副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

試験への不安や緊張

1 私自身ではないものの、最近身内が試験を受験する中で、試験に向けた不安や緊張を私も間接的に感じる機会がありました。

  そこで、どうして試験前に不安になったり緊張するのか、を少し考えてみたいと思います。

2 試験前に緊張とか不安はつきものです。

  このうち、緊張は、分かりやすいかな、と思います。緊張、というのは、格好つけたいけれども、上手く行くだけの自信がない、という時に生じるものです。相手との初デートや採用面接、大勢の人前で話す時などに緊張するなら、それは、その人が内心で「格好よく決めたい!」「でも上手くいくか自信がない、、、」と、少なくとも無意識に思っているからです。そして、こういう緊張というのは、心の底から「格好をつける必要はない」と思えると、なくなります。デートを重ね、素のままの自分でいいと思える相手には、もう格好をつける必要はありません。大勢の前で話す際も、格好をつけず、ありのままの自分として話せば良い、と思っている人は、緊張しません。採用試験は、採用して欲しい、という気持ちがある以上、なかなか「格好つけたい」気持ちを完全に無くすことは難しそうです。

  そして、試験前の緊張も同じようなものと思います。試験である以上、当然「合格したい」ですし、そのためには「良い点を取りたい」のです。これらは、いずれも「格好つけたい」気持ちの一種でしょう。これらを無くせば、緊張しなくなるはずですが、果たしてどういう心境になればこれらの気持ちから解放されるでしょうか。例えば「出来るだけの勉強はし尽くして全力を注いだ。これだけやれば合格できるはずだし、これで不合格なら仕方がない。」というような心境になれば、緊張はしないのかもしれません。ある種の悟りの境地ですね。

3 では、試験前の不安はどうして感じるのでしょうか。不安というのは、自分にとって重要なことなのに、自分が十分にコントロールすることができない状況の時に感じるように思います。せっかくスキーに来たのに、明日雨の予報があって、スキーができない上ゲレンデの雪の状態が悪くなってしまうのでは?と天気の心配をするのは、軽い不安といえるでしょう。

  この観点から考えると、試験前の不安というのは、重要だけれどもコントロールできないこと、つまり「どんな問題が出るんだろう」「勉強していないことが出たら、どうしよう」という不安なのではないか、と考えられます。せっかく時間と労力をかけて勉強してきたのに、勉強していないこと、勉強が手薄いところが出たら、上手く答えられずに、「不勉強」と判断されてしまうかもしれません。しかし、どこが出題されるかは分からない。これは不安でしょう。

4 ここで、「勉強したところが出題された」場合と、「勉強していないところが出題された」場合をぞれぞれ考えてみましょう。

  「勉強したところが出題された」場合は、「良かった。分かる。」と思えるかもしれません。しかし、よほどマイナーな分野にヤマを張って勉強していたのでない限り、自分が分かる部分というのは、実は他の受験生にも分かる部分であることが多いのです。副検事試験の令和5年刑法なんかは、多くの受験生が相当勉強した分野でしょう。そうなると、単に内容を知っているだけではなく、「論述の論理構成」「理由付け、当てはめの的確さ」など、より詳細で高度な部分でようやく差がつきます。法的能力のより本質的な部分の能力が問われる、とも言えます。なので、実は、「勉強したところが出題された」「良かった分かる」は、イメージほど優しい状況ではないともいえます。別の言い方をすれば、市場原理で言う「レッドオーシャン」つまり、多くの競争相手がいて、その中から勝ち上がらないといけない状況と言うのでしょうか。

  一方、「勉強していないところが出題された」場合は、不安が的中した状態であり、ピンチなように思われます。例えば、副検事試験の令和5年民法は、これまで総則、物権分野の出題が多かったところで、いきなり債権分野から出題されました。債権分野の勉強が手薄な人にとっては、悪夢のようかもしれません。ただ、冷静に考えれば、副検事試験の受験生の中で債権分野をそこまで徹底して勉強している人というのは、多くはないはずです。もしそういう人がいたとしても、多くは前年までに合格しているでしょう。つまり、予想外の出題分野をちゃんと勉強している受験生というのは、「前年不合格者か新規受験者のうち、予想外の分野を(通常は直近1年で)しっかり勉強した人」に限定されるでしょう。ですから、予想外の出題分野については、大抵は「自分だけではなく、他の受験生もみんな勉強が手薄な状態」なのです。対比していえば「ブルーオーシャン」ですね。ただ、ブルーオーシャンの必勝戦略は「先手を取る」ですが、試験では全員出題を見てからの一斉スタート1時間一本勝負なので、先手が取れません。じゃあ、どうするか、というと、「普段からブルーオーシャンでの答案の書き方を練習しておく」ということになります。私は良く、答案構成の際に「知っている問題を知らない問題のように解く」という意味のことを言います。それは、一つには、この「予想外の出題分野」問題に対応する力を養うためなのです。分からない問題でも、条文を見てゼロから問題点を考え、合理的な解釈を考えることで、最低限のディフェンシブな答案(大失敗をしない)は書けるようにしておくのです。実際、令和5年民法は、研修誌の「答案の傾向等」を見ても概して出来はよろしくなかったようです。また、合格者でも「債権分野の勉強は手薄だったけど、『常識で考えればこうなるだろう』ということを書いて切り抜けた」というような話を聞いています。勉強をする際は、「レッドオーシャン」に対応するための勉強というのは皆さん頑張ってされるのですが、「ブルーオーシャン」に対応するための勉強についても、意識を向けた方が良いと思います。

5 そして、「ブルーオーシャン」な出題に対応する勉強をしておけば、それは「知らない分野から出題されても、何とか切り抜けられる」という形で自分がコントロールできる範囲に取り込むことができ、出題分野が分からない、という不安を少しは解消してくれるのではないでしょうか。

6 本当は、知らない分野からの出題への対応というのは、そのための問題演習を数多く繰り返すのが最も効率の良い勉強です。ただ、そのための題材が、実は入手が容易ではありません。以前も似たようなことを書きましたが、「知らない問題だけれども、法律上の問題点を抽出し、論理的に法的検討を重ねて結論を示す」能力は、法律家の根源的な能力です。それを的確に図ることができる問題というのは、「能力のある法律家なら知らなくても解ける問題」であって、そんな問題を作れるのは、極めて高度な法律的能力を備えた人に限定されます。今、容易に手に入るのは、司法試験の予備試験の論文問題くらいでしょうか。かなり手強いとは思いますが、全部やる必要はないです。試しに1回答案構成だけしてみるのもいいかもしれません。