副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

検察庁の雰囲気

1 他官庁の方から、どんな環境で仕事をしているのか、検察庁の雰囲気を教えてほしい、という質問をいただきました。いつも通り、タイムラグは勘弁して下さい。

  いくつか具体的な視点が質問にあったので、それに沿ったり脱線しながらいきます。

2 検察官と検察事務官の関係性について

  まず、検察官と立会事務官の関係ですが、これは、「お互いにできないことを補完し合いながら事件に取り組む関係」というのが本質だろうと思います。もちろん、検察官の法律的な能力を事件に適用し、責任も検察官が持ちます。しかし、検察官は1人では仕事ができません。検察庁という組織全体の助けを借りないといけない場面が沢山あります。事件受理処理、証拠品取扱等は検務部門、出張、参考人旅費等は会計課、各種トラブル対応は総務課など。そして、これら検察庁内の各部門との連絡、対応を捜査官室(昔の刑事事務課)がしてくれ、特にその窓口が立会事務官なのです。検察官自身がこれらの対応をやっていたら、事件に取り組む時間がなくなってしまいます。立会事務官が捜査官室と共にこれらの部分を担ってくれるからこそ、検察官は事件に取り組む時間を持てるのです。その他、取調べへの立会、事件決裁の準備、検務電算システムへの登録等、事件に直接関わる事項もやってくれます。もちろん、採用間もないなど、不慣れな立会事務官の場合には、できないことも多いです。その場合は、捜査官室と検察官からのフォローで、事件に対応するのです。優秀な方が立会についてくれると、検察官のパフォーマンスはものすごく上がります。ただ、まだ修行中の立会事務官がつくことももちろんあります。心がけが悪い検察官は、ここで立会についての不満を漏らすことも、残念ながらあるのです。ただ、そういう検察官自身も、まだ修行中だったり、自分がかつて全く至らない検察官だったことを忘れていたりするのです。また、人間ですから、検察官と立会の相性の問題もあります。検察官と立会の関係は、常に大事な問題です。

  検察官と立会以外の検察事務官との関係ですが、年配の幹部事務官を含めて、検察官のことを大事にしてくれます。まあ、副検事の場合には、かつて自分の先輩だった検察事務官の方が役所にいっぱいいたりもするので、そこの関係は、本当に人それぞれの部分もあるようです。ある副検事が先輩事務官と飲んだ際、ちょっと多めに支払おうとしたら、「なめんな!」と先輩から怒られた、と聞いたこともあります。

3 副検事と検事の関係

  多くの副検事の方は、ベテランを含めて、若手検事に至るまで、検事に対して丁寧に接っしておられます。なかには、ワイルドなベテラン副検事が新任検事をワイルドに可愛がることもあり、これはこれで良いことだと思います。

  仕事面では、日々発生する一般刑事事件について、副検事と検取事務官が頑張って沢山対応してくれれば、その分、検事は複雑困難な事件に力を注ぐことができる、という構図があります。ただ、検事も複雑困難な事件に対応できるものばかりではありません。中には、逆に検事が一般刑事事件を頑張り、優秀な副検事の方に複雑困難な事件で頑張ってもらうこともあるでしょう。そういう意味で、検事と副検事の違いはありますが、「検察官としての力量」という物差しは共通している部分もあります。

  また、交通事件については、副検事の方は強いです。検事でまともに交通事件の捜査ができるのは極一部にすぎません。この部分は、検察事務官出身の副検事の独壇場です。みんな、検取事務官の経験があるため、交通違反や交通事故を取り扱った経験値が膨大なのです。

  そういう意味では、他官庁の方も。それぞれ司法警察員として取り扱う分野は大事にしてほしいと思います。その分野は明らかに自分の「強み」だからです。また、刑事事件ではなくとも、所属庁と検察庁に接点のある分野に詳しいことは、副検事になってから生かされるでしょう。

4 次席検事など、幹部との関係

  まあ、これは本当に「相手による」ものですね。最近の傾向として、ハラスメントやワークライフバランスが注目されるようになり、それなりに部下に気を遣う幹部検察官が多くなったようです。ただ、世の中の傾向が変わっても、実際に人が入れ替わるためには長い時間がかかるので、時代に追いつけていない幹部検察官もゼロではありません。運悪くそのような幹部検察官に当たっても、別に1対1で相手をするわけではありませんから。周りの検察官と相談したりしながら、うまく距離をとってやり過ごしましょう。

  一方、良い幹部検察官に仕えることができれば、きっと楽しく充実した検察官ライフを送ることができるでしょう。こういう部分で「運が良い」というのは、とても大事なことだと思います。

5 勤務時間、残業時間について

  今は、1日7時間45分働けば、出勤時間を30分刻みで選べます。8時半から9時半出勤が多いですが、10時出勤という人もいたりします。

  残業は、忙しければあります。なお、副検事は管理職なので、残業代は出ません。最近は、過労防止のため、検察官でも残業時間を管理されており、一定時間以上の残業があった場合、精神科医のカウンセリングが義務付けられる等の制約がされるようになりました。実際にも、本当に忙しい時は残業してハードに働かなければなりませんので、逆に通常営業時は定時で帰れるくらいでないと困りますよね。普段からギリギリ一杯残業しているようでは、いざという時に踏ん張りが利きませんから。

6 ドラマで出てくるような、みんなが集まる大きな部屋があるのか

  ドラマでは、各検察官が執務する個室を持ち、さらにみんながサロンみたいに集まる部屋がありますね。官庁ですから、そんなゆとりたっぷりのスペースがある建物は、残念ながら建てられません。執務スペースは、大きく分けて「個室執務」と「共同執務室」があります。

  「個室執務」は、小規模な地検や支部に多いです。そもそもハコ(建物のこと)に大きな部屋がほとんどなく、検察官は個室に勤務し、そこで取り調べもします。ただ、個室の場合、検察官が心得のない者だったり、検察官と立会の相性が悪いと、大変なことになります。周りからみえづらいため、表沙汰になるときにはかなり状況が深刻になっていたりします。また、検察官同士が顔を合わせるには、お互いの部屋を行き来する必要があります。先輩検察官に事件の相談をするため、廊下を飛び回って色んな部屋を若手検察官が訪れることを昔は「廊下トンビ」と呼んでいました。

  「共同執務室」は、大規模から中規模くらいの地検でよく導入されています。検察官と立会が缶詰にならず、関係がこじれそうでも傷が浅いうちに周りが気付きます。また、先輩検察官が部屋にいるので、相談しやすい(立会も同じ)メリットがあります。なお、取り調べは、別途共有で使う取調室が複数確保されており、予約の上でそちらで取調べをするのが一般的です。一時は、共同執務室が良い、ということで、個室執務を共同執務室に変更することが流行りました。ただ、共同執務室内の相性の問題で雰囲気が悪くなることや、新型コロナウイルス蔓延の際、個室執務より共同執務室の方が接触の機会が増える、といった問題点も見えて来ました。また、集中して記録を読み込みたい時に共同執務室だと色々気が散る、という意見もあります。

  なので、個室執務と共同執務室、どちらが良いと決められるものではなさそうですね。

7 結構長くなりましたので、今回はこの辺で。またご質問、お待ちしています。