務」だったようですが、最近はごく一部の例外を除いては、まあ「普通の激務」くらいではないでしょうか。なので、かなり昔の話を聞かれたのであれば、それはさすがに現状とは乖離があると思って良さそうです。

2 では、検察官にはどのくらいの体力が必要でしょうか。まずは「普通に健康であること」が望ましいようです。別に特殊なことをする必要はありません。ちゃんとご飯を食べて、しっかり寝て、少しは運動して、お酒を飲み過ぎない。タバコを吸う人もいますが、やはり少数派だそうです。特に、ちゃんと寝ることは大事です。眠いだけで能率は確実に下がります。もちろん、持病がある方は、仕方がありません。病気や怪我は、自分で回避するのが難しいものです。ただ、お酒を飲み過ぎて悪化させるとか、自分で制御できる部分は気をつけましょう。その程度のことです。

  普通に健康であれば、普通に検察官の仕事がこなせるでしょう。そして、健康度が上がれば上がるほど、任される仕事の質と量も上がっていくでしょう。不思議なもので、仕事というのは、なぜか体力の限界ギリギリのところまでやってくるのです。そういう意味では、「仕事を楽にできるように体力をつけよう」と考えても、体力の増加に合わせて仕事の強度も上がるので、楽にできる時は永遠に来ない、という面もあります。それが、検察官の仕事が「普通の激務」である一つの理由かもしれません。

3 こんな風に、体力の限界ギリギリの仕事をする中で、どうやってメンタルを保ったら良いでしょうか。一つの鍵は、「うまく考え方のバランスをとる」ことではないか、と思います。検察官が仕事をする際は、メンタルという天秤の片側には、「熱意」「モチベーション」「重圧」が乗っています。事案の真相を何とかして解明し、あるべき刑事処分を行うために、「自分がなんとかしなければ」という使命感や、ある時は上司などからのプレッシャーなど、色んなメンタル的負荷がかかってきます。困難な事件であればあるほど、メンタルの負荷も大きいです。被害者等からの期待も、メンタルへのプレッシャーの一つです。

  自分のメンタルが持つなら、この負荷を全て受け止めてもいいのです。ただ、メンタルが持つか不安を感じる時には、メンタルのもう片側に別のものを載せて、バランスをとる、というやり方があります。自分に逃げ道を用意してやる、とも言えます。それは、「自分は何も悪いことをしていない」という事実です。検察官は刑事事件の捜査に関与し、責任も重い立場ではありますが、検察官自身は、その刑事事件の中で何か悪事を働いた訳ではありません。捜査に関与することになったのも、いわば偶然です。自分にできることは、力を尽くしてやるべきですし、やらなければなりません。ただ、どうしても自分にはできないこともあります。それをやれと言われても、無理なものは無理なこともあります。そういう時に、「自分は何も悪いことをしていない。自分ができることは力を尽くしてやっている。それでも足りないというなら、そもそも自分にやらせるべきではない。」とある意味開き直れることは、メンタルを保つ上で大切なことではないか、と思います。もちろん、最初から逃げ腰で頑張りもせずに開き直るのはダメです。ただ、力を尽くしてもなお及ばない時に、メンタルダウンしてしまうくらいなら、開き直った方が全然マシです。そして、限界ギリギリまでメンタルが追い込まれる前に、自分でメンタルのバランスを上手く保てるようになることが、検察官としてやっていく上で必要なのではないか、ということです。

4 まあ、これも色んな意見のあることでしょう。「自分の逃げ道を絶ってとことんまで自分を追い込むことで、自分の殻が破れるんだ」みたいな意見もあるかもしれません。あくまで一つの参考意見です、はい。

 

 

         

刑法その6(令和5年答え合わせ)

1 では刑法の答え合わせです。例により研修誌23年10月号を頼りにしていきます。研修誌の記事は、刑法については、「設問の題意等」でポイントを5点挙げ、「答案の傾向等」でその5点について順次言及していく、という体裁を取っています。読みやすさを考えると、両者を分けずに、順次5点に触れながら中身にまで言及した方が良さそうです。なので、この記事では、「設問の題意等」と「答案の傾向等」を分けずに書いていきますね。

2 ポイントの1点目は「窃盗の着手の有無」です。事後強盗の身分たる「窃盗」該当性ということです。

  多くの方は、事後強盗の「窃盗」は窃盗の実行に着手した者のことで、乙の行為は窃盗の着手と認められる点を指摘できていたようです。ただ、実行の着手の意義を論じ、設問の事実関係を当てはめる手順を説得的に論じた答案はそれほど多くなかったとか。

  私もさらっと結論を示しただけでした。それは、本問での記述量を考えると、実行の着手の意義を詳細に論じることまで、本問では求められていないだろう、と考えたからです。むしろ、論じることで出題意図を外し、バランスを失してしまうのではないか、と思いました。うーん、ここがポイントの1つだったのか。もうちょっと認定が微妙な事実関係だったら論じたと思うのですが。実行の着手が明白な事実関係を示していながら、着手の意義を論じさせようというのは、ちょっと出題側の勝手かな、という印象です。

3 ポイントの2点目は、「暴行」が反抗抑圧に足りるか、という点だそうです。

  多くの方は、「反抗抑圧にたるもの」という解釈を示して暴行態様、周囲の状況、年齢差等の事情を丁寧に拾い、当てはめられていたそうです。一方、散見されたよろしくない答案として、「暴行と財物奪取の密接性」「傷害の発生は問題文から導けないのに、これを強引に認定して強盗致傷という結論としたもの」があったそうです。

  「密接性」は「本事例では明らかであるから、その点を詳細に論じても高い評価につながらない」と言い切っています。直前で「本事例では明らか」な実行の着手の意義を詳細に論じることを求めていたことと矛盾するように見えますね。どっちがおかしいかというと、やはり本問で実行の着手を詳細に論じさせようとしたことの方がおかしいのだと思います。

  また、傷害結果を認定した点を厳しく評価していますが、設問の事例を見たら普通は傷害結果が発生しているはずですよね。答案構成の際にも「非現実的」と言いました。おそらく、事後強盗の既遂未遂の論点を論じさせるためには、致傷結果が発生すると困る(窃盗が未遂でも致傷結果があると強盗致傷の既遂になってしまう)ので、こういう非現実的な設定にしたのでしょう。もうちょっと事例を工夫した方が良かったと思います。刃物を示して脅迫した上で緊縛するとか。

  私の答案構成は、結論を示しているだけで、事案から諸事情を拾い上げたり、当てはめをしてないので、ここはかなり厳しい評価を受けそうです。

4 ポイントの3点目は、「事後強盗の既遂未遂」について、区別の基準を示し、未遂の結論を導けるか、という点です。

  多くの方は未遂の結論を示しているものの、事後強盗の既遂未遂が窃盗の既遂未遂により決まることを指摘して当てはめをしている答案は多くなかった、のだそうです。

  これも、本事例では明白なことですから、多くの受験生は「出題意図ではない」と考えたのだと思います。そして、私の答案構成もそうでした。

5 ポイントの4点目は「甲の見張りについて、共同正犯と幇助犯の意義、区別を論じ、当てはめができているか、だそうです。

  非常に多くの方が、共同正犯について「共同実行の意思」「共同実行の事実」が必要な点は指摘できていたそうです。しかし、出題者は、更に「具体的行動、意思連絡の状況、共犯者間の関係、利害関係の有無等の要素を総合考慮して正犯意思が認められるか、丁寧な検討を期待」していたそうです。実際には、多くの答案が「見張りは重要な役割なので共同正犯」と認定しており「残念であった」と断じています。

  私の答案構成は、「共同実行の意思、事実」を書き飛ばしている一方、要素を拾った検討は出題意図に応えられています。まあ、差し引きゼロくらいの評価でしょうか。

6 ポイントの5点目は甲の共犯の錯誤についてです。

  ここは、論点に一応気づき、法定的符合説に基づく論述ができている答案が多かったそうですが、それ以上に詳しい出題意図は、研修誌では言及がありませんでした。

  私の答案構成は、今読み返すと、この論点にかなり重点を置いてボリュームを割いています。研修誌の淡白な記載を見ると、この論点はそれほど重点が置かれていなかったのでしょうか。

7 私の答案構成は、特に乙の罪責に関して、出題意図を外した部分が多いですね。共同正犯についても、理屈の部分が書けていませんし。評価としては中の下、といったところでしょうか。

  ただ、論文試験というのは、暗黙の了解として、「事実認定の結論が明白な部分は、論じる必要がない」というのがあると思っています。それは、「条文に照らして明白な事実は、解釈が問題にならない」という法律の本質的な性質から来るものだと思っています。殺人罪で「人」に該当するか問題になるのは、胎児とか脳死判定を経た人とか、事実認定だけでは解決がつかない場合だけです。そういう意味で、今回の刑法の問題は、事実認定が明白であるにも関わらず、いくつかの論点を論じさせるのが出題意図であったこと、一方で一部の論点については「本事例上明白なので論じる必要なし」というダブルスタンダードに陥っていること、という点で、悪問だったと思います。論理的に検討すれば、出題意図の通りに論点が抽出されるよう、事例をもっと練り上げてほしいところでした。

  しかし一方で、悪問であっても、試験問題であることは変わりません。「こういう悪問も出るんだ」という覚悟を持って、試験に臨まなければなりません。この問題について、乙の罪責に関してある程度解釈論を詳しく論じるのが出題意図であることを見抜くには、例えば「事例が長い割に、解釈が必要なのが甲の共犯関係しかない。もしかしたら、出題側は、明白な乙の罪責についても、ある程度解釈論を論じさせたいのか?」などと、穿った見方をすれば、できたかもしれません。ただ、それでも、乙の罪責について手厚く論じるのは、かなり勇気がいると思います。だって事実認定上問題がないんだもん。

               

 

 

 

 

 

 

 

志望動機は名誉欲と金!?

1 コメント欄に質問をいただきました。要旨を箇条書きにすると、以下のとおりです。

 ・ 最近、副検事試験を考え始めた。

 ・ 副検事の仕事内容に興味はない。

 ・ 動機は名誉欲と金。

 ・ 仕事は事務局系が好み。

 ・ 積極、消極いずれでもアドバイスを。また実例紹介を。

2 パッと読んで「あおってんのか?釣ってんのか?」と考えた私は、心が汚れているのでしょうか。でも、まあ、普通職場で聞ける質問ではないことは間違い無いでしょう。それなりにちゃんと考えてみることで、何か新たな視点が見えるかもしれません(見えないかもしれません)。なので、ちょっと書いてみましょう。

3 まず、答えやすいところから。事務局系の人が、副検事に任官するケースというのは、あります。高等科研修(幹部検察事務官になるための研修)で、検察官の講義を受けて感銘を受け、副検事試験を目指して任官した、という人もいます。また、検察事務官として、局長候補でありながら、副検事任官した人もいます。これらの人は、「事務局系の仕事も捜査、公判も両方ともできる」ということだと思います。検事でもごく稀にですが、本省でバリバリ行政の仕事をし、特捜部でバリバリ捜査をする、みたいな人がいます。要するに、優秀なので何でもできる、ということだと思います。だから、事務局系だから捜査、公判ができない、ということはないでしょう。

4 ただ、これらの人たちは、「捜査、公判に強い興味がある」人たちです。捜査、公判に興味がないのにできる人、というのは、聞いたことがないですね。それは、おそらく、捜査、公判というのが大変泥臭いもので、興味がない状態でやり切るのが大変だからなのだろうと思っています。若手の検事の中にも、こういう泥臭さを十分にわかっていない状態で任官してしまうケースがあるそうです。修習期間が短いとか、いろんな事情で、捜査、公判の泥臭さをよく見る機会が乏しかったようです。こういう若手検事は、結局最後は「もっと綺麗な仕事がしたかった」などという思いを抱き、検事を退官して大手弁護士事務所に就職したりするとか。しかし、副検事の場合は、退官してしまうと定番の再就職先、というものがありません。何とか自分で探してこないといけなくなります。また、一旦副検事に任官すると、検察事務官等に戻ることができません。副検事に任官した以上、副検事として勤め上げるか、特任検事になる以外の道がほぼないのです。ですから、副検事任官を考えるならば、興味の有無は置いておいて、少なくとも「自分が副検事の仕事を継続的にやり切れるか」をよく考えるべきと思います。まあ、普通は興味がないのにやり切るのは難しいのではないか、と思うのですが。

5 次に名誉欲が満たされるかについてです。これは人それぞれなので、「副検事に任官した!」という時点で満たされるなら、それはOKでしょう。ただ、任官した後で待っているのは、「検察官としての力量をシビアに見極められる」立場です。決裁官は、事件を配点する上で、各検察官の力量の高低や得意分野、不得意分野をシビアに見極めているそうです。そして、それぞれの力量に応じて事件を配点します。また、決裁官以外の検察官、検察事務官も、各検察官について、「どんな事件を配点されているか」を見ることによって、その検察官がどの程度の力量と評価されているのか、が分かってしまいます。そういう意味で、力量の評価が高くない検察官が、尊敬を集めるのはなかなか難しいと思います。また、尊敬を集めていないのに大きな態度で上からものを言うようになると、これはもうパワハラですね。きっと粛清されるでしょう。もし、名誉欲を満たしたいのであれば、捜査、公判の力量を磨いた上で、人格も磨く必要があるのではないでしょうか。

6 最後は「金」ですね。副検事の俸給が、他の公務員に比して良いことは間違いありません。その俸給のために、他のすべてを我慢できるなら、それもありかもしれません。ただ、こういう話もあります。副検事ではなく、検事任官の話ですが。

  弁護士の人数が増え、司法修習生も弁護士としての就職が簡単ではない状態が続いていました。そこで、中には「検事もまあまあ俸給もらえるし、検事任官もいいんじゃないか?」などと考える修習生もいたりするそうです。捜査、公判に興味があるならまだ良いのですが、あまり興味がないけど、待遇が良いから、という理由で検事任官を視野に入れるケースもあるそうです。ただ、そういう修習生は、結構早い段階で任官を諦めることが多いとか。検事が普通に働いている姿を見て、「働き方がハードすぎる」と感じるようです。

  副検事の仕事も、いくつもある身柄事件について、次々と勾留満期が迫る重圧、着々とたまる在宅未済件数について、目を光らせる決裁官からの重圧など、楽なものではないでしょう。副検事の俸給等の待遇は、その対価として得られるものです。決して楽に手に入るものではありません。副検事の仕事内容に興味がない人は、「金」が、自分が興味のない仕事をする負担に見合うかどうかを、よく考えるべきと思います。

7 事務局系の仕事が好みなのであれば、検察事務官として偉くなる道を選ぶのが自然なように思います。人間、自分が得意なことを伸ばす方が、幸せに近づけると思いますよ。

8 そして、図らずも今回の記事で、副検事任官の厳しい側面が浮き彫りになってきたようです。特に他官庁勤務の方は、この記事を見て腰が引けるかもしれません。ですが、他官庁勤務で副検事試験をお考えの方は、捜査、公判に興味をお持ちの方と思います。興味がある方なら、この記事に書いたような困難も乗り越えられると思います。応援しています。

     

     

 

 

 

 

民法その9(令和5年答え合わせ)

1 予想外の債権法からの出題について、研修誌23年10月号による答え合わせです。

2 まずは「設問の題意等」から。

  「債権譲渡の対抗要件に関する基本的知識・理解と、関連論点として二重譲渡の劣後譲受人への弁済につき民法478条を適用する根拠の論証、当てはめ能力を問う」と淡々としたものです。

  問1は債権の二重譲渡において、譲受人間の優劣を決する基準についての問題であり、判例は到達時説であると指摘しています。また、同時到達の場合は、譲受人間に優劣はなく、債務者はどちらかに弁済すれば、他方には債務消滅を主張できるのが判例とも指摘しています。まあ、確かに基本と言えば基本なんですが。ただ、これまで散々総則や物権から出題しておいて、今更債権法について「基本でしょ」と言われても、やはり騙し討ちの感は否定できません。それでも、物権でも問題となる対抗要件の部分を取り上げているあたりが、かすかに残された配慮かもしれません。

  問2は、債権の二重譲渡について、どの立場でもCが譲受人として優先することを原則とし、例外的に劣後譲受人Dに弁済した債務者Aが保護される場合があるか、民法478条(譲受権者としての外観を有する者に対する弁済)の適用の可否を問題とするそうです。適用を認めるのが判例であり、これが出題側の望む回答かと。ただ、当てはめとしては、本問の事情下では、Aに無過失までは認められず、Aは保護されない、という結論を出題側は望んでいたようですね。うーん、こんな論点あったんですね。判例を知らずにこの条文を引っ張り出すのは、なかなか勇気が要りそうです。というのは、そんなこと言い出したら、結構色んな条文を引っ張って来られるので、キリがなさそうだから。「勝手に的外れな論点をでっち上げてないか?」ときっと不安になると思うのです。後で出てきますが、478条を指摘できた答案は、「相当少なかった」ようです。やはり、みなさん債権法の勉強は、あまり重点を置いていないようです。債権法勉強してほしければ、もっと頻繁に出題してもらわないと、勉強の労力に見合いませんよね。そんなこと言って、出題が増えたら勉強することが増えて、大変なんですが。

3 次に「答案の傾向等」と答え合わせです。まずは問1から。

  「到達時説を理由とともに論じられていた答案は3分の1にも満たず、判例の立場に言及されている答案はごくわずかであった。」とのこと。私の答案構成は、到達時説と理由には触れていますね。判例には言及しませんでしたが、知ったかぶりして違ったらまずいので、口を拭っていたのです、はい。3分の1には入ったかな、というところです。

  また、同時到達の場合について、「到達時説を採りつつも、同時到達の場合に、差したる理由もなく確定日付(の先後)によって決すべきであるとする答案が多く目についた」そうです。私の答案構成は、大した理由づけはされていませんが、判例の立場をうまく踏襲しています。正解とされるルートを辿れた、ということ自体で、生き残った感じです。

  なお、到達時説の根拠として、意思表示の到達主義に言及した答案が散見されたそうですが、「対抗要件は意思表示の問題ではない」と一刀両断です。相変わらずの厳しさです。

4 次に問2です。

  478条の適用の可否という論点に気付いた答案は「相当少なかった」そうです。気付いた「相当少ない」人は、どれだけ勉強しているのでしょうか。恐ろしや。

  そして「民法の基本は利益衡量であると言っても過言ではなく、たとえ民法478条の適用に関して言及がなかったとしても、Aが保護される場合について、利益衡量をしながら規範を定立し、与えられた事実関係から考慮要素となるべき事情を丹念に拾って適切に当てはめられているものについては一定の評価をした」とのこと。やはり利益衡量最強です。私の答案構成は、規範の定立が曖昧ですが、利益衡量は丁寧にしてあるとおもいます。なんせ、これまで民法はずっと足して2で割って乗り切ってきたのですから、お手のものです。まあ、それなりの点数はついたでしょう。出題側としては、478条への言及があまりに少なかったことから、当初の採点基準だと、みんなほとんど点がつかなかくて、採点基準の目線を下方修正して、ちゃんと受験生の間でそれなりに差がつくように調整したものと思われます。だから出題が難しすぎるんだって。

  なお、Aの保護に際して、返事をしなかったCの帰責性を論じた答案については「Aをどのような場合に保護するかが問題となっており、考慮要素として重要なのは、Aに過失があるか、、、Aがなすべきことをしたか、、、であると考えられ、Cの帰責性の有無によって結論を導くことには疑問がある」そうです。まあ、原則Cの勝ちなところを、例外的にAを保護するわけですから、Cに何か義務を負わせるのは、ちょっと違うんじゃない?ということと思います。

5 案外「答案の傾向等」が短かったのは、やはり応試者の出来があまり良くなく、さすがに辛口のコメントを重ねられなかったのかな、と思いました。

  こういう「みんなが分からない問題」というのは、実は法律家としての力の差が出やすいところだと個人的には思っています。ただ、一方で、副検事試験においては、そのような力までは求められておらず、地道に勉強を重ねることが求められていると感じています。そういう意味で、この民法の問題は、出題側が知識に基づいた論述を望んでいたものが、想定外に「知らない問題を考える力」の高低で差がつく問題になってしまったものと思いました。

  私の答案構成は、まあ一応合格答案でしょう、多分。民法でちゃんと答えられたのは、初めてな気がします。たまにはこういうこともないと、やってられませんって。