副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

令和8年度副検事選考筆記試験の結果について

1 副検事試験の筆記試験結果について、検察官特別任用分科会で報告がされました。法務省のホームページに載っているので、間違いないです。

  これによると、令和8年度の副検事試験(筆記)は、受験者130人中、合格者38人だったそうです。割合にして30%弱。どうなんでしょうね。結構高いとも言えるような。でも、みなさん真剣に勉強して受験されている中での数字としては、やはり厳しめの数字というべきなのか。ちょっとつらつらと記事を書きながら考えてみます。

2 今のロースクール制度下の司法試験の場合は、令和7年の数字ですが、全体の合格率が41%余、予備試験合格者を除いたロースクール生が34%余です。受験者の母体が、2年ないし3年ロースクールに通っているという点で、かなり真剣に勉強しているはず、という点からすると、やはり厳しめの数字に見えます。ただ、ロースクール制度は、「基本的に通ったら法曹資格が取得できる」というのを理想として設計されました。司法試験も、ふるい落とすような試験ではないはずです。かつて別の記事に書いたことがありましたが、司法試験の論文試験は、合格最低点が平均点よりも下です。つまり平均点取れなくても合格できる、ということ。

  こうしてみると、副検事試験についても、30%の合格率というのは、決してふるい落とすような試験ではなく、「基本的な法律的思考力と知識を備えているか」を確認するという位置付けと考えて良いと思います。

  逆にふるい落とす試験というのは、旧の司法試験のようなものです。確か、だいたい合格率が2〜3%、時代によっては、2%を切る年もあったという記憶です。こういう試験だと、正直なところ「ほかの人と同じような勉強をしていたら、とても合格はおぼつかない」みたいな状態になります。本当に、10年間受験を続ける人とかもいたり。ちょっと制度としておかしいだろう、ということで、ロースクール構想が導入されました。色々な事情から、当初の構想にあったような「合格率70〜80%」という形にはなりませんでしたが。

3 ただ、一方で、司法試験の結果からは以下のことも言えると思います。数年前に、ロースクール卒業見込みの在学生も受験可能になりました。その結果、在学生と修了者(卒業済の者)の合格率が別々に発表されています。ロースクールの在学生の合格率は52%余、修了者は21%余です。統計学のことは詳しくありませんが、どう見ても数字に明確な開きがあります。しかも、在学生合格者のうち約90%は「既習コース」という2年で卒業のコース選択者です。つまり、彼らはロースクールに入ってから1年半くらいで合格していく訳です。

  ここから言えるのは「ちゃんと勉強した者はちゃんと早く合格する」という、身も蓋もない事実かな、と思います。特に、京都大学などは、在学生の合格率が77%を超えています。そういう意味では、当初のロースクール構想で描いていた状態に近づきつつあるようにも思います。確かに、今の司法試験の場合、1回目の受験で合格できなかった場合には、「ちゃんと勉強していなかったのではないか」と疑われる雰囲気はあるようです。

  副検事試験の場合は、基本的に全員フルタイムの仕事をしながら、空き時間を使って勉強することになるので、学生として勉強時間を確保できる司法試験とは、かなり条件面での違いはあります。ただ、それでも、在学生と修了者の合格率が2倍以上違うという事実、ロースクールに入って1年半で司法試験に合格していく事実は、「集中して勉強する」ことの重要性を雄弁に物語っているように思います。

  しかし、フルタイムで働く中では、勉強時間確保について色々な困難もあると思います。例えば、基本的な法律知識(制度の理解等)については、日々の隙間時間を使って教科書や資料を淡々と読むことで頭に入れ、過去問演習などを始めるタイミングで一気に勉強時間を確保する、など、それぞれの置かれた環境を踏まえて工夫をしていく必要があるのだろうな、などと感じました。

4 なお、令和8年の特任検事試験では、久しぶりに筆記の合格者が出たようです。受験者13人中、1人が合格されたそうで。遡ると、最後の特任検事試験筆記合格者が出たのは令和4年のことでした。その前は令和2年、さらにその前は平成28年と、極めて高いハードルです。これこそ「振り落とす試験」ですね。さすが、日本で一番難しい試験だと思います。

 

 

 

   

民法その12(令和7年答案例)

 
1 もう10月には令和8年の副検事試験の問題等が研修誌に掲載されるというのに。
  また令和7年民法までしかたどり着いていません。頑張ります!
  一応、令和7年民法の問題を掲載しておきます。
 
「以下の問に答えよ。なお、各問は独立した問である。
問1 Aは、知人に多額の借金を負っていたところ、同人からの差し押さえを免れるため、自己が所有する甲土地につき、Bの承諾を得て、AからBへ売買契約を仮装し、B名義への所有権移転登記をした。その後Bは、自分に甲土地の登記名義があることを奇貨として、甲土地をCに売却したが、その際、CはAB間での甲土地の売買契約が仮装されたものであることを知らなかったものの、相応の調査をすればそれに気づくことができた。甲土地に関するBC間の動きを察したAは、Cが甲土地の登記を備えるよりも先に甲土地の登記をA名義に移転した。Cは、Aに対し、甲土地の所有権を対抗できるか。
問2 Aは、Xから乙土地を購入したが、税金対策のため、Bと相談して、形式上はBがXから直接乙土地を買ったことにしてX名義からB名義への所有権移転登記をした。その後、Bは、自分に乙土地の登記名義があることを奇貨として、それまでの事情を知らず、かつ、知らないことに落ち度のないCと乙土地の売買契約を締結してC名義への所有権移転登記をした。Cは、Aに対し、乙土地の所有権を対抗できるか。
問3 Aは、Bに対し、Aが所有する丙土地の登記識別情報を教えるとともに、実印等を預けて長期間放置していたところ、Bは、丙土地につきAに無断でB名義への所有権移転登記をし、その後、丙土地はBの所有であると偽って、その事情を知らないC(ただし、相応の調査をすればそれに気づくことができた)との間で丙土地の売買契約を締結するとともにC名義への所有権移転登記をした。Cは、Aに対し、丙土地の所有権を対抗できるか。」
 
2 では、研修誌の「設問の題意等」「答案の傾向等」を参考に、書き進めてみたいと思います。まずは小問1について。
 
「1 小問1について
   AB間の甲土地の売買は仮想したものであるから、通謀虚偽表示であり、無効である(民法94条1項)。したがって、無権利者であるBから甲土地を購入したCは、その所有権を取得することができないのが原則である。
   しかし、Aは自ら虚偽の外観を作出したもので、Cはそれを信じたものである。このようなCが保護されるか、Cが民法94条2項の「第三者」に該当するか、また保護される要件が問題となる。
   Cは、AB間の虚偽表示とは無関係であり、民法94条2項の「第三者」に該当する。そして、Cは甲土地購入時に、AB間の甲土地売買が仮装したものであったと知らなかったので、「善意の第三者」であった。ただし、Cは相応の調査をすればAB間の仮想に気づくことができたので、過失ある善意の第三者となる。
   それでは、Cが保護されるために、無過失まで要件とされるか。この点、自ら虚偽の外観を作出したAの責任は大きく、Aとの関係でCが保護されるためには、単なる善意で足り、無過失までは必要ないと解する。
   また、甲土地については、BC間の取引を察したAが、登記名義をAに移転しており、Cは甲土地の登記を有していない。しかし、そもそもAとCは、相互に同じ立場で権利を争う関係ではなく、虚偽の外観を作出したAからCを保護するか否か、という関係にすぎない。従って、Cには対抗要件としての登記は不要である。
   以上から、CはAに甲土地の所有権を対抗できる。」
 
というくらいでしょうか。登記の公信力がないのでこの点ではCが保護されないこと、「第三者」の定義、Cに権利保護要件としての登記の要否、という点については、省きました。それでも、まあまあの分量になりましたし、実際本番でここまで書けたら、結構偉いと思います。
3 次は小問2です。
 
「2 小問2について
   乙土地については、AがXから購入しており、Aが所有者である。Bは形式上の購入者であり、乙土地について無権利者である。従って、Bから乙土地を購入したCも、乙土地の所有権を取得できないのが原則である。
   しかし、Aは虚偽の外観を作出したもので、Cはその外観を信じたものである。Cが民法94条2項の善意の第三者に該当すれば、保護される場合がある。しかし、そもそも虚偽の外観は、XB間の形式上の乙土地売買として作出されており、Aは乙土地について、何らの意思表示をしていない。AB間で乙土地に関する意思表示がなんらされていないので、そもそも94条1項の通謀虚偽表示には該当しない。
   それでは、虚偽の外観を信じたCは全く保護されないのであろうか。
   民法94条2項は、虚偽の外観を作出した者の責任の大きさに着目して、そのような権利者よりも、虚偽の外観を信じて新たに法律関係を構築しようとした第三者を保護しようとする規定である(外観法理)。そして、虚偽の外観を信じた第三者としては、どのようにして虚偽の外観が作出されたのか、知るよしもない。そうであれば、虚偽の外観を作出するに際して、権利者が直接意思表示をした場合も、していない場合も、権利者との関係では、虚偽の外観を信じた第三者を保護する必要性は、何ら変わりはない。したがって、小問2の場合について、AB間での意思表示なく作出された虚偽の外観を信じたCについては、民法94条2項を類推適用すべきと解する。このように解したとしても、虚偽の外観を作出したAの責任は大きいのであり、そのようなAの犠牲の下にCを保護することも許されると考える。
   したがって、Cには民法94条2項が類推適用され、善意の第三者として保護されると解する。Cが保護されるためには、無過失までは要求されず、単なる善意で足りると解するのは、小問1の場合と同じである。よって、Cは乙土地の所有権をAに対抗できる。」
 
ですかね。こういう特別な解釈(本問では類推適用)をする場合の理由付けでは、「必要性」と「許容性」の両方に触れておくのがコツです。必要性もないのに特別なことをするのはおかしい。必要だからって、何でも許される訳じゃない。ということです。
4 ようやく小問3です。
 
「3 小問3について
   丙土地の所有者はAであり、勝手に登記を移転したBは無権利者である。そのBから丙土地を購入したCは所有権を取得できないのが原則である。また、AB間では丙土地について何ら意思表示がされておらず、民法94条1項に該当しない。そのため、Cは同条2項の直接適用による保護を受けることはできない。
   では、民法94条2項の類推適用による保護をCが受けることができるか。小問3では、虚偽の外観を作出したのは、Bの独断であり、Aは積極的に虚偽の外観を作出したものではない。そのようなAを犠牲にして、民法94条2項を類推適用してCを保護するのは、行き過ぎのようにも思われる。
   しかし、Aは、丙土地の登記識別情報をBに教え、実印もBに預けて長期間放置しており、Bが虚偽の外観を作出する強いきっかけを作っている。この点については、Aにも虚偽の外観作出の責任を問いうる。AはBに何ら権限を授与はしていないが、権限があるかのような外見を作出しており、表見代理に関する民法110条と民法94条2項を重畳適用することによって、一定の要件の下にCが保護される場合があると解する。このように解しても、Aには消極的ながら虚偽の外観作出の責任があるし、民法110条の類推適用に際して、Cに無過失を要求すれば、Aの犠牲の下にCを保護することも許されると解する。
   小問3では、Cは善意の第三者ではあるが、相応の調査をすれば虚偽の外観に気づくことができたのであるから、有過失である。したがって、Cは民法110条と民法94条2項の重畳適用によっては保護されない。CはAに丙土地の所有権を対抗できない。」
 
となります。この110条重畳適用は、判例がある上、研修教材民法Ⅰにも類似事例について、それなりに詳細な説明があるところです。ただ、「答案の傾向等」によれば、110条の重畳適用まで言及できた答案は極少数だそうです。次善の策としては、94条2項のみを類推適用し、ただしAの外観作出への関与が消極的であることから、均衡を図るためにCに無過失まで要求する、という構成のようです。このような構成についても「一定の配慮をしている」と「答案の傾向等」は言われています。その場合は、「この点については、Aにも虚偽の外観作出の責任を問いうる。」に続けて、以下のように書くことになるでしょうか。
 
「AはBに何ら権限を授与はしていないが、権限があるかのような外見を作出しており、民法94条2項を類推適用するに際して、Cに善意のほか無過失まで要求することによって、Cが保護されると解する。このように解しても、Aには消極的ながら虚偽の外観作出の責任があり、Aの犠牲の下にCを保護することも許されると解する。
   小問3では、Cは善意の第三者ではあるが、相応の調査をすれば虚偽の外観に気づくことができたのであるから、有過失である。したがって、Cは民法94条2項の類推適用によっては保護されない。CはAに丙土地の所有権を対抗できない。」
 
5 これで何字くらいですかね。今回は、ちょっと数えてないんですが。まあ、私はちょこちょこ研修誌や研修教材をカンニングしながら書いたので、本番でこれをみなさん書いてね、とは全く思いません。むしろ、本番でここまで書けたら、かなり良い点がつくんだろうな、と思います。私としては、できる限り「本番で書けるような内容」にしようと努力はしていますが、研修誌の記載を頼りに書くと、どうしてもやや内容が高度になりがちです。まあ、副検事試験に関して研修誌の要求レベルが極めて高いことは、みなさんも良くご存知でしょうが。
  この参考例を完璧に書ける必要はないと思います。ただ、理由付けの場面で、「必要性」と「許容性」の両方に触れる意識を持つこと、民法はバランスが大事なので、どこまでも「足して2で割る」ような検討を頑張ること、を読み取ってもらえれば、と思います。
 
 
      

 

女性副検事について(その2)

1 前回記事にコメントをいただきました。

  女性副検事の任官を増やすための試験のあり方について、意見をいただきました。現在の制度の改善として有用である上、別の資格試験において、類似の制度が実際に導入されていたりします。なので、比較や実現可能性も含めて、ちょっと記事にしてみました。

2 まず、コメ主は、「合格してから任官時期を選べる、という制度には、任官する側としてメリットがある状況を思いつかない」と言われます。率直なご意見ありがとうございます。私としては、合格が決まってから色々生活環境等を調整する時間が確保できる点がメリットになるのではないかと考えたのですが。ただ、おそらくですが、任官する側の意識として、「それでは遅い」ということなのだろうと思います。コメ主は、それならばむしろ、「受験資格と任官資格を明確に分けて、3級昇級、または検取資格付与で副検事試験受験可能、ただし任官時は3級3年または検取2年の経歴を有すること」とすることを提案されています。任官までの時間的余裕を確保する点は同じですが、後ろ倒しではなく、前倒しにする発想ですね。確かに、前倒しの方が、受験生にとってはメリットが大きそうです。最近は、検取資格の付与自体を、従前の「30歳から」よりも早める傾向もあるやに聞いています。そうであれば、20歳代後半から副検事試験の受験が可能になり、キャリアを描きやすくなるように思います。しかも、この「受験資格の前倒し」というのは、実例があります。現在の司法試験ですが、数年前に制度変更がありました。それまでは「ロースクールを卒業してから」受験が可能とされ、卒業後、試験まで数か月時間が空いていました。それを「卒業見込みのロースクール最終学年在籍中」でも司法試験の受験可能としたのです。これは、受験資格と司法修習生となる資格の分離ですよね。ちなみに、制度導入の初年度は、「卒業見込み」生の合格者がかなりの数に登っていたという記憶です。副検事試験でも、もし、27〜28歳での受験が可能であれば、大学卒業なら「副検事を目指して検察事務官になり、5、6年で受験」とモチベーションを保てそうです。高校、専門学校卒業でも、8〜10年後の受験となり、「早めに法律の勉強を始めておくか」と考えるくらいの現実味は持てそうです。そして、他省庁の方についても、受験資格の前倒しについては、同様の取り扱いができそうです。また、検察庁法には、「副検事の任官資格」について規定があるだけで、受験資格に影響を及ぼすような定めは見当たりません。ですから、法改正を伴わずに法務・検察の判断だけで、なんとかできる部分のように思われます。

3 また、コメ主は、女性が副検事任官を目指すに当たり、受験時期が妊娠・出産を真剣に考える時期と重なる点を指摘されました。確かに、その通りかもしれません。そして、コメ主は、①副検事試験の合否判定を科目別に行い、一定期間内に全科目合格することで副検事任官を可能とする、②最終面接の際に身重の受験者のために、リモートによる面接を認める、という提案をされました。

  ①については、税理士試験で実際に導入されている制度です。税理士試験の場合は「1科目の合格は、一生有効」と期限がありません。実際に実例がある制度なので、導入する上での制度的な障壁は少ないように思います。ただ、この制度の場合「科目ごとの合格最低点をかなり高めに設定せざるを得ない。」という事態が考えられます。少なくとも数年間はその科目について試験を受けなくて良い、というお墨付きを与えるわけですから、あまりに低い点数では合格と認められないでしょう。その意味で、「苦手科目を得意科目でフォローする」みたいな余地は狭くなりそうです。これを回避するためには、現行制度とのハイブリッドというのはどうでしょうか。つまり、「当該年度の受験科目の総合点による合否判定」を中心としながら、それとは別に「特に優秀な成績であった科目については、科目合格とし、全科目の科目合格でも副検事試験合格とする」という、2系統の合否判定を導入するのです。科目別合格を目指す場合、やはりラスボスは民法になりそうですね。

 ②については、確かに試験会場が東京だけ、というのは、移動を考えると厳しいことは厳しいですよね。リモートが認められるなら、それに越したことはありません。ロジ面では、問題文は試験当日に電子データで現地に送信することで、秘密保持はできそうです。ただ、問題文検討時間に、不正監視の必要があるので、複数の監督者を現地に派遣する必要はありそうです。そういう点からは、全受験生にリモートを認めるのは難しそうで、個別対応できるかどうか、が現実的なところかな、と考えました。

4 受験資格の前倒し、というご意見については、自分では全く思いが至らず、「なるほどなあ」と感心しました。こういう受験する側の声が、もっと当局に届けば良いと思うのですが。他にもご意見のある方、コメントをお待ちしています。また、本ブログを当局の関係者が見ているとは、とても思えませんが、どうにかしてこういう声が当局に届くといいのにな、などと思っています。

 

 

   

女性副検事について

1 検事の場合、女性の割合はほぼ半分にまでなっているそうですね。

  ところが、副検事の場合、女性の割合はかなり低いようです。

  某弁護士が、副検事名簿について、情報公開請求してブログに掲載されています。令和8年4月1日時点のものを見ると、東京・横浜・千葉・さいたま所属の副検事が171人。そのうち、名前からおそらく女性だと思われる人が13人でした。男女どちらもありうる名前は、女性としてカウントしても、このくらいの数字です。割合にして約7.6%。かなり少ないですね。地方によって違いはあるかも知れませんが。ちなみに、全国の数字を出していないのは、カウントするのに力尽きたからです。根気のある方はトライしてみて下さい。

2 女性副検事については、以前こんな記事を書いたことがありました。

 

 

  こうしてみると、実際に女性として副検事を目指すか否か、というところについては、やはり色々考えることがありそうですね。それを言ったら、男性であっても、全国異動と家族のことを理由に、副検事任官を断念する人もいるくらいですから。まあ、悩みますよね。

3 あと、女性副検事の場合は、「ロールモデルが少なすぎる」という問題もあると思います。

  女性検事の場合、任官者の約半数が女性であり、しかも結構な割合で独身のうちに任官をしています。そして、全国異動をしながら、相手を見つけて結婚したり、お子さんを産まれるケースも、実例が随分積み重なっています。そういう意味で、ロールモデルが多くあるので、参考にしやすい、というのはあると思います。ただ、もちろん、どちらかというと女性検事の方が、男性に比べて、家庭の事情を踏まえて途中で退官するケースも多いようではありますが。

  これが、女性副検事の場合、そもそも人数が少ないので、参考になる前例がとても少ないのだろうと思います。そうなると、副検事試験の受験を考えている女性としても、気になる疑問や心配を解消する手段・情報が乏しく、受験に踏み切れない、ということになるのだろうな、と思います。

4 ここは一つ、考え方を変えてみて、すでに実例が多くある「女性検事」を参考にしてはどうか、と思います。

  例えば、独身の女性検事が結婚するケースの中には、「同僚検事(先輩・後輩含む)」や「検察事務官(立会事務官のケースが多い)」などもそれなりの数あります。また、どういうつながりかは不明ですが、警察官と結婚したというケースもあるようです。もちろん、刑事司法の業界以外の相手と結婚されている方も多くおられるとは思いますが、業界内でもそういう機会はあるようです。

  既婚者の女性検事の場合は、やはり異動による影響が大きいのは、お子さんの関係のようです。産前産後を問わず、やはり夫婦一緒に生活する必要がある時期はあります。そして、産後については、今は特に支障なく育児休が取得できます。まあ、収入面の問題はありますが。特に、副検事の場合、基本的な業務は「捜査・公判」であり、育児休暇を一定期間取得したとしても、それまでに重ねた経験を活かして引き続き業務に復帰することができます。育児休暇中は、法改正と新しい判例等を追いかけて、頭の片隅に「そんなのがあったな」という程度のアンテナを立てておけば、大体大丈夫なようです。産前については、ここはもう「家庭の事情」を力説して、なんとか夫婦同居可能な場所に置いてもらうことでしょう。産前に限れば、せいぜい数年の話です。そのくらいなら、無理は聞いてもらえると思うのですが。

  まあ、こう書きましたが、育児休暇後も、就学した後は働きながらの子育てになります。やはりできる限り夫婦同居が良いことは間違いないです。時短勤務をされている女性検事もおられたりするそうです。その辺も、女性検事のケースを参考にする余地は大きいように思います。

5 役所側として、女性副検事を増やしたいか、というと、多分、本当に増やしたいんだと思います。

  理由の一つは、副検事の定員充足の関係です。公式の統計によっても、副検事の定員は埋まっていません。ここをなんとか埋めることで、検察官の人数を増やし、業務に取り組むマンパワーを確保したいのは間違いありません。しかし、副検事試験合格の間口を簡単に広げるつもりがないのは、合格者数を近年であっても簡単に増やしていないことから明らかです。そして、副検事試験受験者の中に女性が占める割合は、明らかに少ないです。女性受験者を増やすことは、副検事に適性のある女性合格者を増やすことにつながります。要するに、「能力があるのに受験をためらっている女性に受験してもらいたい」ということと思います。

  また、検察官の業務の中には、やはりどちらかといえば女性検察官が担当した方が良い業務というのもあります。特に、犯罪被害者には、女性や子供が多く、これらの方の心情に寄り添ったり、犯罪被害を打ち明けてもらう際に、女性検察官の方が良い場合というのは、それなりにあるものです。女性副検事の数が少ないままだと、こういう場合に女性検事しか選択肢がなくなってしまいます。こういう観点からも、女性副検事のニーズはあるのだろうと思います。

  余談ですが、30年くらい前だと、女性検事の数もそんなに多くはなかったそうです。ある地検では、本庁・支部を含めて、女性検事、女性副検事が1人もいなかったとか。そんなところでちょっと社会の耳目を集める事件があったところ。なんと上級庁が、被害者対応のために他の地検から女性検事を応援に送り込んでくれたそうです。やはりそのくらい、女性検察官が必要な場面がある、ということと思います。

6 あと、これは単なる思いつきなんですが。

  副検事試験に合格した後、実際に任官する時期について、若干の延期を認める、というのはどうでしょうか。現状だと「合格したら次の4月に任官」と決まっています。これだと、「合格したらすぐに任官できる状態」でないと、そもそも受験をためらってしまいます。そこを、「合格したら、それから1回目から3回目の4月のどこかで任官」できるようにするのです。これだと、とにかく試験を受けておいて、合格したら任官するための生活・家庭環境等を調整する、ということができます。任官までの間は、「副検事試験に合格した検察事務官」として働くことになりますが。これが役に立つのか、立たないのか、ちょっとイメージが湧きません。もちろん、役に立つと思ったから書いているのですが、女性の立場としてどうなのか分からない、ということです。賛否について、コメントがあれば、お願いします。

 

 

   

憲法その13(令和7年参考答案)

1 ようやく令和7年の分にたどり着きました。どこからか「おせえよ」という文句の声が聞こえてきます。すみません。頑張ります。

2 一応、問題を載せましょう。

問1 日本国憲法において、自由権以外の基本的人権としてどのような人権が定められているか、種類ごとに分けるとともに、各人権がいずれの条文によって規定されているか明記しつつ述べなさい。
問2 「精神的自由権は、経済的自由権に比べて優越的地位を占めるので、裁判所において、これらを規制する法律の違憲性を審査する際には、経済的自由権の規制立法の場合はより緩やかな基準で足りるが、精神的自由権の規制立法の場合はより厳格な基準によって審査するべきだ」という考え方の趣旨と根拠について、精神的自由権と経済的自由権の意義、両者の性質の違い、民主的政治の過程、裁判所の審査能力に言及しつつ論じなさい。
問3 酒類の販売業を免許制とし、免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合など、その経営の基礎が薄弱な場合には免許を与えないことができることを法律で定めることに関する憲法上の問題点について、問2の考え方を踏まえた上で論じなさい。
3 では、問1からいきましょう。
「1 問1について
   憲法は、国民が主権者として政治に参加する参政権として、公務員を選定し、罷免する権利(憲法15条)、最高裁判所裁判官の国民審査(憲法79条2項、3項)、地方自治体の住民投票(憲法95条)などを定めている。
   また、国民が人権侵害に対抗し、人権を確保するために、国に一定の行為を求める国務請求権として、平穏に請願する権利(憲法16条)、裁判を受ける権利(憲法32条)、国家賠償請求権(憲法17条)を定めている。
   また、人間らしい生活を営む配慮を国に求める社会権として、健康で文化的な最低限度の生活を営む生存権(憲法25条)、教育を受ける権利(憲法26条)、勤労の権利・労働権(憲法27条、28条)を定めている。」
で良さそうです。ここは、条文を見て書いていけば良いところのようです。採点のポイントとしては、「問題文が求めている『分類』をしていること」「少なくとも2つの分類を指摘すること」と研修誌の「答案の傾向等」にありました。分類とか、その分類の簡単な説明については、ちゃんと勉強しておかないと分からないですよね。ただ、こういう分類って、勉強するときに結構飛ばしがちと思います。実際に本番で書くときは、参政権と社会権をなんとかギリギリ書くくらいでしょうか。
4 では、問2です。
「2 問2について
   精神的自由権とは「個人が精神活動を営むことについての自由を内容とする自由権」である。経済的自由権とは「個人が経済生活を営むことについての自由を内容とする自由権」である。
   精神的自由は、思想・良心の自由(憲法19条)、表現の自由(憲法21条)などの精神活動に関する自由である。これは、国民が参政権を通じて直接的には国会議員の選出、その他国会、内閣、裁判所という国家作用に対して民主的コントロールを及ぼし、国民主権を実現するための前提となる精神活動を保障するものである。このように、国民自ら国家作用をコントロールすることで、国家権力の行使が国民主権の下でなされ、治者と被治者の自同性が保たれるという民主政治の過程が実現されることを憲法は予定している。このような精神的自由の性質から、これへの侵害は民主政治の過程への大きな脅威となり、かつ、一旦傷つけられると、容易に国民は国家権力へのコントロールを失ってしまう、という特性がある。
   経済的自由は、職業選択の自由(憲法22条)、財産権(憲法29条)などの経済活動に関する自由である。これらも人権として保障される重要性を有するが、もし国家権力によって経済的自由を侵害された場合には、国民は、民主政治の過程を通じて、国家権力をコントロールし、是正することが可能という特性がある。
   以上を踏まえて、設問の考え方を検討する。精神的自由権が経済的自由権に比べて優越的地位を占めるとするが、その趣旨、根拠は、人権の重要性に差があるのではなく、人権の脆弱性に照らして、精神的自由権により強い司法権による保護が与えられるべきである、というものであれば、設問の考え方は妥当である。
   また、違憲立法審査の場面で、経済的自由権の規制立法はより緩やかな基準で足りるとする点は、その趣旨、根拠は、経済的自由権の規制立法には、社会経済の様々な要素を考慮する必要があるところ、これらの専門家ではない裁判所は、その規制立法の適否を厳密に審査する能力を十分備えているとは言い難く、国会の判断を優先すべきこと、権利侵害を民主政治の過程で回復可能であることから、より緩やかな基準で足りるとするもので、妥当である。
   一方、精神的自由権の規制立法は、より厳格な基準によって違憲立法審査がなされるべきとする点は、その趣旨、根拠は、精神的自由権の規制立法については、国民主権、民主政治の過程への影響の程度等と規制の必要性という、裁判所が判断能力を十分発揮できる事項に関するものであり、かつ、前記の通り、精神的自由権は一旦傷つくと国民の国家権力に対するコントロールが大きく損なわれ、その影響が極めて大きいことにあり、より厳格な基準によるべきとするもので、妥当である。」
 でどうでしょうか。長いっすね。まあ、あとはどれだけ圧縮して書けるかですね。
  こういう時に、二重の基準の趣旨、根拠について、まとめて判示した最高裁判例があると良いのですが。実際は、まとまった判示はなく、一連の判例によって二重の基準への支持が示されている、と理解されているようです。ただ、最高裁の判例が二重の基準をはっきりまとめて書いていないのに、副検事試験では、はっきりまとめて書かないといけない、というのは、何か矛盾を感じます。
  研修誌の答案の傾向等の指摘では、精神的自由、経済的自由の意義に触れていない答案が散見されたそうです。出題が「意義」と明示しているので、定義を覚えていなくても「こういう意義を有するもの」みたいなことを何か書いた方が、まだマシと思います。民主政治の過程、裁判所の審査能力については、比較的多くの受験生が両自由権の違いを示せたそうですが、逆に、そこの理解不十分な答案は評価は低かったようです。また、「精神的自由は絶対的保障、経済的自由は一定の制約OK」等の誤った理解を前提とした答案も、評価が低かったようです。二重の基準って、別に人権ごとに優劣をつけているのではなく、あくまで「裁判所が違憲立法審査権を行使する時にどうするべきか」という裁判所が力点を置くべき部分を明らかにする理論なんですね。
5 では、問3です。
「3 問3について
   酒類販売業を選択し、営むことは、職業選択の自由(憲法22条)により保障された人権であるが、一定の公共の福祉による制約を受ける。そして、酒類販売業を免許制とし、破産者で未復権のものなど、経営の基礎が薄弱な場合に免許を与えないとすることは、職業選択の自由に対する強力な制約となる。
   問2の考え方を踏まえると、職業選択の自由は経済的自由権であるから、違憲立法審査の場面では、精神的自由権に比して、より緩やかな基準で足りることとなる。したがって、制約の目的、制約の程度に合理性が認められれば、国会の判断を尊重し、合憲と判断すべきと考える(合理性の基準)。
   問3の制約の目的は、酒類販売に際しては酒税が課せられており、酒類販売業に従事する者は、事業の中で、この酒税を適切に購入者から徴収し、国家に納付する必要がある。経営基盤の薄弱な酒類販売業者は、事業を継続する能力が十分ではなく、倒産等の事態に陥り、酒税の適切な徴収、納税という役割を果たせなくなる可能性が認められる。制約の目的には一定の合理性が認められる。また、酒類販売業については、破産者で復権を得ていない場合も一律禁止等ではなく、免許制度が導入されている。単なる届出制よりは制約の程度が強いが、経営基盤の強さを判断する必要があることに照らすと、免許制という制約の程度にも一定の合理性が認められる。
   以上から、酒類販売業に関する問3の制約については、違憲立法審査の場面では、合憲と判断されるのが相当である。」
 と、こんな感じですかねえ。同じような内容を繰り返してしまい、結構長くなりました。とはいえ、問2の二重の基準論を踏まえないもの、具体的な憲法判断基準を示していないものは、点数が高くなかったそうです。ちゃんと規範を提立して当てはめを書いていると、このくらいになっちゃいます。仕方ありません。大体この答案で1400字ちょっと、のようです。一応、1時間で書ける分量にはなっているみたいです。
 
 
 
   

氏名不詳者

1 刑事手続では、「人定」というのを大事にするそうです。

  特に被疑者について問題になりますが、要するに「この人がどこの誰なのか」ということです。分かりやすいのは、逮捕状とかですね。警察が逮捕状を請求して裁判官が逮捕状を発付します。その時に、その逮捕状で逮捕をして良いのが「誰なのか」が確実に特定されていないといけません。日本人の場合には、戸籍や住民登録を確認して「氏名」「生年月日」「本籍」「住居」などで特定します。職業を入れることも結構ありますね。ですから、逮捕状に記載された被疑者の名前について、「漢字がちょっとだけ違った」というのは、刑事手続では大問題になります。全く違う漢字を使うことは普通はありませんが、「よく似ているけど違う漢字」とかありますからね。例えば「享」と「亨」とか。読みも同じなのに、横棒があるとないで別の漢字ですからね。あと、特殊漢字も危険です。渡辺さんの「辺」の特殊漢字なんて、微妙に線が繋がっているのと切れているの、とか区別しだすと、何種類あるのでしょうか。

  また、在宅事件でも、人定は重要です。例えば、在宅のまま起訴された被告人がいたとします。その被告人と、起訴状に記載された被告人の名前の漢字が違った場合、「その起訴は、本当にその被告人の起訴と取り扱って良いのか」が問題になります。時効完成ギリギリの在宅起訴とかもあるので、ちゃんと被告人に起訴の効果が帰属してくれないと、時効が完成してしまったりする危険もあるわけです。

2 まあ日本人の場合は、戸籍がありますし、大半の日本人は、最初に捕まった時には、素直に名前を言うので、すぐに人定が判明します。そして、指紋を登録されるので、その後に犯罪傾向が進み、警察に捕まったとしても名前を言わない、という状態になったとしても、指紋を照合してしまえば、比較的容易に人定を特定できます。

  ところが、外国人の場合、そうもいかないケースがあるそうです。

3 特に、不法在留、不法残留している外国人の場合、警察に捕まると、起訴されても不起訴になっても、結局入管(出入国管理庁)に引き渡されて、最後は母国に強制送還されるルートに乗ることがほとんどです。

  それが嫌で、悪いことをして警察に逮捕されても、一切名前を言わず、何も喋らない、と言う(おそらく)外国人がいたりするのだそうです。そういうのに限って、身分証明になるものを何も持っていなかったりするとか。

  初めて捕まった被疑者の場合には、指紋の登録もありません。外国人についての指紋登録制度は、批判が多くて廃止になりました。なので、警察として、「本人も言わないし所持品からもわからない。指紋も全くヒットしない」という氏名不詳の被疑者を取り扱う事が、ごくたまにあるのだそうです。

4 さて、こういう氏名不詳の被疑者であっても、犯罪の嫌疑があって現行犯逮捕とかしたら、48時間以内に記録と身柄を検察庁に送致しなければなりません。でも名前は書けない。どうするかというとですね。例えば、その被疑者が男性で(収容時の身体検査で確認できます)、新宿警察署の留置場27号室に身柄拘束されているとしましょうか。送致記録の被疑者の表示は、「新宿27号こと別添写真の男」として、次のページに被疑者の写真を添付するのだそうです。「別添写真の男」・・・ちょっと格好いいかもしれません。なお「こと」というのは、いわゆる「こと名」です。通称というのでしょうか。ヤクザ屋さんなんかだと、「渡世名」といって、本名とは別のヤクザとしての名前を使ったりします。また、作家・漫画家のペンネームも「こと名」ですね。

  その後、勾留請求、勾留延長請求、起訴となっても、人定が不明なら、ずっと「新宿27号こと別添写真の男」が続きます。公判でも不明のままなら、そのまま判決を受けて確定することになります。

  どうしてそこまでするのか、というとですね。被疑者・被告人の国籍が特定できない場合だと、強制送還できないケースがあるんだそうです。要するに「どこに送り返したらいいのか、特定できないから」ということのようで。外国人であるかどうかすら、証拠では特定できていない場合、そもそも入管に引き渡せないようです。結局、初犯で執行猶予がついたりしたら、その場で釈放されてしまいます。

5 まあ、そんな人な訳ですから、また繰り返し悪いことをして捕まったりすることもありまして。その場合、今度は、「渋谷16号こと別添写真の男」などと「こと名」を変えて、検察庁に送致されてくることになります。ただ、指紋があるので、その人の前科の内容だけは特定できたりします。この場合、ちゃんと前科を加味した刑事裁判を開く事ができます。裁判官の判断によっては、実刑判決により刑務所に収容することもできます。この場合、もちろん、刑務所に収容されますが、満期まで勤め上げると、やはり釈放されます。外国人であることの証明ができない限り、仕方がありません。

6 まあ、今の世の中、所持品に全く身分を示すものがない状態で暮らすことは、かなり難しいと思います。そういう意味では、かなりレアケースと思うのですが。

 

 

   

風呂敷について

1 今回は、検察庁の変わった備品を一つ。風呂敷です。一応、分類としては消耗品になるようです。役所の支給品は、青紫に桐の紋が基本ですかね。結構、自前でお気に入りのを調達している検察官も多いように思いますが。

2 他省庁の方は、あまりピンと来ないかもしれません。ただ、検察庁に勤務している者は、みんな風呂敷を何に使うのかを知っています。公判のために裁判所に行く検察官が、記録などを包んでいくのです。

  この令和の時代に、風呂敷が未だに現役で活躍していること自体、普通に考えたらおかしいですよね。ということは、きっとそこには、他の選択肢ではなく、風呂敷の選択が合理的である理由があるのだと思います。そんなことを、ちょっと記事にしてみました。

3 例えば、弁護士は風呂敷は使いません。弁護士が法廷に来るときは、普通は手提げバッグ、リュック型バッグ、記録が多いとキャリーケースのことが多いでしょうか。時代を考えると、普通はそういう選択になるはずですよね。

  では、どうして検察官は、未だに公判に行くときに風呂敷を使うのでしょうか。

4 まあ、想像なのですが、一つの大きな理由として「軽い」というのがあるんでしょうね。なんたって、布切れ1枚ですから。あれで200〜300グラムくらいあるんでしょうか。それが、例えば手提げバッグになると、バッグ自体の重さが結構あります。ただでさえ記録が重たいのに、バッグの重さまで持ちたくない、というのは、風呂敷が選ばれる理由なのかなと思うのです。

  あと、記録の出し入れが簡単、というのもあるのではないでしょうか。風呂敷の場合、手近なところに畳んで置いといて、必要なときにはパッと広げて記録を載せて、チャッチャッと結べば準備OKです。これが、手提げ、リュックやキャリーケースだと、そもそも置いとく場所が必要です。そして、取り出したらチャックを開けて、カバンを広げて、記録を入れて、またチャックを閉じる。どうやら、やってみると、意外と場所を使う上、時間もかかるみたいです。しかも、行きは検察庁で準備できますが、帰りは法廷の机でやる必要があります。風呂敷でチャッチャッとやるのと、カバンやキャリーケースを開けるのでは、だいぶ手軽さが違うみたいです。

  他にも、よく言われているそうですが、大量の記録に対応しやすいのだそうです。A4版で50センチの厚さの記録を2山入れるとなると、どれだけのカバンが必要になりますかね。風呂敷だと、1山なら1枚の風呂敷でなんとか入ります。それを2つ両手に下げて行くのは、確かに重いですが、まあ、裁判所までのことですし。記録を裁判所に提出したら、帰りは中身がすごく軽くなるそうですし。

  まあ、こんなあたりが、令和の時代、未だに風呂敷が実際に重宝されている理由なのかな、と思います。

5 しかし、風呂敷にもデメリットはあります。

  その最たるものは、「利用者が少ないので、ものすごく目立つ」ということです。今の時代、風呂敷持って外を歩いていたら、それだけで目立ちますよね。和服ならまだしも、男性であれ女性であれ、スーツ姿で風呂敷を持って歩いていたら、それこそ職務質問ものです。「風呂敷は泥棒の始まり」みたいなイメージでしょうか。

  検察官が風呂敷を愛用できるのは、検察庁から裁判所までの往復、という極めて限定された移動ルートしか使わないから、という条件に支えられています。理想的には、検察庁と裁判所が、公道に出ることなく移動できることです。敷地の間にドアがあるとか、地下道で繋がっているとか。まあ、検察庁と裁判所が離れている場合は、官用車による行き来があることが多いそうなので、それはそれでなんとかなるらしいです。

  とはいえ、目立つことは間違いありません。裁判所で、法曹三者を見分けるのは簡単です。法服を着ているのが裁判官。スーツで風呂敷を持っているのが検察官。手提げかリュック、キャリーケースを持っているのが弁護士です。

  尚、伝説で聞いたレベルの話ですが、東京地検のオウム事件の裁判担当検事は、風呂敷を持っていると検事だとバレるので、裁判所に行くときにはあえてカバンを使っていた、と聞いたことがあります。担当検事なら、どうせ面は割れているでしょうから、大した意味はなかったとは思うのですが。

  あとは、風呂敷は、防御力が弱いらしいです。問題になる場面は、記録と一緒に、証拠品を運ぶ時なのだそうで。刑事裁判で法廷に持っていく証拠品というと「違法薬物」「銃器」「凶器」など、結構ヤバいものが多いらしいです。特に、「違法薬物」「銃器」は、本来持っているだけで違法・犯罪になるものを、刑事裁判に使うという正当業務行為であるから運搬を許されている、という状態になるわけで。誰かに奪われたりしたら、大変なことになります。そんなものを風呂敷にチャッチャッと包んで運ぶのは、流石に心許なかったりするそうです。動線が公道に出ないで済むか、せいぜい隣の建物に歩いていくレベルならまだ良いのでしょうが。できるだけ、そんなもの外で運びたくないですよね。ちなみに、裁判所もそんなものを管理したくはないようで。証拠として取調べたら、検察庁に持って帰らせて、検察庁で管理を継続してもらう、という大変賢い対応をすることが多いそうです。検察庁がんばれ。

6 そんな風呂敷も、消耗品として役所が準備してくれれば良いのですが、別に毎年新調してもらえる訳ではないのだそうです。役所のどこかにとりあえず必要そうな数だけあるし、結構丈夫なので、それこそ「10年も20年も」使えてしまうみたいな。おそらく、生まれてこのかた一度も洗濯されたことがないであろう由緒正しい風呂敷が、どこからか現れてしまうらしいです。この国家財政逼迫の折、むしろ便利で経済的な手荷物運搬手段である風呂敷に、改めて国家予算の目が向いてくれることを願っています。