副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

司法試験の合格点

1 副検事試験ではなく、司法試験の話ですが。「今の司法試験は、平均点より下でも合格する。」という都市伝説的な噂を聞きました。合格率が40%行かないようなイメージを持っていたので、「そんなことあるのか?」という疑問が湧きました。なので、確認してみましょう!

2 法務省のホームページに、司法試験関係のデータが色々載っています。これを参照しながら、確認したいと思います。

  令和5年の司法試験は、採点対象者(全科目受験した者)が3897人、合格者が1781人です。計算すると、合格割合は約45.7%ですね。イメージしていたより多いです。念のため、出願者の4165人と合格者の割合を計算しても、合格率は約42.8%でした。こうしてみると、年を経て段々と合格率が上がってきているのかもしれません。ただ、法科大学院の導入当時に言われていた合格率70〜80%という数字には遠く及びませんね。

  それでも、半分以上は不合格になる試験です。平均点より低くては、合格出来なさそうに感じます。

  また、気になる数字として「途中欠席31人」というのがありました。これは、試験を受け始めたけど、途中で(多分諦めて)帰った、ということですよね。結構な人数だと思います。長い時間かけて勉強して試験の準備をしてきたのに、途中で帰ってしまう気持ち、というのは、なかなか推しはかるのは難しそうです。

3 そして、点数関係ですが、どうやら司法試験は短答式と論文式の点数を合算して合否を判定するようですね。総合点が最高約1220点、最低約440点、平均約813点、だそうです。ところが、合格最低点が載っていません。代わりに点数分布が載っているので、ここから、合格者の人数である1781人を手がかりに見ていきましょう。

  1位が1220点、10位が1161点、100位が1056点、500位が956点、1000位が876点、1500位が804点、1781位が770点でした。なお「位」と書きましたが、正確には累計人数ですので、「当該点数以上を獲得した総人数」というのが正確なところです。

  ちなみに平均点である813点は、1443位になります。合格するだけなら、平均点で余裕合格です。

4 何でしょうかね、これ。ちゃんと分布図をグラフにしないと正確なところは分かりませんが、多分、グラフが偏っていて、中央値が平均点より結構低いところに来ているのでしょう。綺麗な正規分布なら、平均点と中央値はほぼ重なります。合格者の人数は全体の半分より少ないのですから、それにもかかわらず合格点が平均点より低い、というのは、平均点より高い領域で、狭い範囲に多くの人がひしめき、かつ、平均点より低い領域で、幅広く人が分布している、という状態が予想されます。、、、これあってますかね?要するに、とことんできない人たちが結構な人数いる、ということですね。

5 もうちょっと確認してみましょう。

  データには、受験資格も記載されています。ロースクール修了者が817人、ロースクール在学中が637人、予備試験が327人です。ロースクール在学中は、令和5年から始まった受験資格のようですが、かなりの人数が在学中に合格しています。また、受験回数についても、合格者中、1回目が1584人、2回目が123人、3回目が35人、4回目が24人、5回目が15人となっています。1回目の受験者の合格者専有率が88.9%と極めて高い数値が出ています。これを見ると、来年は、さらに在学中の合格者の人数が増えそうな感触です。

6 以上を総括すると、司法試験においては、1回目受験者が合格者の大半を占め、かつ高得点を取っていること、2回目以降受験者の多くが、平均点以下の幅広い範囲に分布していることが推測されます。

  ということは、平均点以下でも合格するから簡単だ、と決めつけることは難しそうです。むしろ、一回目で合格しないと、2回目以降の受験で合格を得るのが極めて厳しい現実があるようです。

  また、今は弁護士事務所に採用してもらうためには、司法試験の合格順位を情報開示で得て事務所に提供するのが普通のようです。そうすると、単に合格すれば良いのではなく、良い成績で合格する必要性が高まると思います。

  昔の司法試験は、何年かかかっても、合格さえしてしまえば順位なんてほぼ誰も気にしない(裁判官は例外です)状態でしたが、時代は変わったものです。

 

 

   

試験への不安や緊張

1 私自身ではないものの、最近身内が試験を受験する中で、試験に向けた不安や緊張を私も間接的に感じる機会がありました。

  そこで、どうして試験前に不安になったり緊張するのか、を少し考えてみたいと思います。

2 試験前に緊張とか不安はつきものです。

  このうち、緊張は、分かりやすいかな、と思います。緊張、というのは、格好つけたいけれども、上手く行くだけの自信がない、という時に生じるものです。相手との初デートや採用面接、大勢の人前で話す時などに緊張するなら、それは、その人が内心で「格好よく決めたい!」「でも上手くいくか自信がない、、、」と、少なくとも無意識に思っているからです。そして、こういう緊張というのは、心の底から「格好をつける必要はない」と思えると、なくなります。デートを重ね、素のままの自分でいいと思える相手には、もう格好をつける必要はありません。大勢の前で話す際も、格好をつけず、ありのままの自分として話せば良い、と思っている人は、緊張しません。採用試験は、採用して欲しい、という気持ちがある以上、なかなか「格好つけたい」気持ちを完全に無くすことは難しそうです。

  そして、試験前の緊張も同じようなものと思います。試験である以上、当然「合格したい」ですし、そのためには「良い点を取りたい」のです。これらは、いずれも「格好つけたい」気持ちの一種でしょう。これらを無くせば、緊張しなくなるはずですが、果たしてどういう心境になればこれらの気持ちから解放されるでしょうか。例えば「出来るだけの勉強はし尽くして全力を注いだ。これだけやれば合格できるはずだし、これで不合格なら仕方がない。」というような心境になれば、緊張はしないのかもしれません。ある種の悟りの境地ですね。

3 では、試験前の不安はどうして感じるのでしょうか。不安というのは、自分にとって重要なことなのに、自分が十分にコントロールすることができない状況の時に感じるように思います。せっかくスキーに来たのに、明日雨の予報があって、スキーができない上ゲレンデの雪の状態が悪くなってしまうのでは?と天気の心配をするのは、軽い不安といえるでしょう。

  この観点から考えると、試験前の不安というのは、重要だけれどもコントロールできないこと、つまり「どんな問題が出るんだろう」「勉強していないことが出たら、どうしよう」という不安なのではないか、と考えられます。せっかく時間と労力をかけて勉強してきたのに、勉強していないこと、勉強が手薄いところが出たら、上手く答えられずに、「不勉強」と判断されてしまうかもしれません。しかし、どこが出題されるかは分からない。これは不安でしょう。

4 ここで、「勉強したところが出題された」場合と、「勉強していないところが出題された」場合をぞれぞれ考えてみましょう。

  「勉強したところが出題された」場合は、「良かった。分かる。」と思えるかもしれません。しかし、よほどマイナーな分野にヤマを張って勉強していたのでない限り、自分が分かる部分というのは、実は他の受験生にも分かる部分であることが多いのです。副検事試験の令和5年刑法なんかは、多くの受験生が相当勉強した分野でしょう。そうなると、単に内容を知っているだけではなく、「論述の論理構成」「理由付け、当てはめの的確さ」など、より詳細で高度な部分でようやく差がつきます。法的能力のより本質的な部分の能力が問われる、とも言えます。なので、実は、「勉強したところが出題された」「良かった分かる」は、イメージほど優しい状況ではないともいえます。別の言い方をすれば、市場原理で言う「レッドオーシャン」つまり、多くの競争相手がいて、その中から勝ち上がらないといけない状況と言うのでしょうか。

  一方、「勉強していないところが出題された」場合は、不安が的中した状態であり、ピンチなように思われます。例えば、副検事試験の令和5年民法は、これまで総則、物権分野の出題が多かったところで、いきなり債権分野から出題されました。債権分野の勉強が手薄な人にとっては、悪夢のようかもしれません。ただ、冷静に考えれば、副検事試験の受験生の中で債権分野をそこまで徹底して勉強している人というのは、多くはないはずです。もしそういう人がいたとしても、多くは前年までに合格しているでしょう。つまり、予想外の出題分野をちゃんと勉強している受験生というのは、「前年不合格者か新規受験者のうち、予想外の分野を(通常は直近1年で)しっかり勉強した人」に限定されるでしょう。ですから、予想外の出題分野については、大抵は「自分だけではなく、他の受験生もみんな勉強が手薄な状態」なのです。対比していえば「ブルーオーシャン」ですね。ただ、ブルーオーシャンの必勝戦略は「先手を取る」ですが、試験では全員出題を見てからの一斉スタート1時間一本勝負なので、先手が取れません。じゃあ、どうするか、というと、「普段からブルーオーシャンでの答案の書き方を練習しておく」ということになります。私は良く、答案構成の際に「知っている問題を知らない問題のように解く」という意味のことを言います。それは、一つには、この「予想外の出題分野」問題に対応する力を養うためなのです。分からない問題でも、条文を見てゼロから問題点を考え、合理的な解釈を考えることで、最低限のディフェンシブな答案(大失敗をしない)は書けるようにしておくのです。実際、令和5年民法は、研修誌の「答案の傾向等」を見ても概して出来はよろしくなかったようです。また、合格者でも「債権分野の勉強は手薄だったけど、『常識で考えればこうなるだろう』ということを書いて切り抜けた」というような話を聞いています。勉強をする際は、「レッドオーシャン」に対応するための勉強というのは皆さん頑張ってされるのですが、「ブルーオーシャン」に対応するための勉強についても、意識を向けた方が良いと思います。

5 そして、「ブルーオーシャン」な出題に対応する勉強をしておけば、それは「知らない分野から出題されても、何とか切り抜けられる」という形で自分がコントロールできる範囲に取り込むことができ、出題分野が分からない、という不安を少しは解消してくれるのではないでしょうか。

6 本当は、知らない分野からの出題への対応というのは、そのための問題演習を数多く繰り返すのが最も効率の良い勉強です。ただ、そのための題材が、実は入手が容易ではありません。以前も似たようなことを書きましたが、「知らない問題だけれども、法律上の問題点を抽出し、論理的に法的検討を重ねて結論を示す」能力は、法律家の根源的な能力です。それを的確に図ることができる問題というのは、「能力のある法律家なら知らなくても解ける問題」であって、そんな問題を作れるのは、極めて高度な法律的能力を備えた人に限定されます。今、容易に手に入るのは、司法試験の予備試験の論文問題くらいでしょうか。かなり手強いとは思いますが、全部やる必要はないです。試しに1回答案構成だけしてみるのもいいかもしれません。

 

 

   

労基出身の副検事(コメント質問への解答)

1 労働基準監督署勤務の方から、コメント欄にいくつかご質問をいただきました。

  副検事の一般的な職務内容については、いくつか過去記事を引用しておきます。

 

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

2 以上の一般的な質問のほかにも、いくつか質問がありました。

  都道府県によって、労働基準監督署の事件相談に対応する検察官が、検事の場合と副検事の場合で違いがあるように感じておられ、この点が疑問とのことでした。

  あくまで一般的な話ですが、検察官には「係」という担当がありまして、その中に「公安労働係」というのがあります。詳しいことは、「係検事に関する規程」という訓令に書いてありまして、なぜかネットで検索するとこういうのが出てくるんですね。興味のある方はそちらを読んでください。

  「公安労働係」に限定して話をしますが、歴史を紐解くと、公安事件、労働事件というのは、社会のあり方を揺るがしていた時代がありました。当然、公安労働係は、力量が極めて高い、年次が上の検事に割り当てられるのが通例でした。そして、時代が変わった今であっても、公安労働係については、年次が高い検事に割り当てられることが多いようです。そんなことから、比較的多くの検察庁では、労基の事件相談対応は、検事が行なっているのではないでしょうか。

  ただ、労働事件と言っても、内容は様々です。例えば、労働安全衛生法違反事件(2m以上の高所作業をさせる時に安全措置を講じなかった等)などは、法律の面に限っては、形式的なルールへの違反を罪に問うものです。もちろん、安全衛生法便覧の確認や実務の運用を労基の方に教えていただく必要はあるでしょうが、よほど特殊な事例でない限り、必ずしも力量の高いベテラン検事が対応する必要まではないとも言えます。そういう観点から、副検事の方が事件相談対応をされているのかもしれません。

  また、いわゆる労災事故(工事現場の事故で作業員の方が死傷するなどした事件)についても、車両や重機の操作ミスが原因の場合、交通事故の過失運転致死傷に捜査が似ている場合もあります。このような場合も、交通事故は通常検事より副検事の方が得意ですから、副検事の方に事件相談対応をしてもらっているのかもしれません。

  私に想像がつくのは、そのくらいでしょうか。

3 また労基出身の副検事の実例や、その働き方についても、ご質問がありました。そう言われてみると、労基出身の副検事の方って、あまり聞いたことがないですね、、、。すみませんが、私は実例を存じ上げません。せめて受験者数くらい分からないかと思い、ネットで検索してみましたが、見つかりませんでした。何かの折に、副検事試験の受験者について、受験時の所属庁を一覧にした資料を見たような気がしたのですが、夢だったのかもしれません。

  なので、ここからは全くの想像になります。労基出身の副検事の方がおられたら、おそらく「公安労働係補助」として、労基の相談窓口になるでしょう。難しそうな案件は、公安労働係の検事のところに持っていけば良いのですから。基本的に安全衛生法違反は全件、労災事故も結果が極めて重大でなければ「やってよ」とか言われそうに思います。労働事件は、どこの検察庁でも必ず一定数の事件がありますし、やや特殊な類型の事件ですから、労基出身の副検事は歓迎される(こき使われるともいう)のではないでしょうか。もし副検事任官をお考えなら、是非労基でも司法事案(労基で刑事事件化する事案をこう呼ぶ)を担当されて、専門分野について腕を磨かれてください。

 

 

   

司法書士法4条2号

0 新年明けましておめでとうございます。今年も2週に1回更新のゆったりしたペースでやっていきたいと思います。

1 たまたま見かけた法律がちょっと気になったので、取り上げてみました。

  司法書士法です。

  司法書士というのは、主に不動産等の登記手続を代理人として取り扱う士業です。マンションとかを売ったり買ったりするときにお世話になることがありますね。大金が動く取引についての履行に関する手続ですから、「間違っちゃった」では済まされません。専門的な知識や経験が必要な業務と思います。また、司法書士は、一定の民事裁判について、代理人の業務を行うことができます。元々は、弁護士でなければできない業務だったのですが、擦ったもんだの末に司法書士にも一部について民事裁判の代理人となることが認められたという記憶です。弁護士会は、こういう職務侵食に対して極めて厳しい姿勢であるのが一般的です。まあ、仕事を一部取られてしまうので、そりゃそうだ、という感じです。司法書士の団体もあるのでしょうが、よく弁護士会の壁を打ち破ったものです。

2 司法書士試験は難関試験として有名で、合格率は約4%(実受験者ベースでも約5%)くらいのようです。やはり司法書士試験の予備校に通ったりして合格を勝ち取るようです。司法書士を目指して勉強していた知り合いを見渡しても、実際に合格に至ったのは一部に止まります。かなりの難関試験と思います。

3 そんな司法書士ですが、なんと司法書士法4条2号に、検察事務官から司法書士になるための規定が設けられているのです。条件は「10年以上の職務従事」及び「業務遂行に必要な能力を有すると法務大臣から認められること」。他に裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官も同じ取り扱いをされています。

  このうち、法務事務官は、要するに法務局の職員を念頭に置いているのでしょう。申請のあった登記手続を取り扱うのが仕事ですから、10年も職務従事していれば、確かに司法書士の業務を遂行する能力は身につきそうです。

  一方、検察事務官は、、、、登記に関する業務を取り扱うことは、ほぼなさそうです。この制度を使って司法書士になった検察事務官っているのでしょうか?検察事務官だけ10年やってても、法務大臣から「司法書士OK!」と言ってもらうのは、かなり難しいように思います。

  どうして検察事務官がここ(4条2号)に入っているのでしょう?裁判所書記官は、まあ分からなくもないんですよね。和解調書の作成とか、色んな法律的業務を取り扱う関係で、多分司法書士法以外の法律でも、転身が認められていそうに思います。方や検察事務官が転身が認められている法律は、副検事を除くと私は司法書士法が初めてでした。

  念のため、税理士法を覗いてみましたが、税理士法検察事務官裁判所書記官も転身は認められていませんでした。

  もし、検察事務官を10年やったら司法書士になれる、となったら、検察事務官大人気になるでしょうね。でも、みんな10年経って辞めちゃったら、若手検察事務官しかいなくなっちゃって、検察庁は大変そうです。そんな話を聞いたことはないので、検察事務官から司法書士になるのは、ものすごくハードルが高いのでしょう。多分。

  ふと思ったのですが、法務局から人事交流で検察庁に来る人のために、検察事務官でいる間も職務従事期間になるようにこの規定に検察事務官を入れた可能性もあるかもしれません。

  検察事務官のどなたかが「司法書士になりたい!」と手を挙げたら、何かが変わるかもしれません。くれぐれも、「このブログを見て知った」とか言わないでください。

4 ついでに、税理士試験について少し。副検事試験とは試験つながりということで。

  税理士試験は、ちょっと特殊な制度になっていて、「1回合格点を取った科目は、以後免除になる」という建て付けになっています。つまり、全科目をいっぺんに合格する必要がないんです。極端な話、1年ごとに1科目ずつだけ集中的に勉強して、一つずつ合格していけば、全部揃うと税理士試験合格となるのです。ラジオ体操のスタンプのような感じでしょうか(違うか?)。

  しかも、修士(大学院卒)の資格があると、その専門分野に関する科目が免除(合格扱い)になるという制度もあります。修士は2年ですから、期間的にはそこまで大きな負担ではありません。まあ、修士論文は通らないといけませんが。

  朧げな記憶ですが、30年くらい前までは、2、3の専門分野の修士資格を得ることで、税理士試験合格に必要な科目全部の免除が得られたはずです。つまり、一切試験に合格しないで、税理士の資格が得られたのです。ただ、それはあまりにダメだろう、ということで、制度が変わったような記憶があります。しかし、今でも修士資格の科目免除の制度自体は残っているようです。

  私は、学生の頃に周りに税理士を目指していた知り合いもいたので、こういう話は自然と耳に入ってきていましたが、周りにそういう人がいないと、入ってこないものでしょうか。転身のタネは、実は色々あるかもしれません。

 

 

   

刑事訴訟法その7(令和5年答え合わせ)

0 季節がわりは、投稿がやや不規則になります。よろしくです。

1 では研修誌23年10月号による刑事訴訟法の答え合わせです。

  設問の題意等、答案の傾向等とも長いですね。

  刑法との違いを感じますが、なぜ違うのか、謎です。

2 設問の題意等からいきましょう。長いので、話の要点をつかむのも一苦労です。

  問1について。

  検証が緩やかな要件で伝聞例外として証拠能力を認められる理由、実況見分と検証との類似性から321条3項が準用される理由、作成の真正を立証する必要性を指摘するように書いてありますね。

  ちなみに、「作成の真正」の立証とは、作成者の警察官を証人尋問で呼び、「検証、実況見分のやり方について、何か研修等を受けたことはありますか?」「ちゃんと正しく検証、実況見分しましたか?」と聞くことです。証拠能力の疎明についてはこれで足ります。普通は、さらに証明力に関する質問(内容の正しさを裁判官に伝えるための質問)もしますが。

  その上で、各実況見分の立会人による指示説明部分の証拠能力を検討する際に、要証事実を何にするかによって、証拠能力の有無という結果が異なることを、伝聞法則の基本的理解を示しながら指摘するよう求めています。

  実況見分調書①については、「立会人が当該地点を指示した」という事実が要証事実であれば、証拠能力が付与されること、警察官がナンバーを見ることができたことは、五感の作用により認識した結果を記載したものだから、証拠能力が付与されること、などへの言及が必要だそうです。また、「被害者Vがナンバープレートを見たか否か」を要証事実とする場合には、321条3項ではなく、321条1項3号の要件を満たす必要があり、被害者Vの署名等を欠く実況見分調書①は証拠能力が付与されない点にも言及がいるようです。

  実況見分②については、立証趣旨を「被害再現状況等」つまり、被害者Vがこういう再現を行なったこと、としているが、実質的には「被害再現通りの事実があったこと」を立証するものと認められる以上、伝聞性を帯びており、321条3項の要件のみでは足りず、321条1項3号の要件を満たす必要があることの指摘を求めています。そして、被害者Vの指示説明部分は署名等を欠き、証拠能力は認められないこと、再現写真は撮影等の記録過程が機械的操作であるため署名等は不要だが、他の321条1項3号の要件を満たさなければ、証拠能力は付与されないこと、という検討も求められています。平成17年9月27日最高裁判決が引用されていますが、勉強しておけ、ということでしょう。

  「論ずるべきことが多いから、関連の薄いことを長々論じたり、論証パターンをそのまま記載するだけだと時間切れや、真に理解しているか疑問を持たれかねない答案となるので注意が必要」だそうです。

  問1だけでこのボリューム。しかも内容が大変実務的です。実際に公判に立ったことがない受験生には、なかなかイメージの湧きづらい問題と思います。

3 問2の設問の題意等です。

  再現写真を使った証人尋問に関する平成23年9月14日最高裁判決の理解を問う、と正面から言い切っています。この判例、普通勉強しているものなのでしょうか。

  再現写真について、事前に弁護人に開示した上で、証人の供述明確化のため、刑訴規則199条の12に基づき、裁判長の許可を受けて尋問時に証人に示すことができること、先に証人から十分に具体的な供述がなされていないうちに再現写真を示してはならないことの指摘が必要だと。再現写真を示すと、証人に一定の情報を与えることになり、その影響を受ける恐れがあるが、すでに十分に具体的な供述をした後なら、再現写真を示しても証人に不当な影響は与えず、供述内容を視覚的に明確化するにとどまるのだと。そして、示した再現写真は証人尋問調書に添付するよう裁判所に求めるべきだと。

  要求水準が高いですね。規則の根拠まで言及を求めています。問題が難しすぎるんじゃないかなー、と心配になります。

4 では、答案の傾向等、行きましょう。問1から。

  多くの答案が伝聞例外の問題と指摘し、321条3項、同条1項3号の条文を挙げて検討できていたが、伝聞例外の論証を展開しながら、伝聞証拠についての基本的理解ができていない答案も少なくなかったそうです。具体的に伝聞証拠のどういう点についての理解ができていないのかは、言及がありませんでした。

  また、よくない答案例として「写真は非供述証拠、現場指示は供述証拠など、実況見分調書を一体として見ることなく、個別に分割して証拠能力を論ずる答案」「『現場指示』『現場供述』とのキーワードだけ掲げ、区別の基準、理由を示さず結論だけ述べる答案」が少なからず見られ、判例の理解十分な答案は少数だった、とのことです。かなり実務的な問題ですから、皆さん苦労されたのでしょう。

  あと、再現写真に関しては、「記録過程が機械的操作によることから署名等不要だが、321条1項3号の要件が必要」と指摘できた答案が相当数ある一方、全く再現写真に触れず、被害者Vの説明部分のみを論じた答案も相当数みられ、ここで差がついたのだそうです。再現写真の問題点なんて、普通に勉強している時にどのくらい注意を払って勉強するもんなんでしょう?

  私の答案構成ですが、伝聞法則と例外、検証が緩やかな要件で例外を認められる理由、作成の真正の立証あたりは、まあまあ書けています。ただ、要証事実が何かによって伝聞性を帯びるかが変わる点の指摘は失敗してます。また、321条1項3号の検討をしてないですね。ここを検討していないのは、結構ポイントを落としたかもしれません。再現写真についての言及も、結構少な目でした。

5 問2の答案の傾向等です。

  問1と比較して出来が悪かったようです。「証人尋問での書面呈示を問われていることに気づいていない答案」「規則の条文をあげられない答案」が目立ち、知識、理解不足がうかがわれたと。

  また、再現写真の呈示根拠として、「記憶喚起のため」(規則199条の11)とする答案も一定数あったが、「許される場面などは想定されないところである」と一刀両断に切り捨てています。

  私の答案構成は、証言明確化のための呈示は可能だが、記憶喚起のためには呈示不可であること、証人尋問調書への添付を求めるべきことは書けてます。しかし、規則の根拠条文を示すことはできませんでしたね。

6 全体として、問1で321条1項3号が書けなかったマイナスと、問2が難しい問題の割にそこそこ書けたプラスを考えて、一応合格点かな、と思いました。

  ただですね、問2はやっぱり難しい問題だと思いますよ。判例を見たことがないと、示した再現写真をその後どうするのか、なんて見当もつかないでしょう。

  今年の問題は民法も刑訴も難しくて、受験された方は心が折れないように頑張るのが大変だったことと思います。

7 これまで、3年分くらい副検事試験の答案構成をやりましたが、かなり「判例重視」と感じています。法律の理屈を理解するだけではなく、関連する判例を見て、何が問題となっているのか、それについて判例はどのように解決しているのか、を十分勉強することが求められているように思いました。地道な勉強が大事なんだろうな、と思います。

 

 

 

      

体力とメンタル

0 最近の記事にコメントをいただきました。

 

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

  要するに「そんな人は困る!」ということですが、言葉を尽くし、色んな面から困ることを述べておられました。まーそうでしょうね。こういう動機で副検事を目指す人のであれば、かなりの逆風を覚悟する必要がありそうです。

1 今回は、また別のコメントを参考にした記事です。

  他省庁の方とのことですが、コメントに「体力とメンタルへの不安」を書き込んでおられました。元副検事の方のお話などを聞かれ、「知り合いの検察官がみんなスーパーマンに見えた」とのこと。どれだけハードな話を聞かれたのでしょうか。かなり昔は検察官の職務は「超激務」だったようですが、最近はごく一部の例外を除いては、まあ「普通の激務」くらいではないでしょうか。なので、かなり昔の話を聞かれたのであれば、それはさすがに現状とは乖離があると思って良さそうです。

2 では、検察官にはどのくらいの体力が必要でしょうか。まずは「普通に健康であること」が望ましいようです。別に特殊なことをする必要はありません。ちゃんとご飯を食べて、しっかり寝て、少しは運動して、お酒を飲み過ぎない。タバコを吸う人もいますが、やはり少数派だそうです。特に、ちゃんと寝ることは大事です。眠いだけで能率は確実に下がります。もちろん、持病がある方は、仕方がありません。病気や怪我は、自分で回避するのが難しいものです。ただ、お酒を飲み過ぎて悪化させるとか、自分で制御できる部分は気をつけましょう。その程度のことです。

  普通に健康であれば、普通に検察官の仕事がこなせるでしょう。そして、健康度が上がれば上がるほど、任される仕事の質と量も上がっていくでしょう。不思議なもので、仕事というのは、なぜか体力の限界ギリギリのところまでやってくるのです。そういう意味では、「仕事を楽にできるように体力をつけよう」と考えても、体力の増加に合わせて仕事の強度も上がるので、楽にできる時は永遠に来ない、という面もあります。それが、検察官の仕事が「普通の激務」である一つの理由かもしれません。

3 こんな風に、体力の限界ギリギリの仕事をする中で、どうやってメンタルを保ったら良いでしょうか。一つの鍵は、「うまく考え方のバランスをとる」ことではないか、と思います。検察官が仕事をする際は、メンタルという天秤の片側には、「熱意」「モチベーション」「重圧」が乗っています。事案の真相を何とかして解明し、あるべき刑事処分を行うために、「自分がなんとかしなければ」という使命感や、ある時は上司などからのプレッシャーなど、色んなメンタル的負荷がかかってきます。困難な事件であればあるほど、メンタルの負荷も大きいです。被害者等からの期待も、メンタルへのプレッシャーの一つです。

  自分のメンタルが持つなら、この負荷を全て受け止めてもいいのです。ただ、メンタルが持つか不安を感じる時には、メンタルのもう片側に別のものを載せて、バランスをとる、というやり方があります。自分に逃げ道を用意してやる、とも言えます。それは、「自分は何も悪いことをしていない」という事実です。検察官は刑事事件の捜査に関与し、責任も重い立場ではありますが、検察官自身は、その刑事事件の中で何か悪事を働いた訳ではありません。捜査に関与することになったのも、いわば偶然です。自分にできることは、力を尽くしてやるべきですし、やらなければなりません。ただ、どうしても自分にはできないこともあります。それをやれと言われても、無理なものは無理なこともあります。そういう時に、「自分は何も悪いことをしていない。自分ができることは力を尽くしてやっている。それでも足りないというなら、そもそも自分にやらせるべきではない。」とある意味開き直れることは、メンタルを保つ上で大切なことではないか、と思います。もちろん、最初から逃げ腰で頑張りもせずに開き直るのはダメです。ただ、力を尽くしてもなお及ばない時に、メンタルダウンしてしまうくらいなら、開き直った方が全然マシです。そして、限界ギリギリまでメンタルが追い込まれる前に、自分でメンタルのバランスを上手く保てるようになることが、検察官としてやっていく上で必要なのではないか、ということです。

4 まあ、これも色んな意見のあることでしょう。「自分の逃げ道を絶ってとことんまで自分を追い込むことで、自分の殻が破れるんだ」みたいな意見もあるかもしれません。あくまで一つの参考意見です、はい。

 

 

         

刑法その6(令和5年答え合わせ)

1 では刑法の答え合わせです。例により研修誌23年10月号を頼りにしていきます。研修誌の記事は、刑法については、「設問の題意等」でポイントを5点挙げ、「答案の傾向等」でその5点について順次言及していく、という体裁を取っています。読みやすさを考えると、両者を分けずに、順次5点に触れながら中身にまで言及した方が良さそうです。なので、この記事では、「設問の題意等」と「答案の傾向等」を分けずに書いていきますね。

2 ポイントの1点目は「窃盗の着手の有無」です。事後強盗の身分たる「窃盗」該当性ということです。

  多くの方は、事後強盗の「窃盗」は窃盗の実行に着手した者のことで、乙の行為は窃盗の着手と認められる点を指摘できていたようです。ただ、実行の着手の意義を論じ、設問の事実関係を当てはめる手順を説得的に論じた答案はそれほど多くなかったとか。

  私もさらっと結論を示しただけでした。それは、本問での記述量を考えると、実行の着手の意義を詳細に論じることまで、本問では求められていないだろう、と考えたからです。むしろ、論じることで出題意図を外し、バランスを失してしまうのではないか、と思いました。うーん、ここがポイントの1つだったのか。もうちょっと認定が微妙な事実関係だったら論じたと思うのですが。実行の着手が明白な事実関係を示していながら、着手の意義を論じさせようというのは、ちょっと出題側の勝手かな、という印象です。

3 ポイントの2点目は、「暴行」が反抗抑圧に足りるか、という点だそうです。

  多くの方は、「反抗抑圧にたるもの」という解釈を示して暴行態様、周囲の状況、年齢差等の事情を丁寧に拾い、当てはめられていたそうです。一方、散見されたよろしくない答案として、「暴行と財物奪取の密接性」「傷害の発生は問題文から導けないのに、これを強引に認定して強盗致傷という結論としたもの」があったそうです。

  「密接性」は「本事例では明らかであるから、その点を詳細に論じても高い評価につながらない」と言い切っています。直前で「本事例では明らか」な実行の着手の意義を詳細に論じることを求めていたことと矛盾するように見えますね。どっちがおかしいかというと、やはり本問で実行の着手を詳細に論じさせようとしたことの方がおかしいのだと思います。

  また、傷害結果を認定した点を厳しく評価していますが、設問の事例を見たら普通は傷害結果が発生しているはずですよね。答案構成の際にも「非現実的」と言いました。おそらく、事後強盗の既遂未遂の論点を論じさせるためには、致傷結果が発生すると困る(窃盗が未遂でも致傷結果があると強盗致傷の既遂になってしまう)ので、こういう非現実的な設定にしたのでしょう。もうちょっと事例を工夫した方が良かったと思います。刃物を示して脅迫した上で緊縛するとか。

  私の答案構成は、結論を示しているだけで、事案から諸事情を拾い上げたり、当てはめをしてないので、ここはかなり厳しい評価を受けそうです。

4 ポイントの3点目は、「事後強盗の既遂未遂」について、区別の基準を示し、未遂の結論を導けるか、という点です。

  多くの方は未遂の結論を示しているものの、事後強盗の既遂未遂が窃盗の既遂未遂により決まることを指摘して当てはめをしている答案は多くなかった、のだそうです。

  これも、本事例では明白なことですから、多くの受験生は「出題意図ではない」と考えたのだと思います。そして、私の答案構成もそうでした。

5 ポイントの4点目は「甲の見張りについて、共同正犯と幇助犯の意義、区別を論じ、当てはめができているか、だそうです。

  非常に多くの方が、共同正犯について「共同実行の意思」「共同実行の事実」が必要な点は指摘できていたそうです。しかし、出題者は、更に「具体的行動、意思連絡の状況、共犯者間の関係、利害関係の有無等の要素を総合考慮して正犯意思が認められるか、丁寧な検討を期待」していたそうです。実際には、多くの答案が「見張りは重要な役割なので共同正犯」と認定しており「残念であった」と断じています。

  私の答案構成は、「共同実行の意思、事実」を書き飛ばしている一方、要素を拾った検討は出題意図に応えられています。まあ、差し引きゼロくらいの評価でしょうか。

6 ポイントの5点目は甲の共犯の錯誤についてです。

  ここは、論点に一応気づき、法定的符合説に基づく論述ができている答案が多かったそうですが、それ以上に詳しい出題意図は、研修誌では言及がありませんでした。

  私の答案構成は、今読み返すと、この論点にかなり重点を置いてボリュームを割いています。研修誌の淡白な記載を見ると、この論点はそれほど重点が置かれていなかったのでしょうか。

7 私の答案構成は、特に乙の罪責に関して、出題意図を外した部分が多いですね。共同正犯についても、理屈の部分が書けていませんし。評価としては中の下、といったところでしょうか。

  ただ、論文試験というのは、暗黙の了解として、「事実認定の結論が明白な部分は、論じる必要がない」というのがあると思っています。それは、「条文に照らして明白な事実は、解釈が問題にならない」という法律の本質的な性質から来るものだと思っています。殺人罪で「人」に該当するか問題になるのは、胎児とか脳死判定を経た人とか、事実認定だけでは解決がつかない場合だけです。そういう意味で、今回の刑法の問題は、事実認定が明白であるにも関わらず、いくつかの論点を論じさせるのが出題意図であったこと、一方で一部の論点については「本事例上明白なので論じる必要なし」というダブルスタンダードに陥っていること、という点で、悪問だったと思います。論理的に検討すれば、出題意図の通りに論点が抽出されるよう、事例をもっと練り上げてほしいところでした。

  しかし一方で、悪問であっても、試験問題であることは変わりません。「こういう悪問も出るんだ」という覚悟を持って、試験に臨まなければなりません。この問題について、乙の罪責に関してある程度解釈論を詳しく論じるのが出題意図であることを見抜くには、例えば「事例が長い割に、解釈が必要なのが甲の共犯関係しかない。もしかしたら、出題側は、明白な乙の罪責についても、ある程度解釈論を論じさせたいのか?」などと、穿った見方をすれば、できたかもしれません。ただ、それでも、乙の罪責について手厚く論じるのは、かなり勇気がいると思います。だって事実認定上問題がないんだもん。