副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

民法その9(令和5年答え合わせ)

1 予想外の債権法からの出題について、研修誌23年10月号による答え合わせです。

2 まずは「設問の題意等」から。

  「債権譲渡の対抗要件に関する基本的知識・理解と、関連論点として二重譲渡の劣後譲受人への弁済につき民法478条を適用する根拠の論証、当てはめ能力を問う」と淡々としたものです。

  問1は債権の二重譲渡において、譲受人間の優劣を決する基準についての問題であり、判例は到達時説であると指摘しています。また、同時到達の場合は、譲受人間に優劣はなく、債務者はどちらかに弁済すれば、他方には債務消滅を主張できるのが判例とも指摘しています。まあ、確かに基本と言えば基本なんですが。ただ、これまで散々総則や物権から出題しておいて、今更債権法について「基本でしょ」と言われても、やはり騙し討ちの感は否定できません。それでも、物権でも問題となる対抗要件の部分を取り上げているあたりが、かすかに残された配慮かもしれません。

  問2は、債権の二重譲渡について、どの立場でもCが譲受人として優先することを原則とし、例外的に劣後譲受人Dに弁済した債務者Aが保護される場合があるか、民法478条(譲受権者としての外観を有する者に対する弁済)の適用の可否を問題とするそうです。適用を認めるのが判例であり、これが出題側の望む回答かと。ただ、当てはめとしては、本問の事情下では、Aに無過失までは認められず、Aは保護されない、という結論を出題側は望んでいたようですね。うーん、こんな論点あったんですね。判例を知らずにこの条文を引っ張り出すのは、なかなか勇気が要りそうです。というのは、そんなこと言い出したら、結構色んな条文を引っ張って来られるので、キリがなさそうだから。「勝手に的外れな論点をでっち上げてないか?」ときっと不安になると思うのです。後で出てきますが、478条を指摘できた答案は、「相当少なかった」ようです。やはり、みなさん債権法の勉強は、あまり重点を置いていないようです。債権法勉強してほしければ、もっと頻繁に出題してもらわないと、勉強の労力に見合いませんよね。そんなこと言って、出題が増えたら勉強することが増えて、大変なんですが。

3 次に「答案の傾向等」と答え合わせです。まずは問1から。

  「到達時説を理由とともに論じられていた答案は3分の1にも満たず、判例の立場に言及されている答案はごくわずかであった。」とのこと。私の答案構成は、到達時説と理由には触れていますね。判例には言及しませんでしたが、知ったかぶりして違ったらまずいので、口を拭っていたのです、はい。3分の1には入ったかな、というところです。

  また、同時到達の場合について、「到達時説を採りつつも、同時到達の場合に、差したる理由もなく確定日付(の先後)によって決すべきであるとする答案が多く目についた」そうです。私の答案構成は、大した理由づけはされていませんが、判例の立場をうまく踏襲しています。正解とされるルートを辿れた、ということ自体で、生き残った感じです。

  なお、到達時説の根拠として、意思表示の到達主義に言及した答案が散見されたそうですが、「対抗要件は意思表示の問題ではない」と一刀両断です。相変わらずの厳しさです。

4 次に問2です。

  478条の適用の可否という論点に気付いた答案は「相当少なかった」そうです。気付いた「相当少ない」人は、どれだけ勉強しているのでしょうか。恐ろしや。

  そして「民法の基本は利益衡量であると言っても過言ではなく、たとえ民法478条の適用に関して言及がなかったとしても、Aが保護される場合について、利益衡量をしながら規範を定立し、与えられた事実関係から考慮要素となるべき事情を丹念に拾って適切に当てはめられているものについては一定の評価をした」とのこと。やはり利益衡量最強です。私の答案構成は、規範の定立が曖昧ですが、利益衡量は丁寧にしてあるとおもいます。なんせ、これまで民法はずっと足して2で割って乗り切ってきたのですから、お手のものです。まあ、それなりの点数はついたでしょう。出題側としては、478条への言及があまりに少なかったことから、当初の採点基準だと、みんなほとんど点がつかなかくて、採点基準の目線を下方修正して、ちゃんと受験生の間でそれなりに差がつくように調整したものと思われます。だから出題が難しすぎるんだって。

  なお、Aの保護に際して、返事をしなかったCの帰責性を論じた答案については「Aをどのような場合に保護するかが問題となっており、考慮要素として重要なのは、Aに過失があるか、、、Aがなすべきことをしたか、、、であると考えられ、Cの帰責性の有無によって結論を導くことには疑問がある」そうです。まあ、原則Cの勝ちなところを、例外的にAを保護するわけですから、Cに何か義務を負わせるのは、ちょっと違うんじゃない?ということと思います。

5 案外「答案の傾向等」が短かったのは、やはり応試者の出来があまり良くなく、さすがに辛口のコメントを重ねられなかったのかな、と思いました。

  こういう「みんなが分からない問題」というのは、実は法律家としての力の差が出やすいところだと個人的には思っています。ただ、一方で、副検事試験においては、そのような力までは求められておらず、地道に勉強を重ねることが求められていると感じています。そういう意味で、この民法の問題は、出題側が知識に基づいた論述を望んでいたものが、想定外に「知らない問題を考える力」の高低で差がつく問題になってしまったものと思いました。

  私の答案構成は、まあ一応合格答案でしょう、多分。民法でちゃんと答えられたのは、初めてな気がします。たまにはこういうこともないと、やってられませんって。