副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

副検事試験の合格率

1 副検事試験の受験者数、合格者数が法務省のホームページに掲載されています(検察官特別任用分科会議事内容)。これをちょっと見てみましょう。「数字→数字」は「受験者数→合格者数」の意味です。

  令和5年の数字は、まだ掲載されていません。

  令和4年 筆記試験 119→23(19.3%)  口述試験 25→23

  令和3年      144→47(32.6%)                         47→45

  令和2年      149→36(24.1%)                         37→37

  令和元年      154→41(26.6%)                         44→43

  平成30年     149→46(30.8%)                         46→43

  平成29年     151→38(23.1%)                         41→39

  平成28年     141→38(26.9%)                         39→36

  平成27年     125→27(21.6%)                         28→27

  平成26年     123→26(21.1%)                         26→25

  平成25年     116→28(24.1%)                         30→30

  平成24年     100→25(25.0%)                         25→23

  平成23年     115→27(23.4%)                         29→29

 

  副検事 在籍800人(R4.7.1、検察官在職状況統計表による)  

 

2 ちなみに特任検事試験についても数字があります。

  令和4年 筆記試験   9→2        口述試験  2→0

  令和3年       11→0

  令和2年        9→1              1→1

  令和元年       12→0

  平成30年       9→0

  平成29年      10→1              2→1

  平成28年      13→1              2→0

  平成27年      19→2              2→1

  平成26年      18→0

  平成25年      15→0

  平成24年      15→1              1→1

  平成23年      19→1              1→1

 

3 さすが、特任検事試験は厳しいですね。

  また、副検事試験もざっくりと20%台半ばと、決して容易ではありません。しかも、意外なことに年によって合格率が随分とばらけています。令和4年なんて20%を切っていますね。

  ちょっと考察をしてみましょう。副検事の数は前記の通り令和4年7月で丁度800人です。ところが、「検察庁の職員の配置定員について」という通達では、令和4年3月30日時点で、副検事の定員は879名とされています。つまり、副検事の数は定員に足りていないんですね。遡って確認すると分かると思いますが、この状態は急にそうなったものではなく、一定期間、こういう状態が続いています。ということは、当局は、副検事試験実施にあたって、定員を直ちに埋めることを優先していない、と思われます。もちろん、定員に空きがあるのですから、できればこれを埋めたい気持ちがあるのは当然でしょう。ですから、ここで言えるのは、「当局は副検事としての能力を度外視してまで定員を埋めようとはしていない。」ということでしょう。つまり、副検事に任官するための一定の素養を備えている人材を選抜しており、そこに至らないと判断された人材は、欠員があっても採用していないと思われます。そう考えれば、年によって合格率にバラツキがあるのもうなづけます。

4 じゃあ、どういう基準で人材を選抜しているのか、そこは謎に包まれたままですね。手がかりは、それこそ研修誌の「設問の題意及び答案の傾向等」くらいでしょう。設問の題意等を外した際の冷酷な物言いを見ると、恐怖すら覚えます。しかし、出題が難しすぎた際には、柔軟に採点基準を調整(当初の採点基準にとらわれず、答案の傾向に合わせて能力の高低を評価できるよう基準を差し替える等)している様子も見えます。また、毎年違う問題を出題する中で、絶対的な評価をすることは、事実上困難でしょう。そういう意味で、結局はその年の受験者の中でどの程度できたか、という相対的評価に頼らざるを得ないと思います。毎年ほぼ20%は合格しているのですから、最低限このくらいは毎年採用する、と見ることができます。そして、そこからの上振れ分は「相対的評価では20%に入らなかった方から、能力の高い人を救済した」と考えれば、全体を合理的に理解できるのかな、などとも思いました。本当かどうかは知りませんが。

憲法その9(令和5年答え合わせ)

0 愚痴になりますが、こういう答案系の記事って、書くのが大変な割にアクセス数が伸びないんですよね。おそらく、ガチ勉強中の方でないと、そもそも読もうと思わないからだと思いますし、それは仕方ないことなのですが。数は少なくても、読んでくださる方がおられると信じて、書いていきます!

  ということで、研修誌2023年10月号出ました。恒例の、副検事試験に関する「設問の題意及び答案の傾向等」による答え合わせです。毎年思うんですけど、この研修誌の記事、結構指摘が厳し目ですよね。勉強なしで答案構成をした上で、苦手な憲法民法の答え合わせをしていると、いつも心が折れそうになります。まあ、合格ラインを示すためには、ある程度の厳しさは必要なのでしょうが、設問の題意から外れた答案に対する仕打ちが冷酷というんでしょうか。逃げ道なくこき下ろされ、「勉強しろ!」と突き放される感じがします。それでも私は勉強しないんですけど。

1 では行きます。

  「設問の題意」ですが、「司法権についての基本的な理解を問うもの」とのことです。問1で「意義と例外」を、問2で問1を踏まえ「法律の争訟」(裁判所法3条1項)該当性の当てはめと、該当する場合の更なる例外の検討を求めているそうです。

  答案構成の時は「やっと三権分立が出た!」と喜んでいたのですが、やっぱり三権分立は設問の題意ではなかったようです。「研修教材五訂憲法に載ってる」「過去にも出題されている分野」と、当然勉強してるよね、的な指摘で締められています。勉強しない派としては、早くも崖っぷちに追い込まれた感があります。

2 「答案の傾向等」です。

  問1は、司法権の意義は多くが正確に記述しており、例外の「議員の資格争訟裁判」「裁判官の弾劾裁判」も概ね指摘できていたそうです。例外については、条文の指摘がない答案が散見された、と指摘が入っています。

  私の答案構成は、「司法権の意義」が書けていないのでしょうね。自分としては、三権分立に言及しているところで書いているつもりなのですが、出題側は、いわゆる「司法権の定義」を書くことを求めているのでしょう。また、三権分立については、出題意図と思って厚めに論じたのですが、多分ほとんど点数にならなさそうな雰囲気です。昔の司法試験は、これで通用したんですけどね、、、。例外の指摘を外さなかったのだけが救いです。

3 問2です。

  出題者としては、問1を踏まえて「法律上の争訟」の各要件を充足するか、充足したとしても別の理由によって司法権が及ばないとするか、という当てはめをしてほしかったようです。

  問2(1)について。「具体的権利義務ないし法律関係に関する紛争」に当たらず、そもそも司法審査が及ばない、という点が重要だったようです。一方、「法律上の争訟」の要件を検討することなく「立法権侵害」「違憲審査の性質」等を論じた答案が散見された点について「司法権の意義、要件の該当性から論じるという法的思考力が不十分」と切り捨てています。ほら、厳し目ですよね。いきなり立法権侵害から論じた身としては、逃げ場がありません。念のために付け加えた「具体的争訟云々」のところがメインでした。一言触れておいたことで、首の皮一枚つながった、という感じです。

4 問2(2)です。

  「板まんだら事件」が題材だそうです。名前は覚えています。インパクトありますもんね。私の答案構成は、出だしは「具体的争訟であり司法審査の対象になるようにも思われる」と悪くありません。ただ、その後に信教の自由の話に流れてしまいました。出題側は、「実質的には法令の適用によってに解決することができない→実質的には法律上の争訟に当たらない」と論じてほしかったようです。ただ、これを「丁寧に論じられた答案は少数であった」そうです。難しすぎたんじゃないですか?と突っ込みたいところです。この小問は、ギリギリ及第点でしょうか。

5 問2(3)です。

  悪い予感は当たるものです。「その場で考えてね」ではなく、令和2年11月25日の最高裁大法廷判決があるところだそうです。「研修教材においても記載されている重要判例」とのこと。知りませんでしたが、仕方ないので初めて読みました。裁判所の裁判例検索に全文が載ってました。従前は司法審査が及ばないとしていた最高裁判例を、大法廷判決で変更したのですね。それはさすがに重要判例です。

  私の答案構成は、変更後の判例とは異なる立場で、しかも対立利益(出席停止とされた議員が、議員としての本質的業務を行えないこと)に対する検討、配慮がほぼありません。ちょっとこれでは良い点はつかないでしょうね。判例に沿った記述をしていれば、そこそこの評価はしてもらえると思います。不勉強な人間は、残念な目に遭いますね。判例変更前だったら、私の答案構成でもそれなりに点数をもらえたはず、と強がって自分を励まします。

6 答案構成の自己評価ですが、どうなんでしょうねえ?自分としては、憲法統治は最後は三権分立の問題だと思っていますし、その観点からは、私の答案構成でも間違ってはいないと思うのです。ただ、設問の題意等の記載からは、三権分立への言及にそれほど配点があるようにはどうしても見えません。誰か、副検事試験に詳しい方に、私の答案構成を採点してもらいたいくらいです。ただ、まあ今回も設問の題意を外しました、と受け入れましょう。副検事試験の憲法では、やはり定義、意義から規範を導き、当てはめる、という検討と論述が重視されているのでしょうか。三権分立、ダメなんでしょうかねえ(しつこい)。

  

 

 

 

 

他官庁出身の副検事任官者が経験すると良い(かもしれない)検察業務

1 他官庁出身の副検事任官者は、検察事務官出身の副検事に比べて、刑事事件の経験が不足していることは否定できません。元々の仕事が刑事事件メインではなかったわけですから、当然と言えば当然です。その分、他官庁出身の方は、副検事任官後に努力して経験不足の分を穴埋めして追いつく必要があります。そして、最終的には、すべての分野で他の副検事に追いつき、できれば追い越すのが理想です。

  ただ、全ての分野で追いつき、追い越すには時間がかかります。全ての分野に平等に力を注ぎ込むよりは、効果の大きい分野に集中的に力を注ぎ、まずはその分野において追いつき、追い越してしまえば、その分野に関しては、一人前以上の仕事ができるようになります。いわゆる「得意分野」という奴です。こういう得意分野がある検察官は、結構重宝されます。事件を配点する側からしても、「この分野ならこの検察官は大丈夫」となれば、そういう事件を選んで配点できます。そういう点でも、得意分野を早く作ることは、良いことと思います。

2 もし、元々の業務が、刑事事件の一分野に関わっているなら、まずはそこを強化すべきです。海保出身の方なら海事事件、入管出身の方なら入管事件など。ただ、元々の業務が刑事事件に馴染みがない方も結構おられると思います。矯正、公安調査庁自衛隊、法務局など、、、。こういう方は、どの分野から注力すれば良いのでしょうか。

3 逆にお勧めしない分野から行きましょう。一般刑法犯全般です。一般刑法犯は、守備範囲が広い上に、ありとあらゆる問題点が潜んでいて、問題点の形も定型的でないことが多く、これができるようになるまでには膨大な時間がかかります。検察事務官出身の副検事であっても、一般刑法犯がちゃんとできるようになるまでにはかなり時間がかかるはずです。ですから、他官庁出身の方は、一般刑法犯をできるようになるための修行、勉強は継続すべきですが、そこだけに注力するのは、ちょっと違うかな、と思います。

4 まずお勧めするのは、交通事件です。交通は、検察事務官出身の方は検取経験もあり、道路交通法とかはものすごく良くお分かりです。道交法に関しては、他官庁出身の方のハンデは大きいでしょう。ただ、交通事故となると話は別です。検取の方は、そこまで複雑困難な交通事故を担当することは、あまりありません(例外はありますが)。一方、副検事には、結構高いレベルの交通事件捜査能力が求められます。その意味で、スタートラインがみんなそこまでは変わらないのです。しかも、交通事件については、詳しい検事は限られていて、副検事の方の活躍する場面が多いです。さらに、交通事件は、件数が多いことから、実は各地検の実績(受理件数、処理件数等)への影響が結構大きいのだそうです。なので、他官庁出身の方は、交通事件、しかも交通事故に注力してまずは力をつけることをお勧めします。

  ただ、勘違いしないで欲しいのですが、交通事件は、本当はものすごく難しいようです。轢き逃げとか、過失否認事件など、困難事案ができるようになるまでには、かなり時間がかかります。本当の意味で交通事件ができるようになるためには、交通事件と一般刑法犯事件の両方がかなりのレベルでできる必要があります。また、道交法に精通するためには、副検事であっても、「勉強のため」として、交通切符事件を率先してやったり、三者即決手続(交通切符事件を警察、検察、裁判所が集まって一気に終わらせる手続)について、検取の方に混じってやったり、といった努力が必要と思います。

  あくまで、比較的平易な交通事件に限っては、短期間に集中して力を注ぐことで、ある程度できるようになる、というにすぎません。

5 また、違法薬物の使用、所持事案についても、注力する価値がある分野と思います。その理由は、問題点が比較的定型的であり、身につけるべき事項を網羅しやすいからです。

  ただ、あくまで「比較的」定型的なだけであり、やはり簡単ではありません。使用の否認事件なら、被疑者の弁解を出し尽くさせ、その上で裏付け捜査を行い弁解を潰し、その結果を被疑者にぶつけて弁解が変遷したらまた弁解を出し尽くさせ、裏付け捜査を尽くし、、、ということを繰り返す、という地道な捜査を積み重ねる必要があります。薬物の使用、所持事案について、否認事件を安定的に任せてもらえる副検事は、かなりのレベルの力量がある方と思います。

  なお、大規模な部制庁の検取をやっていた検察事務官は、薬物事件の経験がある程度あったりします。こういう人達は、スタートラインが違うんだ、と思ってください。

6 他にもおすすめの分野があるかもしれませんが、私が思うのはそんなところでしょうか。

  他にも、一般刑法犯の中で、万引(窃盗)、無銭飲食、無賃乗車(詐欺)などは、副検事の方が比較的配点を受けやすい事案です。ただ、こういう事件って、本当に何に問題もない、単純な明々白々みたいな事案は、意外と少ないのです。むしろ、何らかの問題点がある事件の方が多く、しかも事件によって、少しづつ問題点の形が違ったりします。こういう類の事件は、一気にできるようにはなりません。目の前の事件にまずは取り組み、少しづつ地道に成長していくしかないのでしょう。

 

 

 

ご遺族への対応

1 検察官の仕事の中でも難しい仕事に、犯罪被害で亡くなられた方のご遺族への対応があるそうです。ご家族を亡くされた心痛を抱えているご遺族への対応は、相手の気持ちに寄り添い、かつ法律のプロとして、その後の見通し等を適切にお伝えしなければなりません。

2 特に、副検事の方は、交通事故で亡くなられた方のご遺族への対応をすることがあります。交通事故のご遺族というのは、ご遺族の中でも、特に心の傷が深いことが多いそうです。というのは、交通事故というのは、基本的になんの予兆もありません。事故が起きる直前まで、被害者の方もご遺族も、日常の平穏な生活を送っていたのです。それが、いきなり交通事故に巻き込まれ、被害者が亡くなり、ご遺族は突然悲しみの淵に投げ込まれてしまうのです。しかも、交通事故の原因は、多くは単純な過失によるもので「よく見てなかった」「ボーッとしてた」など、およそ家族が亡くなった理由としてご遺族が受け入れられるものではありません。交通三悪(無免許、酒気帯び、信号無視)や不救護不申告(いわゆるひき逃げ)が絡んだら、当然ご遺族の怒りは更に高まります。このようなご遺族の置かれた状況を思うと、簡単に「お気持ちはわかります」などと言えるものではありません。このようなご遺族の気持ちに寄り添うためには、人間として少しずつ心を鍛えていくしか、道はないと思います。

3 また、交通事故について、ご遺族の期待するような刑事処分ができないこともあります。不救護について、犯意(人を事故に巻き込んだ認識等)が立証できない場合や、事故について過失が問えない場合など、該当部分については不起訴にせざるを得ない場合もあります。このような場合、ご遺族の怒りは間違いなく検察官に向かいます。これは、もう正面から怒りを受け止めるしかないそうです。他にご遺族が怒りをぶつける先がないのですから。本来怒りをぶつける先であるはずの被疑者を、不起訴にすると検察官が言っているのですから。正面からご遺族の怒りを受け止めると、何日かはメンタルが不安定になるそうです。それでも、受け止めるより他にないのです。

  なお、このレベルのご遺族への対応になると、通常は検事に任せるか、副検事ならかなりベテランの方が担当することが多いと思います。任官したての副検事が、いきなりこのようなご遺族への対応を担当することはないでしょう。しかし、いずれは、このような難しい業務も担当できるようになる必要があります。副検事に任官した際には、このような業務に備えて、心を鍛えることも忘れないでください。

令和5年副検事口述試験の出題はこんな風だったらしい

1 応試された方から情報をいただきました。ありがとうございます。ただ、先に言っておきますが、誰も責任は持てません。あくまで「なんか、こんな感じだったらしい」というネット上の噂だ、ということを前提に読んでください。

2 事例問題

  令和4年3月1日、Aの息子Bは、Aから何らの代理権が与えられていないにもかかわらず、Aに無断でXに対し、Aの代理人としてA所有の本件土地をXに1000万円で売却する契約を結び、同日、Xから1000万円を受け取ったが、本件土地の所有権登記はXへ移転しなかった。同年6月1日、Bは、同様にAの代理人として本件土地をYにも譲渡し、同日、本件土地の所有権登記がYへ移転した。

  令和5年4月、本件土地の所有権登記がYへ移転していることに気付いたXは、Bに対し、「払った1000万円を返せ。でないとお前を告訴するぞ。逮捕されたら仕事とか失うかもしれないぞ。1000万円を受け取ったっていうお前が書いた領収証もここにあるんだからな。」と問い詰めたが、Bは、意に介しないばかりかXから当該領収証を奪い取って破り捨てた。

  同年5月、甲県の警察署が上記事件を認知してBを逮捕し、Bは甲地検の乙検察官に身柄を送致された。その後勾留されたBは、弁護人と接見するなどした上で、黙秘の姿勢を貫いていたが、乙検察官の熱心な取調べによって本件犯行を自白し、乙検察官はその供述に関する調書を作成した。乙検察官は、甲地検検事正の決裁を受けた上で、Bを甲地方裁判所に起訴した。乙検察官は、上記供述調書を証拠請求したが、Bの弁護人はこれを不同意とした。 

  上記逮捕に伴うB宅の捜索で覚醒剤が見つかったため、Bは覚醒剤取締法違反でも起訴され、併合審理されることとなったが、後日、当該覚醒剤はBが知人から預かっていたものであることが判明した

3 質問と、多分こうかな、というレベルの解答例

民法

・本件のBのXやYへの譲渡行為は民法上何に該当しますか?(解答例:無権代理)

無権代理人Bはどんな責任を負いますか?(相手方の選択により履行または損害賠償責任を負う【117条1項】)

・では、XはAに対して何かできますか?(催告【114条】、取消【115条】)

・では、Yへの譲渡の前に、Aが、BのXに対する無権代理行為に気付きました。Aは無権代理行為を有効にしても良いと思ったら何をしますか?(追認【113条】)

・では、Aが追認するか明らかにしないまま死亡し、BがAの唯一の相続人だとします。Bは追認を拒絶できますか?(信義則上不可)

・では、今回の二重譲渡ですが、原則としてはXとYのどちらが本件土地の所有権を取得しますか?(先に登記をして対抗要件を備えたY【177条】)

・Xが所有権を取得できる場合はないのですか?(Yが背信的悪意者に該当する場合)

背信的悪意者に該当する場合の具体例を述べて下さい。(Yが、仲介者としてBとXの売買契約に立ち会い、契約書にも仲介者として押印していたにも関わらず、未登記に乗じてBから本件土地を買い取り登記を得た場合など。)

 

〈刑法〉

・本件でXはBに対し、告訴や逮捕等の強い言葉を使ってお金を返せと述べていますが、どのような罪に該当しそうですか?(恐喝罪の構成要件に該当しうる。ただし、Xの発言が返金を促すための社会的相当性の範囲内であれば、そもそも構成要件には該当しないこととなる。なお、社会的相当性の判断は、一般人をして畏怖させるに足るか、を基準とし、実際にBが畏怖したかは問われない。)

・本件の二重譲渡行為でBはどんな罪に問われますか?(Yに対する詐欺罪、Xに対する背任罪)

・それぞれ、どう成立するのかを同罪の構成要件を挙げた上で丁寧にあてはめて答えて下さい。(Yには、真実はXに売却済みであるのに、あたかも他に買受人はいないかのように装い、Yにその旨信じさせて売買代金を詐取した。Xには、登記を得させて所有権を移転する事務を担っているのに、この義務に背き、本件土地をYに売却し登記を備えさせた任務違背をした。)

 

〈刑訴法〉

・本件で告訴という言葉が出てきましたが、告訴に関する条文は言えますか?告訴期間は?誰に対してしますか?(告訴の条文【230条】、告訴期間は6か月【235条】、検察官又は司法警察員【241条】)

・ところで、微罪処分とは何ですか?本件では甲県の警察署の司法警察員が事件を認知しましたが、微罪処分をしていいのですか?(検事正【法律上は検察官、246条但書】が指定した事件について、事件を検察庁に送致せずに終結させる処分。本件の微罪処分は不可。被害額1000万円の詐欺や背任は通常、微罪処分の指定範囲から外れているから。)

・Bが領収証を破り捨てた行為は、私用文書毀棄罪に該当しますが、これは親告罪ですか?(その通り【刑法264条、259条】)

・本件で、弁護人はBの供述調書を不同意としていますが、仮に同意していた場合はどうなりますか?(同意書面として証拠能力が認められる【326条】)

・本件調書は、不同意となっていますが、検察官としてはどう対応しますか?(不利益供述書面として証拠調べすることを裁判所に請求する【322条1項】。任意性を争われた場合には、取調べを担当した検察官を証人尋問請求して任意性を疎明する。)

 

憲法

・今回Bは当初黙秘していましたが、黙秘権に関する憲法上の条文を教えて下さい(【38条1項】)

・乙検察官は、黙秘しているBを熱心に取り調べて最終的に自白を獲得しているが、これは違憲ではないのか?(供述の強要に至らない説得は憲法上許される。)

・黙秘権が憲法上保障されている趣旨は?(自己負罪の強要防止)

・ところで、今回の覚醒剤はBの知人の物とのことですが、どのような場合に第三者の所有物を没収していいのでしょうか、判例があるならその判旨を述べて下さい。(第三者が所有権を放棄しているか、公告等の手続により第三者が自己の権利を保護する機会が設けられた上で、第三者が権利行使をしないことが推認される場合。)

 

検察庁法〉

・今回、乙検察官は、甲地検の検事正の決裁を受けていますが、この決裁は何条に規定されていますか?(指揮監督権【9条】)

・このような指揮監督権を含む原則を何と言いますか?定義も答えて下さい。(検察官同一体の原則)

・独任制官庁の定義を答えて下さい。(検察権は個々の検察官に属し、検察事務については、個々の検察官が、自ら国家意思を決定する権限を有する。)

検察官同一体の原則と独任制官庁の定義を今述べてもらいましたが、この二つは矛盾しませんか?(共に検察権の本質から導かれるため調和する)

 

4 感想

  自習として、文献を参照しながら答えを考えるのであれば、そこまで難問という訳ではありません。ただ、これを、試験本番というプレッシャーの下で、試験官2名と対峙し、口頭で即座に回答する、という条件では、なかなか手強い問題と思います。一応、六法は貸与されますが、「条文を見てもよろしいですか?」と聞くと、大抵は「まずは条文を見ないで答えてみて下さい。」と言われます。頼れるものは、本当に自分だけです。その状況下で、頭の中で考えるのではなく「言葉に出しながら」考えて、助け舟を試験官に出してもらいながら、何とかゴールに辿り着くことが求められています。そういう意味で、口述試験で求められているのは、スラスラ答えを言える知識等ではなく、「分からない問題を、何とか試験官を巻き込んでゴールに辿り着く人間力」であるようにも思われました。口述試験を終えられた方は、お疲れ様でした。

              

        

 

 

副検事試験の口述試験等

1 今年、副検事試験の論文試験を突破した方から、検事長面接と、その後に実施される口述試験についての情報をいただきましたので、ご披露させていただきます。

2 論文試験を合格すると、次の試験は口述試験なのですが、その前に「検事長面接」というのがあるそうです。そういうのがある、ということは聞いていたのですが、口述試験の後だと思い込んでいたので、口述試験の前であることは、私自身、今回初めて知りました。

  ちなみに検事長というのは、全国8高検の長官と、次長検事(最高検のナンバー2)の9人を指して言います。検察庁法を勉強した方は、名前は知っていると思いますが、他官庁の方だとどんな立場の人か、イマイチピンとこないと思います。そこで、まず検事長とはどんな存在か、ということを簡単にお話ししましょう。

  分かりやすいのは、俸給がどのレベルに設定されているか、ですね。検事長は、大体ですが、政務官副大臣の間くらいの位置付けになります。東京の検事長だけ、ちょっと俸給が高いのですが。ちなみに、検事総長は大臣と同じ位置付けです。まあ、結構えらい感じだ、というのは伝わるでしょうか。

  なお、検事長になる人と言うのは、検事のうち、①法務省で行政関係をバリバリ頑張って偉くなった人、②特捜部などで捜査をバリバリ頑張って偉くなった人、③ ①と②を両方バリバリ頑張って偉くなったスーパーマン、がなることが多いようです。まあ、普通の検事は、およそ「検事長になりたい」とかは考えませんし、それなりに偉くなった人の中で「検事長になりたい!」と強く思っている(ことが言動から容易に透けて見える)検事でも、なれない人も結構いるとか。

  ちなみに、検事長は「認証官」と言って、辞令は天皇陛下からいただきます。辞令のいただき方にもお作法があるみたいで、「自宅で20回くらい練習した」と言ってた人もいました。

3 こんな感じの人が検事長です。そう聞くと、「検事長面接」の心理的ハードルが上がってしまうかもしれません。ただ、さすがに検事長になるくらいですから、ほとんどの人は、人柄的にも元々穏やか、又は検事長になってから穏やかになられるようです。安心してください。

4 それでは「検事長面接」についてです。知ったような口をききますが、情報提供をいただいた伝聞の話ですので、決して私が自分で体験したものではありません。

  面接官は、検事長以外にも複数人おられたそうです。陪席が誰だかは想像するしかありませんが、高検次席検事、事務局長、総務課長あたりでしょうか。

  質問事項は、志望動機、長所短所、検察庁に入ったら何をしたいか、被疑者や被害者とどのように接していくのか、などだそうです。やはり、人物評価や、検察官としての資質を確認することに主眼がありそうです。

5 そして、本番の口述試験です。やり方は、長文問題を15分間検討し、30分で口述の試験です。具体的には、検察庁の大部屋に集められ、前方の「ロケット台」に座らされたものが、30分毎に長文問題を検討する部屋に入れられ、検討をさせられます。この「ロケット台」という表現を聞いた時に、自分の口述試験を思い出しました。当時の司法試験は、1日1科目で連日全科目が終わるまで口述が続いていました。その時も、次に応試するものが「発射台」と呼ばれる椅子に座らされ、順番が来るとエレベーターに乗せられて発射されていました。係の人が本当に「発射台」と呼んでいたのです。多分、法務省の面接試験は全部似たようなものなのでしょう。

  30分間の口述試験は、試験官2人に応試者1名とのこと。民法無権代理と相続」、刑法を絡め「二重譲渡における民法上と刑法上の違い」、刑訴・憲法「黙秘権」「刑訴法322条1項」「財産権と第三者所有物没収事件判決」、検察庁法「検察官同一体の原則」「独任制官庁」と幅広く聞かれたそうです。つっかえると丁寧な誘導があり、泥舟はなかったよう思う、とのことでした。答えに詰まった時に唯一副査が口を開いたそうで、応試された方は「副査に突っ込まれると減点要素では?」と感じられたそうです。私のイメージ(根拠はない)ですが、主査が実務家、副査が学者で、基本的に実務家が口述試験を進めるが、気が向くと学者が口を挟む、とか、そんなことではないかと思っています。

  また、試験後は、水(大人用)や麦茶(大人用)をしこたま飲み、大きな解放感があったそうです。やはり水も麦茶も大人用に限りますね。

6 口述試験は、基本的な知識の確認と、口頭によるアウトプット能力を問うほか、「二重譲渡における民法上と刑法上の違い」のように、その場で考える力を問う面もあるようです。とはいえ、別に学者が後継者を選ぶ試験とは違うので、格好つけようとせず、地に足をつけて、自分に分かることを根っこからきちんと説明できれば、大丈夫でしょう。

7 この記事は、論文試験で残念だった方には、少し厳しい話題とは思います。ただ、本当に副検事試験に合格するなら、必ず通る道です。そして、先人がせっかく提供してくださった情報です。もう一度、副検事試験を目指すのであれば、そろそろ気持ちの整理をして、「来年こそは自分も!」とハートに点火する頃と思います。

  また、情報を提供してくださった方には、この場を借りて厚く感謝申し上げます。ありがとうございます。        

コロナ明けの夏

0 口述試験が10月初旬にあると思います。

  昔の記事のリンクを貼っておきます。

 

fukukenjihouritukouza.hatenablog.com

 

1 今年(2023)の夏は、すごかったですね。

  コロナ自粛から解放されて初めての夏です。どうやら、多くの人が気分も解放されて、外に繰り出して人生を謳歌したようです。

  どうしてそんなことが分かるのかというと、、、、、検察庁がものすごく忙しかったようなんですね。事件が多くて。

2 コロナ前の夏は、実はそんなに事件が多くないのが定番でした。「夏枯れ」という言葉があるくらいで、夏は酷暑もあってか、そんなに事件発生が多くなく、検察官が代わりばんこに休暇を取得しても、まあ普通に業務が回っていたのだそうです。

  ところが、今年の夏は事件の数の多いこと多いこと。お互いに夏休みを取りながら、残った人たちで何とか持ちこたえて耐えていたそうです。まあ、結局全員夏休みは取れる訳ですから、一応仕事は回ったようですが。

3 とはいえ、容赦なく毎日結構な量の身柄事件が送致されてくると、「地球の平和はいつ訪れるのだろう?」などと真剣に考えたりするそうです。

  まあ、本当に平和になってしまったら、職にあぶれてしまうわけで、そうなったらどうやって食べて行こう?となってしまうのですけどね。

4 ちなみに、コロナ真っ盛りの頃は、本当に刑事事件がなかったそうです。人が外に出ないわけですから、人と人との関わりがないわけで、トラブルになることもないんですね。つくづく、犯罪というものは、人と人との関わりの中から生まれてくるものなんだな、と感じました。そして、事件が多い、ということは、以前の社会生活を取り戻しつつあるんだな、と感じています。

  あとは、忙しさに応じて、人員を増やしてもらえれば、何も不満はなくなるのでしょう。そんなに甘くはないんですよね。