副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

志望動機は名誉欲と金!?

1 コメント欄に質問をいただきました。要旨を箇条書きにすると、以下のとおりです。

 ・ 最近、副検事試験を考え始めた。

 ・ 副検事の仕事内容に興味はない。

 ・ 動機は名誉欲と金。

 ・ 仕事は事務局系が好み。

 ・ 積極、消極いずれでもアドバイスを。また実例紹介を。

2 パッと読んで「あおってんのか?釣ってんのか?」と考えた私は、心が汚れているのでしょうか。でも、まあ、普通職場で聞ける質問ではないことは間違い無いでしょう。それなりにちゃんと考えてみることで、何か新たな視点が見えるかもしれません(見えないかもしれません)。なので、ちょっと書いてみましょう。

3 まず、答えやすいところから。事務局系の人が、副検事に任官するケースというのは、あります。高等科研修(幹部検察事務官になるための研修)で、検察官の講義を受けて感銘を受け、副検事試験を目指して任官した、という人もいます。また、検察事務官として、局長候補でありながら、副検事任官した人もいます。これらの人は、「事務局系の仕事も捜査、公判も両方ともできる」ということだと思います。検事でもごく稀にですが、本省でバリバリ行政の仕事をし、特捜部でバリバリ捜査をする、みたいな人がいます。要するに、優秀なので何でもできる、ということだと思います。だから、事務局系だから捜査、公判ができない、ということはないでしょう。

4 ただ、これらの人たちは、「捜査、公判に強い興味がある」人たちです。捜査、公判に興味がないのにできる人、というのは、聞いたことがないですね。それは、おそらく、捜査、公判というのが大変泥臭いもので、興味がない状態でやり切るのが大変だからなのだろうと思っています。若手の検事の中にも、こういう泥臭さを十分にわかっていない状態で任官してしまうケースがあるそうです。修習期間が短いとか、いろんな事情で、捜査、公判の泥臭さをよく見る機会が乏しかったようです。こういう若手検事は、結局最後は「もっと綺麗な仕事がしたかった」などという思いを抱き、検事を退官して大手弁護士事務所に就職したりするとか。しかし、副検事の場合は、退官してしまうと定番の再就職先、というものがありません。何とか自分で探してこないといけなくなります。また、一旦副検事に任官すると、検察事務官等に戻ることができません。副検事に任官した以上、副検事として勤め上げるか、特任検事になる以外の道がほぼないのです。ですから、副検事任官を考えるならば、興味の有無は置いておいて、少なくとも「自分が副検事の仕事を継続的にやり切れるか」をよく考えるべきと思います。まあ、普通は興味がないのにやり切るのは難しいのではないか、と思うのですが。

5 次に名誉欲が満たされるかについてです。これは人それぞれなので、「副検事に任官した!」という時点で満たされるなら、それはOKでしょう。ただ、任官した後で待っているのは、「検察官としての力量をシビアに見極められる」立場です。決裁官は、事件を配点する上で、各検察官の力量の高低や得意分野、不得意分野をシビアに見極めているそうです。そして、それぞれの力量に応じて事件を配点します。また、決裁官以外の検察官、検察事務官も、各検察官について、「どんな事件を配点されているか」を見ることによって、その検察官がどの程度の力量と評価されているのか、が分かってしまいます。そういう意味で、力量の評価が高くない検察官が、尊敬を集めるのはなかなか難しいと思います。また、尊敬を集めていないのに大きな態度で上からものを言うようになると、これはもうパワハラですね。きっと粛清されるでしょう。もし、名誉欲を満たしたいのであれば、捜査、公判の力量を磨いた上で、人格も磨く必要があるのではないでしょうか。

6 最後は「金」ですね。副検事の俸給が、他の公務員に比して良いことは間違いありません。その俸給のために、他のすべてを我慢できるなら、それもありかもしれません。ただ、こういう話もあります。副検事ではなく、検事任官の話ですが。

  弁護士の人数が増え、司法修習生も弁護士としての就職が簡単ではない状態が続いていました。そこで、中には「検事もまあまあ俸給もらえるし、検事任官もいいんじゃないか?」などと考える修習生もいたりするそうです。捜査、公判に興味があるならまだ良いのですが、あまり興味がないけど、待遇が良いから、という理由で検事任官を視野に入れるケースもあるそうです。ただ、そういう修習生は、結構早い段階で任官を諦めることが多いとか。検事が普通に働いている姿を見て、「働き方がハードすぎる」と感じるようです。

  副検事の仕事も、いくつもある身柄事件について、次々と勾留満期が迫る重圧、着々とたまる在宅未済件数について、目を光らせる決裁官からの重圧など、楽なものではないでしょう。副検事の俸給等の待遇は、その対価として得られるものです。決して楽に手に入るものではありません。副検事の仕事内容に興味がない人は、「金」が、自分が興味のない仕事をする負担に見合うかどうかを、よく考えるべきと思います。

7 事務局系の仕事が好みなのであれば、検察事務官として偉くなる道を選ぶのが自然なように思います。人間、自分が得意なことを伸ばす方が、幸せに近づけると思いますよ。

8 そして、図らずも今回の記事で、副検事任官の厳しい側面が浮き彫りになってきたようです。特に他官庁勤務の方は、この記事を見て腰が引けるかもしれません。ですが、他官庁勤務で副検事試験をお考えの方は、捜査、公判に興味をお持ちの方と思います。興味がある方なら、この記事に書いたような困難も乗り越えられると思います。応援しています。