副検事になるための法律講座

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刑事訴訟法その7(令和5年答え合わせ)

0 季節がわりは、投稿がやや不規則になります。よろしくです。

1 では研修誌23年10月号による刑事訴訟法の答え合わせです。

  設問の題意等、答案の傾向等とも長いですね。

  刑法との違いを感じますが、なぜ違うのか、謎です。

2 設問の題意等からいきましょう。長いので、話の要点をつかむのも一苦労です。

  問1について。

  検証が緩やかな要件で伝聞例外として証拠能力を認められる理由、実況見分と検証との類似性から321条3項が準用される理由、作成の真正を立証する必要性を指摘するように書いてありますね。

  ちなみに、「作成の真正」の立証とは、作成者の警察官を証人尋問で呼び、「検証、実況見分のやり方について、何か研修等を受けたことはありますか?」「ちゃんと正しく検証、実況見分しましたか?」と聞くことです。証拠能力の疎明についてはこれで足ります。普通は、さらに証明力に関する質問(内容の正しさを裁判官に伝えるための質問)もしますが。

  その上で、各実況見分の立会人による指示説明部分の証拠能力を検討する際に、要証事実を何にするかによって、証拠能力の有無という結果が異なることを、伝聞法則の基本的理解を示しながら指摘するよう求めています。

  実況見分調書①については、「立会人が当該地点を指示した」という事実が要証事実であれば、証拠能力が付与されること、警察官がナンバーを見ることができたことは、五感の作用により認識した結果を記載したものだから、証拠能力が付与されること、などへの言及が必要だそうです。また、「被害者Vがナンバープレートを見たか否か」を要証事実とする場合には、321条3項ではなく、321条1項3号の要件を満たす必要があり、被害者Vの署名等を欠く実況見分調書①は証拠能力が付与されない点にも言及がいるようです。

  実況見分②については、立証趣旨を「被害再現状況等」つまり、被害者Vがこういう再現を行なったこと、としているが、実質的には「被害再現通りの事実があったこと」を立証するものと認められる以上、伝聞性を帯びており、321条3項の要件のみでは足りず、321条1項3号の要件を満たす必要があることの指摘を求めています。そして、被害者Vの指示説明部分は署名等を欠き、証拠能力は認められないこと、再現写真は撮影等の記録過程が機械的操作であるため署名等は不要だが、他の321条1項3号の要件を満たさなければ、証拠能力は付与されないこと、という検討も求められています。平成17年9月27日最高裁判決が引用されていますが、勉強しておけ、ということでしょう。

  「論ずるべきことが多いから、関連の薄いことを長々論じたり、論証パターンをそのまま記載するだけだと時間切れや、真に理解しているか疑問を持たれかねない答案となるので注意が必要」だそうです。

  問1だけでこのボリューム。しかも内容が大変実務的です。実際に公判に立ったことがない受験生には、なかなかイメージの湧きづらい問題と思います。

3 問2の設問の題意等です。

  再現写真を使った証人尋問に関する平成23年9月14日最高裁判決の理解を問う、と正面から言い切っています。この判例、普通勉強しているものなのでしょうか。

  再現写真について、事前に弁護人に開示した上で、証人の供述明確化のため、刑訴規則199条の12に基づき、裁判長の許可を受けて尋問時に証人に示すことができること、先に証人から十分に具体的な供述がなされていないうちに再現写真を示してはならないことの指摘が必要だと。再現写真を示すと、証人に一定の情報を与えることになり、その影響を受ける恐れがあるが、すでに十分に具体的な供述をした後なら、再現写真を示しても証人に不当な影響は与えず、供述内容を視覚的に明確化するにとどまるのだと。そして、示した再現写真は証人尋問調書に添付するよう裁判所に求めるべきだと。

  要求水準が高いですね。規則の根拠まで言及を求めています。問題が難しすぎるんじゃないかなー、と心配になります。

4 では、答案の傾向等、行きましょう。問1から。

  多くの答案が伝聞例外の問題と指摘し、321条3項、同条1項3号の条文を挙げて検討できていたが、伝聞例外の論証を展開しながら、伝聞証拠についての基本的理解ができていない答案も少なくなかったそうです。具体的に伝聞証拠のどういう点についての理解ができていないのかは、言及がありませんでした。

  また、よくない答案例として「写真は非供述証拠、現場指示は供述証拠など、実況見分調書を一体として見ることなく、個別に分割して証拠能力を論ずる答案」「『現場指示』『現場供述』とのキーワードだけ掲げ、区別の基準、理由を示さず結論だけ述べる答案」が少なからず見られ、判例の理解十分な答案は少数だった、とのことです。かなり実務的な問題ですから、皆さん苦労されたのでしょう。

  あと、再現写真に関しては、「記録過程が機械的操作によることから署名等不要だが、321条1項3号の要件が必要」と指摘できた答案が相当数ある一方、全く再現写真に触れず、被害者Vの説明部分のみを論じた答案も相当数みられ、ここで差がついたのだそうです。再現写真の問題点なんて、普通に勉強している時にどのくらい注意を払って勉強するもんなんでしょう?

  私の答案構成ですが、伝聞法則と例外、検証が緩やかな要件で例外を認められる理由、作成の真正の立証あたりは、まあまあ書けています。ただ、要証事実が何かによって伝聞性を帯びるかが変わる点の指摘は失敗してます。また、321条1項3号の検討をしてないですね。ここを検討していないのは、結構ポイントを落としたかもしれません。再現写真についての言及も、結構少な目でした。

5 問2の答案の傾向等です。

  問1と比較して出来が悪かったようです。「証人尋問での書面呈示を問われていることに気づいていない答案」「規則の条文をあげられない答案」が目立ち、知識、理解不足がうかがわれたと。

  また、再現写真の呈示根拠として、「記憶喚起のため」(規則199条の11)とする答案も一定数あったが、「許される場面などは想定されないところである」と一刀両断に切り捨てています。

  私の答案構成は、証言明確化のための呈示は可能だが、記憶喚起のためには呈示不可であること、証人尋問調書への添付を求めるべきことは書けてます。しかし、規則の根拠条文を示すことはできませんでしたね。

6 全体として、問1で321条1項3号が書けなかったマイナスと、問2が難しい問題の割にそこそこ書けたプラスを考えて、一応合格点かな、と思いました。

  ただですね、問2はやっぱり難しい問題だと思いますよ。判例を見たことがないと、示した再現写真をその後どうするのか、なんて見当もつかないでしょう。

  今年の問題は民法も刑訴も難しくて、受験された方は心が折れないように頑張るのが大変だったことと思います。

7 これまで、3年分くらい副検事試験の答案構成をやりましたが、かなり「判例重視」と感じています。法律の理屈を理解するだけではなく、関連する判例を見て、何が問題となっているのか、それについて判例はどのように解決しているのか、を十分勉強することが求められているように思いました。地道な勉強が大事なんだろうな、と思います。