副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

地検支部と庁務掌理検察官

1 新年度が始まり、おそらく大半が公務員であろう読者の皆さんも、それぞれ新しい部署で頑張っておられることと思います。

  公務員は、仕事の幅が広いですからね。何に当たるかは運です。検察庁だけでも、事務局、検務、捜査公判部門は全然仕事の中身が違います。今は、タイミングによっては庁舎新営の業務に当たる可能性だってあります。自分の家を建てるのだってあれこれ考えるの大変なのに、何十億円もの庁舎を建てろと言われたって、そんな仕事したことある人、ほとんどいないでしょう。でも、これを地検の会計課が中心になってやらないといけないんです。「新庁舎が建つまで帰ってくるな!」と言われて広域異動に出た方もおられました。

2 その点、副検事は、まあ捜査公判をやることには変わりないので、異動があってもそこまで大きく業務内容が変わることはありません。せいぜい、一般刑事か交通か、という事件の種類の違いくらいです。極稀に東京区検公判部、みたいな極めて特殊かつハードな異動もありますが、そこに行くということは「極めて優秀」と評価されてしまった訳ですから、まあ諦めるしかないですね。

3 他に、ちょっと変わってて、かつ業務内容が少し特殊なものとして、「地検支部の庁務掌理検察官」があります。地検支部には、常駐の支部長検事がいるところといないところがあります。支部長検事がいれば、マネジメントは全部支部長がやってくれます。しかし、支部長検事が常駐しておらず、副検事だけが常駐している地検支部というのも、結構あります。この場合、支部常駐の副検事が「庁務掌理検察官」が指名され、マネジメントを担当することになります。支部長代行みたいなイメージですね。

  多くは副検事1名、検察事務官5名前後くらいの小規模なところです。ただ、中には副検事2名、検察事務官10名前後みたいな支部もあります。

  支部というのは、本庁から遠いからこそ支部があるので、本庁の管理が行き届かないことが多いです。そういうところの庁務掌理検察官は、いわば一国一城の主みたいなもんです。だからこそ、好き勝手するようなおかしな人には任せられないのですが。

4 ちなみに、本当に地検支部の庁務掌理検察官になった時に心に留めておくべきことが一つあります。それは、「全部自分で解決しようとしない」ということです。検察の仕事というのは、時に大きなトラブルもあります。そして、それが本庁でだけ起こるとも限りません。支部でだって十分起こりうるのです。そんな大きなトラブルを、支部だけで解決しろなんて誰も言いません。すぐに本庁に助けを求めていいんです。というか、地検支部の庁務掌理検察官の最も大切な仕事は、「やばいときに『やばいです』と本庁の次席検事に電話をすること」です。あとは、次席検事が、やばさを見極めて、支部対応でよろしくなのか、本庁で引き取るのかを判断してくれます。一方、庁務掌理検察官が気が付かず、本庁に助けを求めなかった「やばいこと」は、間違いなく爆発します。あとのことは本庁が引き取ってくれるでしょうが、「もうちょっと早く言ってくれれば、、、」というやつですね。

5 それ以外にも、支部職員同士の人間関係とか、証拠品となっている現金等の管理とか、問題の種は色々あります。庁務掌理検察官、頑張れ!

 

 

   

研修教材の購入方法

1 前回の記事で、研修教材の入手の仕方をどうしたものか、などと書きました。

  そうしたところ、読者の方から、入手方法について、情報提供をいただきました。ありがとうございます。皆さんに情報共有させていただきます。

2 まず、いきなり誌友会に電話をかけるのだそうです。

  ちなみに、研修誌の裏表紙には、誌友会事務局研修編集部の連絡先として、047-380-5211と電話番号が乗っていますが、ここのことでしょうか。どなたか、かけてみたら結果をコメントして下さい。

  そして、先方に事情を話すと、先方の担当者が、在籍確認として、職場のこちらの自席に電話をかけてきます。在籍が確認されると、メールか郵送か何かで、書籍のリストが送られてきます。リストから購入したい書籍を伝えると、振込用紙が送られてきます。これで振り込みをすると手続き完了で、指定先に書籍が届くそうです。

3 どうやら、ちゃんと公務員だと確認できないと、購入できない仕組みのようですね。また、職場に電話がかかってくるようであり、受験を職場に内緒にしている人には、ややハードルが高いやり方かもしれません。とはいえ、これで研修教材が五科目分揃うなら、何とかして手に入れたいものですね。

4 なお、情報提供とは別に、こんなネットの書き込みを見つけました。

「研修教材が欲しくて、一般人として法務総合研究所に電話したところ、『一般の人が入手する方法はない。情報公開によるしかない。』と言われた。」

  どうやら、公務員と確認できないと研修教材を売ってもらえないようです。せっかく作ったなら、広く売ればいいのに、と思うのですが。法律の入門書として、手頃な分量でもありますし。なお、情報公開請求は、ちょっと非現実的ですよね。

 

 

   

 

憲法その10(勉強の仕方)

1 かつて、憲法の勉強法的な記事を書いたことがありました。

 

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

  これらの記事は、副検事試験の中身をよく知らないまま、旧司法試験の憲法を念頭に書いたものでした。ただ、その後3年分の副検事試験憲法の問題を解いてみて、「旧司法試験とは別物だな」と強く感じています。

  具体的には、「最高裁判例を超重要視している」ということです。判例を正面から問う問題もありましたし、そうでなくとも、最高裁判例があるところをピンポイントで問う問題もありました。

2 今回、これらの経験を踏まえて、改めて副検事試験の憲法の勉強の仕方を考えてみたいと思います。

  判例重視と割り切れば、それはそれで勉強の仕方はある程度見えてくると思うんです。要するに、勉強を進める上で、まずは当該項目の判例に関することを先に勉強すれば良いわけですから。憲法って、勉強することが結構無限定にあるんです。ただ、その中で判例に焦点を絞れる、というのは、ある意味分かりやすいと思います。勉強の対象が明確になる、というのでしょうか。

3 とはいえ、憲法判例も結構な数があります。これをさらに絞るために、もっとも有用と思われるアイテムが法総研出版の「研修教材 憲法」です。副検事試験の「出題の題意と答案の傾向等」を掲載している研修誌も、憲法については、よく「研修教材憲法にも判例の載っているところ」という言及があります。研修教材憲法をベースに、そこに出てくる判例を、最高裁判例データベースで読んでいけば、着々と勉強が進んでいくような気がします。

4 ここでの問題は、「研修教材憲法」が、検察事務官以外の方には、容易に手に入らなさそうなことです。どうやら、この教材は、出版する際に検察庁内で大々的に売り出すものの、その後は購入が難しいようなのです。それでも、検察事務官の場合は、検察庁の資料室に何冊もあるので、それを借りたりして内容を知ることができます。

  しかし、他庁の方は、どうやってこれを手に入れることができるのでしょうか。なお、メルカリなんかを見ると、研修教材を不当に高い値段をつけて売っている人がいるようです。どういう人がどうやって手に入れたのか知りませんが、こういうのに手を出してほしくはありません。一定の大学図書館には、研修教材を置いている大学もあるようですが、誰もが利用できるのかは、ちょっと不明です。国会図書館にはあるのでしょうが、ちょっと大仰ですよね。知り合いの検察庁職員がいるなら、ちょっとお願いして貸してもらうとかが、現実的なところでしょうか。正面から検察庁の総務課に連絡して、貸してもらえるものか否か、私には分かりません。もし、「こうやったら手に入りますよ」みたいな方法が見つかったら、是非コメント欄に書き込んでください。

5 他には、憲法判例百選なんかは、重要判例を絞り込んでいる、という点で、参考になるかもしれません。解説もついていますし。ただ、百選と言いながら、分冊になっているようで、「100じゃないじゃないか!」という気もしています。やはり何とか研修教材憲法を手に入れるのが近道かもしれません。

 

 

   

 

警察関係の副検事志望(コメントへの回答)

0 令和6年度の副検事試験日程が公開されましたね。

  筆記試験が7月1日(月)、口述試験が10月7日(月)及び8日(火)とのこと。

  法務省公式サイトの中の検察官特別任用分科会議事録の内容ですから、間違いはないでしょう。

1 コメントでご質問をいただきました。警察関係の方で、副検事選考を考えておられるそうです。周りには、同じようなことを考えている人がいないとのこと。そこで

     ①  警察関係の読者はいますか?

     ②  求められる論文レベルはどのくらいでしょうか?

       市販の参考答案AかBレベルでないと難しいのでしょうか?

というご質問でした。

2 読者の方で、他に警察関係の方がおられるかは、すみませんが分かりません。少なくとも、私は存じ上げません。というのは、コメントを下さる方は、結構現在の所属を教えてくださる方も多いのですが、そうではない方もおられます。また、私としてはコメントは楽しみにしているのですが、ブログを読んでは下さっても、コメントとなるとちょっとハードルが高いようです。

  なお、令和5年度の副検事選考受験案内には、平成30年度から令和4年度までの警察区分の受験者は、5、5、8、4、4名とのことです。令和4年の全国の警察官が26万人ですから、割合としてはかなり少ないですね。まあ、そもそも受験資格が警部以上とかなり厳しいので、やむを得ないところもありますが。

  ついでですが、副検事選考受験案内その他の資料については、「弁護士山中理司のブログ」中に「副検事の選考に関する文書」という項目があり、そこに色んな資料が掲載されています。どこから入手しているのか、大変不思議ではあるのですが。

3 求められる論文レベルについては、なかなか分からないですよね。司法試験の場合は、需要も多いので予備校がいくつもあり、答案練習会みたいな有料講座もいくつもありますが。副検事選考は、受験者が120人から150人くらいと限られているので、予備校とかないですから。しかも、副検事選考試験と司法試験、予備試験は、出題形式が結構異なるため、代用として使うのもちょっとやりづらい、というのがあります。

  ただ、市販の参考答案を見る際には、気をつけた方が良い部分があります。こういう参考答案は、「学問的な正しさ」に重点が置かれがちで、「実際に本番で書く答案」とは結構かけ離れたものが多い、ということです。昔、司法試験予備校で、参考答案が作られる過程を見たことがありました。やはり、お金を払ってもらって売るものなので、学問的に間違いがあってはならない、という意識の下で作成されます。そのため、試験時間を度外視して、文献を調べるなどした上で、購入者から「間違っている」等の指摘を受けないよう、丁寧な論述による参考答案が作成されます。これを読んで「こういう答案を書けるようになろう」と目標を立てて勉強しようとすると、行き着く先は「学問的に正しい論述を覚える」ということになりがちです。これでも合格にたどり着くとは思います。ただ、そこまでしなくても合格レベルには達すると思われ、勉強法としてはちょっと遠回りかなと思います。実際の試験では、もっと砕けた表現ぶりでも合格レベルに達するのではないか、と思っています。

  じゃあ、どうやって論文のレベルを知るのか、ですが、知り合いの検察官に頼んで見てもらう、というのが現実的な対応でしょうか。弁護士や裁判官でも良いのですが。それから、地方検察庁によっては、内部で検察事務官を対象として論文答案の添削等をしているところもあります。知り合いの検察庁関係者に「誰か答案とか見てくれる人いないかな?」とか聞いてみると、もしかしたら論文添削に混ぜてくれることもあるかもしれません。

  なお、法務省が主催している研修について、過去記事があります。

 

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

  この研修は、かなり勉強が進んで、翌年かその次の年くらいに合格を狙うくらいの人が受けるものです。

  他官庁の方が受講するのは、様々なハードルはあると思います。ただ、警察関係の方が受講された例を聞いたことがあるので、不可能ではないと思います。当然所属先に転職希望が発覚するので、背水の陣も敷かれ、合格するしかない状況に自分を追い込むことになるでしょう。うーん、やはりハードル高いですね。

 

 

 

      

検察事務官の一斉考試

1 2月下旬に、検察事務官の一斉考試があったようです。

  他省庁の方のために簡単に説明すると、検察庁法によって、検察事務官について年に1回試験を実施することになっており、マルバツのテストが実施されます。憲法民法、刑法、刑事訴訟法、検務事務の5科目で、1科目25問100点満点だったはずです。一斉考試の過去問や解説を掲載しているブログを見たこともあるので、興味のある方は探してみてください。

2 どうして一斉考試の話題に触れたかというとですね。急に「一斉考試」に関する記事へのアクセスが増えたんですよ。一斉考試の応試を目の前にして、検索サイトに「検察事務官 一斉考試」とか入力して検索した若手検察事務官がたくさんいたんだろうな、などと想像しました。多分その通りなんだろうな、と思います。ただ、このブログでは、一斉考試自体を取り上げて記事にしたことは、なかったと思うんですよね。多分ですが。なので、せっかく期待してブログを見にきてくれた方をがっかりさせたのではないかと思いまして。もう一斉考試は終わってしまったけれども、良い機会かと思い、記事にしてみることにしました。

3 勉強法は、先輩から聞いたりしているでしょうから、軽く触れるくらいにしましょう。よく言われるのは、各種研修で使用する、各科目の「研修教材」を読むことでしょう。ただ、この「研修教材」は、要領よくまとめられているものの、それでも通読するのは結構大変です。また、一斉考試に限っては、法律の全体像が頭に入っていなくても、出題されている分野の限定的な知識があれば解ける問題が多いです。なので、特に一斉考試で出題される分野に勉強の対象を絞ることが、点数を稼ぐ上では効率的です。そして、どうやって絞るかというと、1つは「過去問で良く出題される分野」、そして「『研修』誌掲載の若手検察事務官向け法律講座で取り上げられている分野」が手がかりです。特に、後者の研修誌は、かなり有力です。時間がなければ、これだけを直近のものから遡って読んでいく、というのが即効性が高いように思います。

4 また、こういう記事には、チートなやり方を求める方も多いと思います。都市伝説としては、「マルよりバツの方が正解のことが多い」というのがありますが、まあどうでしょうかね。基本的に、チートな方法というのは、試験には存在しません。なぜなら、それが広まった時点では、試験を作る側も、チートな方法が通用しないように試験を作り変えてしまうからです。

  なので、ここで書くチートな方法も、広まると作問側に対応される可能性が高いことは承知しておいてください。

  かつて、ある人が編み出した刑法に関するチート技に「犯罪が成立するように、刑事責任が重くなるようにマルバツをつける」というのがありました。つまり、犯罪の成否が問題になるなら成立するように、2つの罪名のどちらが成立するかならより重い罪となるように、マルバツをつけるのです。5年分くらいの過去問で、このやり方を機械的に当てはめて検証したところ、4年分はほぼ平均点が取れ、あとの1年分も平均点に2問分(8点)くらい足りない程度だったそうです。今はどうか知りませんよ。自分で検証して、自己責任で使うかどうか決めてください。

5 このやり方が通用するのは、検察という仕事の性質が関係しているように思います。決して何でもかんでも重く処罰すれば良い訳ではありません。ただ、特に捜査を進める際には、まずは有罪立証、より重い犯罪の成立を頭に置いて、その証拠の有無を検討する、というやり方が合理的です。というか、そうしないと、「最初から有罪立証を諦める」「最初から重い罪名の立証を諦める」ことになってしまうからです。こういうことが、一斉考試の刑法の出題にも関係しているのかな、と思っています。

  なお、例外がありまして、「責任能力」の分野に限っては、このチート技は通用しません。先ほどの検証で平均点にいかなかった年は、責任能力の出題があった年です。

  また、同じチート技が刑事訴訟法にも通用しないか検証したところ、刑事訴訟法には全く通用しなかったと聞いています。

6 私の知る限り、このチート技は、まだ(執筆時点では)あまり知られていないようです。

  ただ、チート技にだけ頼るのではなく、ちゃんと勉強して自力で解ける範囲を増やしていくのが大切と思います。そうやっても分からない問題にぶつかった時に、初めてチート技の出番となるべきと思います。

7 また、副検事試験を目指すようになったら、一斉考試の勉強法だけでは通用しません。マルバツと論述という解答形式の違いは、求められるアウトプット能力に極めて大きな差があります。また、知識、理解の深さが伴わないと、そもそも論述する内容を組み立てることができません。あくまで、この記事に書いてあることは「一斉考試を目の前にして心が折れかかっている若手検察事務官向け」の対症療法です。悪しからず。

  そして、一斉考試が終わったばかりの掲載、済みませんでした。来年になったら、きっと書くのを忘れるだろうな、と思いまして。重ねて悪しからず。

 

 

     

司法試験の合格点

1 副検事試験ではなく、司法試験の話ですが。「今の司法試験は、平均点より下でも合格する。」という都市伝説的な噂を聞きました。合格率が40%行かないようなイメージを持っていたので、「そんなことあるのか?」という疑問が湧きました。なので、確認してみましょう!

2 法務省のホームページに、司法試験関係のデータが色々載っています。これを参照しながら、確認したいと思います。

  令和5年の司法試験は、採点対象者(全科目受験した者)が3897人、合格者が1781人です。計算すると、合格割合は約45.7%ですね。イメージしていたより多いです。念のため、出願者の4165人と合格者の割合を計算しても、合格率は約42.8%でした。こうしてみると、年を経て段々と合格率が上がってきているのかもしれません。ただ、法科大学院の導入当時に言われていた合格率70〜80%という数字には遠く及びませんね。

  それでも、半分以上は不合格になる試験です。平均点より低くては、合格出来なさそうに感じます。

  また、気になる数字として「途中欠席31人」というのがありました。これは、試験を受け始めたけど、途中で(多分諦めて)帰った、ということですよね。結構な人数だと思います。長い時間かけて勉強して試験の準備をしてきたのに、途中で帰ってしまう気持ち、というのは、なかなか推しはかるのは難しそうです。

3 そして、点数関係ですが、どうやら司法試験は短答式と論文式の点数を合算して合否を判定するようですね。総合点が最高約1220点、最低約440点、平均約813点、だそうです。ところが、合格最低点が載っていません。代わりに点数分布が載っているので、ここから、合格者の人数である1781人を手がかりに見ていきましょう。

  1位が1220点、10位が1161点、100位が1056点、500位が956点、1000位が876点、1500位が804点、1781位が770点でした。なお「位」と書きましたが、正確には累計人数ですので、「当該点数以上を獲得した総人数」というのが正確なところです。

  ちなみに平均点である813点は、1443位になります。合格するだけなら、平均点で余裕合格です。

4 何でしょうかね、これ。ちゃんと分布図をグラフにしないと正確なところは分かりませんが、多分、グラフが偏っていて、中央値が平均点より結構低いところに来ているのでしょう。綺麗な正規分布なら、平均点と中央値はほぼ重なります。合格者の人数は全体の半分より少ないのですから、それにもかかわらず合格点が平均点より低い、というのは、平均点より高い領域で、狭い範囲に多くの人がひしめき、かつ、平均点より低い領域で、幅広く人が分布している、という状態が予想されます。、、、これあってますかね?要するに、とことんできない人たちが結構な人数いる、ということですね。

5 もうちょっと確認してみましょう。

  データには、受験資格も記載されています。ロースクール修了者が817人、ロースクール在学中が637人、予備試験が327人です。ロースクール在学中は、令和5年から始まった受験資格のようですが、かなりの人数が在学中に合格しています。また、受験回数についても、合格者中、1回目が1584人、2回目が123人、3回目が35人、4回目が24人、5回目が15人となっています。1回目の受験者の合格者専有率が88.9%と極めて高い数値が出ています。これを見ると、来年は、さらに在学中の合格者の人数が増えそうな感触です。

6 以上を総括すると、司法試験においては、1回目受験者が合格者の大半を占め、かつ高得点を取っていること、2回目以降受験者の多くが、平均点以下の幅広い範囲に分布していることが推測されます。

  ということは、平均点以下でも合格するから簡単だ、と決めつけることは難しそうです。むしろ、一回目で合格しないと、2回目以降の受験で合格を得るのが極めて厳しい現実があるようです。

  また、今は弁護士事務所に採用してもらうためには、司法試験の合格順位を情報開示で得て事務所に提供するのが普通のようです。そうすると、単に合格すれば良いのではなく、良い成績で合格する必要性が高まると思います。

  昔の司法試験は、何年かかかっても、合格さえしてしまえば順位なんてほぼ誰も気にしない(裁判官は例外です)状態でしたが、時代は変わったものです。

 

 

   

試験への不安や緊張

1 私自身ではないものの、最近身内が試験を受験する中で、試験に向けた不安や緊張を私も間接的に感じる機会がありました。

  そこで、どうして試験前に不安になったり緊張するのか、を少し考えてみたいと思います。

2 試験前に緊張とか不安はつきものです。

  このうち、緊張は、分かりやすいかな、と思います。緊張、というのは、格好つけたいけれども、上手く行くだけの自信がない、という時に生じるものです。相手との初デートや採用面接、大勢の人前で話す時などに緊張するなら、それは、その人が内心で「格好よく決めたい!」「でも上手くいくか自信がない、、、」と、少なくとも無意識に思っているからです。そして、こういう緊張というのは、心の底から「格好をつける必要はない」と思えると、なくなります。デートを重ね、素のままの自分でいいと思える相手には、もう格好をつける必要はありません。大勢の前で話す際も、格好をつけず、ありのままの自分として話せば良い、と思っている人は、緊張しません。採用試験は、採用して欲しい、という気持ちがある以上、なかなか「格好つけたい」気持ちを完全に無くすことは難しそうです。

  そして、試験前の緊張も同じようなものと思います。試験である以上、当然「合格したい」ですし、そのためには「良い点を取りたい」のです。これらは、いずれも「格好つけたい」気持ちの一種でしょう。これらを無くせば、緊張しなくなるはずですが、果たしてどういう心境になればこれらの気持ちから解放されるでしょうか。例えば「出来るだけの勉強はし尽くして全力を注いだ。これだけやれば合格できるはずだし、これで不合格なら仕方がない。」というような心境になれば、緊張はしないのかもしれません。ある種の悟りの境地ですね。

3 では、試験前の不安はどうして感じるのでしょうか。不安というのは、自分にとって重要なことなのに、自分が十分にコントロールすることができない状況の時に感じるように思います。せっかくスキーに来たのに、明日雨の予報があって、スキーができない上ゲレンデの雪の状態が悪くなってしまうのでは?と天気の心配をするのは、軽い不安といえるでしょう。

  この観点から考えると、試験前の不安というのは、重要だけれどもコントロールできないこと、つまり「どんな問題が出るんだろう」「勉強していないことが出たら、どうしよう」という不安なのではないか、と考えられます。せっかく時間と労力をかけて勉強してきたのに、勉強していないこと、勉強が手薄いところが出たら、上手く答えられずに、「不勉強」と判断されてしまうかもしれません。しかし、どこが出題されるかは分からない。これは不安でしょう。

4 ここで、「勉強したところが出題された」場合と、「勉強していないところが出題された」場合をぞれぞれ考えてみましょう。

  「勉強したところが出題された」場合は、「良かった。分かる。」と思えるかもしれません。しかし、よほどマイナーな分野にヤマを張って勉強していたのでない限り、自分が分かる部分というのは、実は他の受験生にも分かる部分であることが多いのです。副検事試験の令和5年刑法なんかは、多くの受験生が相当勉強した分野でしょう。そうなると、単に内容を知っているだけではなく、「論述の論理構成」「理由付け、当てはめの的確さ」など、より詳細で高度な部分でようやく差がつきます。法的能力のより本質的な部分の能力が問われる、とも言えます。なので、実は、「勉強したところが出題された」「良かった分かる」は、イメージほど優しい状況ではないともいえます。別の言い方をすれば、市場原理で言う「レッドオーシャン」つまり、多くの競争相手がいて、その中から勝ち上がらないといけない状況と言うのでしょうか。

  一方、「勉強していないところが出題された」場合は、不安が的中した状態であり、ピンチなように思われます。例えば、副検事試験の令和5年民法は、これまで総則、物権分野の出題が多かったところで、いきなり債権分野から出題されました。債権分野の勉強が手薄な人にとっては、悪夢のようかもしれません。ただ、冷静に考えれば、副検事試験の受験生の中で債権分野をそこまで徹底して勉強している人というのは、多くはないはずです。もしそういう人がいたとしても、多くは前年までに合格しているでしょう。つまり、予想外の出題分野をちゃんと勉強している受験生というのは、「前年不合格者か新規受験者のうち、予想外の分野を(通常は直近1年で)しっかり勉強した人」に限定されるでしょう。ですから、予想外の出題分野については、大抵は「自分だけではなく、他の受験生もみんな勉強が手薄な状態」なのです。対比していえば「ブルーオーシャン」ですね。ただ、ブルーオーシャンの必勝戦略は「先手を取る」ですが、試験では全員出題を見てからの一斉スタート1時間一本勝負なので、先手が取れません。じゃあ、どうするか、というと、「普段からブルーオーシャンでの答案の書き方を練習しておく」ということになります。私は良く、答案構成の際に「知っている問題を知らない問題のように解く」という意味のことを言います。それは、一つには、この「予想外の出題分野」問題に対応する力を養うためなのです。分からない問題でも、条文を見てゼロから問題点を考え、合理的な解釈を考えることで、最低限のディフェンシブな答案(大失敗をしない)は書けるようにしておくのです。実際、令和5年民法は、研修誌の「答案の傾向等」を見ても概して出来はよろしくなかったようです。また、合格者でも「債権分野の勉強は手薄だったけど、『常識で考えればこうなるだろう』ということを書いて切り抜けた」というような話を聞いています。勉強をする際は、「レッドオーシャン」に対応するための勉強というのは皆さん頑張ってされるのですが、「ブルーオーシャン」に対応するための勉強についても、意識を向けた方が良いと思います。

5 そして、「ブルーオーシャン」な出題に対応する勉強をしておけば、それは「知らない分野から出題されても、何とか切り抜けられる」という形で自分がコントロールできる範囲に取り込むことができ、出題分野が分からない、という不安を少しは解消してくれるのではないでしょうか。

6 本当は、知らない分野からの出題への対応というのは、そのための問題演習を数多く繰り返すのが最も効率の良い勉強です。ただ、そのための題材が、実は入手が容易ではありません。以前も似たようなことを書きましたが、「知らない問題だけれども、法律上の問題点を抽出し、論理的に法的検討を重ねて結論を示す」能力は、法律家の根源的な能力です。それを的確に図ることができる問題というのは、「能力のある法律家なら知らなくても解ける問題」であって、そんな問題を作れるのは、極めて高度な法律的能力を備えた人に限定されます。今、容易に手に入るのは、司法試験の予備試験の論文問題くらいでしょうか。かなり手強いとは思いますが、全部やる必要はないです。試しに1回答案構成だけしてみるのもいいかもしれません。