副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

刑法その6(令和5年答え合わせ)

1 では刑法の答え合わせです。例により研修誌23年10月号を頼りにしていきます。研修誌の記事は、刑法については、「設問の題意等」でポイントを5点挙げ、「答案の傾向等」でその5点について順次言及していく、という体裁を取っています。読みやすさを考えると、両者を分けずに、順次5点に触れながら中身にまで言及した方が良さそうです。なので、この記事では、「設問の題意等」と「答案の傾向等」を分けずに書いていきますね。

2 ポイントの1点目は「窃盗の着手の有無」です。事後強盗の身分たる「窃盗」該当性ということです。

  多くの方は、事後強盗の「窃盗」は窃盗の実行に着手した者のことで、乙の行為は窃盗の着手と認められる点を指摘できていたようです。ただ、実行の着手の意義を論じ、設問の事実関係を当てはめる手順を説得的に論じた答案はそれほど多くなかったとか。

  私もさらっと結論を示しただけでした。それは、本問での記述量を考えると、実行の着手の意義を詳細に論じることまで、本問では求められていないだろう、と考えたからです。むしろ、論じることで出題意図を外し、バランスを失してしまうのではないか、と思いました。うーん、ここがポイントの1つだったのか。もうちょっと認定が微妙な事実関係だったら論じたと思うのですが。実行の着手が明白な事実関係を示していながら、着手の意義を論じさせようというのは、ちょっと出題側の勝手かな、という印象です。

3 ポイントの2点目は、「暴行」が反抗抑圧に足りるか、という点だそうです。

  多くの方は、「反抗抑圧にたるもの」という解釈を示して暴行態様、周囲の状況、年齢差等の事情を丁寧に拾い、当てはめられていたそうです。一方、散見されたよろしくない答案として、「暴行と財物奪取の密接性」「傷害の発生は問題文から導けないのに、これを強引に認定して強盗致傷という結論としたもの」があったそうです。

  「密接性」は「本事例では明らかであるから、その点を詳細に論じても高い評価につながらない」と言い切っています。直前で「本事例では明らか」な実行の着手の意義を詳細に論じることを求めていたことと矛盾するように見えますね。どっちがおかしいかというと、やはり本問で実行の着手を詳細に論じさせようとしたことの方がおかしいのだと思います。

  また、傷害結果を認定した点を厳しく評価していますが、設問の事例を見たら普通は傷害結果が発生しているはずですよね。答案構成の際にも「非現実的」と言いました。おそらく、事後強盗の既遂未遂の論点を論じさせるためには、致傷結果が発生すると困る(窃盗が未遂でも致傷結果があると強盗致傷の既遂になってしまう)ので、こういう非現実的な設定にしたのでしょう。もうちょっと事例を工夫した方が良かったと思います。刃物を示して脅迫した上で緊縛するとか。

  私の答案構成は、結論を示しているだけで、事案から諸事情を拾い上げたり、当てはめをしてないので、ここはかなり厳しい評価を受けそうです。

4 ポイントの3点目は、「事後強盗の既遂未遂」について、区別の基準を示し、未遂の結論を導けるか、という点です。

  多くの方は未遂の結論を示しているものの、事後強盗の既遂未遂が窃盗の既遂未遂により決まることを指摘して当てはめをしている答案は多くなかった、のだそうです。

  これも、本事例では明白なことですから、多くの受験生は「出題意図ではない」と考えたのだと思います。そして、私の答案構成もそうでした。

5 ポイントの4点目は「甲の見張りについて、共同正犯と幇助犯の意義、区別を論じ、当てはめができているか、だそうです。

  非常に多くの方が、共同正犯について「共同実行の意思」「共同実行の事実」が必要な点は指摘できていたそうです。しかし、出題者は、更に「具体的行動、意思連絡の状況、共犯者間の関係、利害関係の有無等の要素を総合考慮して正犯意思が認められるか、丁寧な検討を期待」していたそうです。実際には、多くの答案が「見張りは重要な役割なので共同正犯」と認定しており「残念であった」と断じています。

  私の答案構成は、「共同実行の意思、事実」を書き飛ばしている一方、要素を拾った検討は出題意図に応えられています。まあ、差し引きゼロくらいの評価でしょうか。

6 ポイントの5点目は甲の共犯の錯誤についてです。

  ここは、論点に一応気づき、法定的符合説に基づく論述ができている答案が多かったそうですが、それ以上に詳しい出題意図は、研修誌では言及がありませんでした。

  私の答案構成は、今読み返すと、この論点にかなり重点を置いてボリュームを割いています。研修誌の淡白な記載を見ると、この論点はそれほど重点が置かれていなかったのでしょうか。

7 私の答案構成は、特に乙の罪責に関して、出題意図を外した部分が多いですね。共同正犯についても、理屈の部分が書けていませんし。評価としては中の下、といったところでしょうか。

  ただ、論文試験というのは、暗黙の了解として、「事実認定の結論が明白な部分は、論じる必要がない」というのがあると思っています。それは、「条文に照らして明白な事実は、解釈が問題にならない」という法律の本質的な性質から来るものだと思っています。殺人罪で「人」に該当するか問題になるのは、胎児とか脳死判定を経た人とか、事実認定だけでは解決がつかない場合だけです。そういう意味で、今回の刑法の問題は、事実認定が明白であるにも関わらず、いくつかの論点を論じさせるのが出題意図であったこと、一方で一部の論点については「本事例上明白なので論じる必要なし」というダブルスタンダードに陥っていること、という点で、悪問だったと思います。論理的に検討すれば、出題意図の通りに論点が抽出されるよう、事例をもっと練り上げてほしいところでした。

  しかし一方で、悪問であっても、試験問題であることは変わりません。「こういう悪問も出るんだ」という覚悟を持って、試験に臨まなければなりません。この問題について、乙の罪責に関してある程度解釈論を詳しく論じるのが出題意図であることを見抜くには、例えば「事例が長い割に、解釈が必要なのが甲の共犯関係しかない。もしかしたら、出題側は、明白な乙の罪責についても、ある程度解釈論を論じさせたいのか?」などと、穿った見方をすれば、できたかもしれません。ただ、それでも、乙の罪責について手厚く論じるのは、かなり勇気がいると思います。だって事実認定上問題がないんだもん。