副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

令和5年副検事口述試験の出題はこんな風だったらしい

1 応試された方から情報をいただきました。ありがとうございます。ただ、先に言っておきますが、誰も責任は持てません。あくまで「なんか、こんな感じだったらしい」というネット上の噂だ、ということを前提に読んでください。

2 事例問題

  令和4年3月1日、Aの息子Bは、Aから何らの代理権が与えられていないにもかかわらず、Aに無断でXに対し、Aの代理人としてA所有の本件土地をXに1000万円で売却する契約を結び、同日、Xから1000万円を受け取ったが、本件土地の所有権登記はXへ移転しなかった。同年6月1日、Bは、同様にAの代理人として本件土地をYにも譲渡し、同日、本件土地の所有権登記がYへ移転した。

  令和5年4月、本件土地の所有権登記がYへ移転していることに気付いたXは、Bに対し、「払った1000万円を返せ。でないとお前を告訴するぞ。逮捕されたら仕事とか失うかもしれないぞ。1000万円を受け取ったっていうお前が書いた領収証もここにあるんだからな。」と問い詰めたが、Bは、意に介しないばかりかXから当該領収証を奪い取って破り捨てた。

  同年5月、甲県の警察署が上記事件を認知してBを逮捕し、Bは甲地検の乙検察官に身柄を送致された。その後勾留されたBは、弁護人と接見するなどした上で、黙秘の姿勢を貫いていたが、乙検察官の熱心な取調べによって本件犯行を自白し、乙検察官はその供述に関する調書を作成した。乙検察官は、甲地検検事正の決裁を受けた上で、Bを甲地方裁判所に起訴した。乙検察官は、上記供述調書を証拠請求したが、Bの弁護人はこれを不同意とした。 

  上記逮捕に伴うB宅の捜索で覚醒剤が見つかったため、Bは覚醒剤取締法違反でも起訴され、併合審理されることとなったが、後日、当該覚醒剤はBが知人から預かっていたものであることが判明した

3 質問と、多分こうかな、というレベルの解答例

民法

・本件のBのXやYへの譲渡行為は民法上何に該当しますか?(解答例:無権代理)

無権代理人Bはどんな責任を負いますか?(相手方の選択により履行または損害賠償責任を負う【117条1項】)

・では、XはAに対して何かできますか?(催告【114条】、取消【115条】)

・では、Yへの譲渡の前に、Aが、BのXに対する無権代理行為に気付きました。Aは無権代理行為を有効にしても良いと思ったら何をしますか?(追認【113条】)

・では、Aが追認するか明らかにしないまま死亡し、BがAの唯一の相続人だとします。Bは追認を拒絶できますか?(信義則上不可)

・では、今回の二重譲渡ですが、原則としてはXとYのどちらが本件土地の所有権を取得しますか?(先に登記をして対抗要件を備えたY【177条】)

・Xが所有権を取得できる場合はないのですか?(Yが背信的悪意者に該当する場合)

背信的悪意者に該当する場合の具体例を述べて下さい。(Yが、仲介者としてBとXの売買契約に立ち会い、契約書にも仲介者として押印していたにも関わらず、未登記に乗じてBから本件土地を買い取り登記を得た場合など。)

 

〈刑法〉

・本件でXはBに対し、告訴や逮捕等の強い言葉を使ってお金を返せと述べていますが、どのような罪に該当しそうですか?(恐喝罪の構成要件に該当しうる。ただし、Xの発言が返金を促すための社会的相当性の範囲内であれば、そもそも構成要件には該当しないこととなる。なお、社会的相当性の判断は、一般人をして畏怖させるに足るか、を基準とし、実際にBが畏怖したかは問われない。)

・本件の二重譲渡行為でBはどんな罪に問われますか?(Yに対する詐欺罪、Xに対する背任罪)

・それぞれ、どう成立するのかを同罪の構成要件を挙げた上で丁寧にあてはめて答えて下さい。(Yには、真実はXに売却済みであるのに、あたかも他に買受人はいないかのように装い、Yにその旨信じさせて売買代金を詐取した。Xには、登記を得させて所有権を移転する事務を担っているのに、この義務に背き、本件土地をYに売却し登記を備えさせた任務違背をした。)

 

〈刑訴法〉

・本件で告訴という言葉が出てきましたが、告訴に関する条文は言えますか?告訴期間は?誰に対してしますか?(告訴の条文【230条】、告訴期間は6か月【235条】、検察官又は司法警察員【241条】)

・ところで、微罪処分とは何ですか?本件では甲県の警察署の司法警察員が事件を認知しましたが、微罪処分をしていいのですか?(検事正【法律上は検察官、246条但書】が指定した事件について、事件を検察庁に送致せずに終結させる処分。本件の微罪処分は不可。被害額1000万円の詐欺や背任は通常、微罪処分の指定範囲から外れているから。)

・Bが領収証を破り捨てた行為は、私用文書毀棄罪に該当しますが、これは親告罪ですか?(その通り【刑法264条、259条】)

・本件で、弁護人はBの供述調書を不同意としていますが、仮に同意していた場合はどうなりますか?(同意書面として証拠能力が認められる【326条】)

・本件調書は、不同意となっていますが、検察官としてはどう対応しますか?(不利益供述書面として証拠調べすることを裁判所に請求する【322条1項】。任意性を争われた場合には、取調べを担当した検察官を証人尋問請求して任意性を疎明する。)

 

憲法

・今回Bは当初黙秘していましたが、黙秘権に関する憲法上の条文を教えて下さい(【38条1項】)

・乙検察官は、黙秘しているBを熱心に取り調べて最終的に自白を獲得しているが、これは違憲ではないのか?(供述の強要に至らない説得は憲法上許される。)

・黙秘権が憲法上保障されている趣旨は?(自己負罪の強要防止)

・ところで、今回の覚醒剤はBの知人の物とのことですが、どのような場合に第三者の所有物を没収していいのでしょうか、判例があるならその判旨を述べて下さい。(第三者が所有権を放棄しているか、公告等の手続により第三者が自己の権利を保護する機会が設けられた上で、第三者が権利行使をしないことが推認される場合。)

 

検察庁法〉

・今回、乙検察官は、甲地検の検事正の決裁を受けていますが、この決裁は何条に規定されていますか?(指揮監督権【9条】)

・このような指揮監督権を含む原則を何と言いますか?定義も答えて下さい。(検察官同一体の原則)

・独任制官庁の定義を答えて下さい。(検察権は個々の検察官に属し、検察事務については、個々の検察官が、自ら国家意思を決定する権限を有する。)

検察官同一体の原則と独任制官庁の定義を今述べてもらいましたが、この二つは矛盾しませんか?(共に検察権の本質から導かれるため調和する)

 

4 感想

  自習として、文献を参照しながら答えを考えるのであれば、そこまで難問という訳ではありません。ただ、これを、試験本番というプレッシャーの下で、試験官2名と対峙し、口頭で即座に回答する、という条件では、なかなか手強い問題と思います。一応、六法は貸与されますが、「条文を見てもよろしいですか?」と聞くと、大抵は「まずは条文を見ないで答えてみて下さい。」と言われます。頼れるものは、本当に自分だけです。その状況下で、頭の中で考えるのではなく「言葉に出しながら」考えて、助け舟を試験官に出してもらいながら、何とかゴールに辿り着くことが求められています。そういう意味で、口述試験で求められているのは、スラスラ答えを言える知識等ではなく、「分からない問題を、何とか試験官を巻き込んでゴールに辿り着く人間力」であるようにも思われました。口述試験を終えられた方は、お疲れ様でした。