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刑事訴訟法その6(令和5年答案構成)

1 答案構成、最後は刑事訴訟法です。なお、「勉強しないでやってみる」がポリシーであり、かつ、検察庁法はそもそも勉強したことがないので、検察庁法の答案構成はできません。悪しからず。

刑事訴訟法

「夜間、路上において強盗致傷事件が発生した。犯人は、犯行現場から原付バイクを運転して逃走したが、被害者Vは、同バイクが逃走開始直後に街灯の下を通った際、同バイクのナンバープレートを目撃した。被害者Vは、直ちに110番通報をし、同ナンバープレートの番号を警察官に伝えた。その後、同ナンバープレートの番号等から被疑者Aが特定され、通常逮捕された。本件強盗致傷事件の捜査において、P警察官は、被害者Vの立会いの下、以下の通り、二つの実況見分を実施し、それぞれの経過及び結果を記載した2通の実況見分調書を作成し、作成名義人として署名押印した。

実況見分①)  犯行時刻と同じ時間帯に犯行場所において実況見分を実施し、被害者Vに、犯人の原付バイクのナンバープレートを目撃した際に被害者Vのいた地点(地点ア)と同バイクのいた地点(地点イ)を特定させた。実況見分調書には、両地点の距離や位置関係等を記載した図面を添付した他、地点アから地点イに止めた原付バイクのナンバープレートが見えるか否かを確認した状況を撮影した写真を添付した。この写真には、説明書きとして、「被害者Vは、『私が犯人の原付バイクのナンバープレートを見た位置はここ(地点ア)で、その時の犯人の原付バイクの位置はここ(地点イ)です。』と説明した。」、「本職が地点アから地点イの原付バイクのナンバープレートを見たところ、ナンバープレートの数字を確認することができた。」と記載した(以下この実況見分調書を「実況見分調書①」という。)。

実況見分②)  警察署の道場において実況見分を実施し、Q警察官が被害者役、R警察官が被疑者役となり、被害者Vの説明に沿って被害状況を再現した。実況見分調書には、Q警察官及びR警察官の姿勢・動作を撮影した写真(以下「再現写真」という。)を添付し、各写真には、説明書きとして、当該姿勢・動作に関する被害者Vの説明内容を記載した(以下この実況見分調書を「実況見分調書②」という。)。

 被疑者Aは、捜査段階において犯行を否認していたが、捜査担当検察官は、被疑者Aを本件強盗致傷事件により公判請求した。その後、公判担当検察官が、被害者の検察官面前調書、実況見分調書①及び実況見分調書②について、それぞれ立証趣旨を「被害状況等」、「犯人の原付バイクのナンバープレートの視認状況等」、「被害再現状況等」として証拠調べ請求をしたところ、弁護人は、被告人の犯人性及び公訴事実記載の犯行状況を争うとして、上記証拠のいずれについても不同意との意見を述べた。

問1 実況見分調書①及び実況見分調書②の証拠能力について、問題となる点を挙げ、関連する条文を指摘し、両実況見分調書の違いを比較しながら論じなさい。

問2 公判担当検察官は、被害状況等の立証のため被害者Vの証人尋問を請求した。証人尋問の際、実況見分調書②にされた再現写真を使用するには、どのような方法によるべきか、問題となる点を挙げ、関連する条文を指摘しながら論じなさい。」

  うーん、なんか、すごく実務的な問題ですね。もちろん、教科書にも載ってはいる話なのですが。ただ、実際に刑事裁判の公判を担当したことがないと、イメージが湧きづらい話ですよね。検察官の立会事務官をやっていて、すごく争われている裁判にとても興味を持って色々手続のことを見聞きした人、とかでないと、検察事務官やっててもなかなか経験することはなさそうな問題でしょう。なので、この問題を見て挫けそうになった人は、条文と勉強した成果から書ける部分を、無理せずに基本的な部分から書く、ということで、守りに入った方がいいように思いました。幸い、小問形式なので、検討する順序を問題が示してくれていますし。

  では、いつものように「麓から三合目まで登るイメージ」「問題提起を手厚く」「知らない問題を解くように」で行きましょう!

2 まずは全体のイメージです。実況見分の証拠能力を問われています。伝聞証拠の原則的禁止と、検証(実況見分を含む)が伝聞例外として認められる理由に遡って論じてほしい問題でしょう。そして、伝聞例外として認められる理由に照らして、2つの実況見分のうち、伝聞例外とは認められない部分を指摘させたいのが出題意図だと思います。ここら辺までは勉強できるのでしょうが、最後の「再現写真をどうやって使う?」の部分は、実務を知らないと書けないんじゃないですかね?ここは「きっとみんな書けない」と割り切って諦めるのが正解のように思います。

3 では問1からです。

「1 問1について

  (1)     実況見分①は犯人の原付のナンバープレートの視認状況、実況見分②は被害者による被害再現状況が写真と共に記載された書面である。このような書面は、原則として証拠とすることができない旨、刑事訴訟法320条1項に定められている。これは、事件に関する事項を直接体験した者の法廷における証言を証拠の原則とし、証人尋問の手続により、その知覚、記憶、表現、叙述の過程に誤りがないかを確認することで、証言の信用性を判断することを目的としている。そして、このような確認ができない書面や又聞きの供述は、刑事裁判の証拠とするだけの信用性に欠けるものであり、そもそも証拠とすることができない伝聞証拠として排除すると定められたものである。

      ただし、刑事訴訟法は、321条から328条に、例外的に伝聞証拠であっても証拠とすることが認められる例外の規定を設けている。これは、刑事裁判の立証方法として、証人による証言以外の方法が必要な場面があること、また、一定の類型の証拠については、直接の体験者による証人尋問によらずとも、一定の信用性を確保することが可能であることから、刑事裁判の証拠として証拠能力を付与することとしたものである。」

と、ここまでが伝聞法則の原則論です。いきなり321条3項を論じたくなるところですが、本問は、敢えて具体的な事例について、やや性質の違う2つの実況見分を取り上げ、その比較を求めています。そうすると、その違いを論ずるためには、原理原則とその理由にまで遡って検討する必要が出てきます。こういう場合、あらかじめ最初の方で原理原則から話を始めておいた方が、論述を進めやすいのです。また、その方が、「原理原則が分かっている」とアピールしやすいと思います。もちろん、いきなり321条3項から論じ始めて、途中で必要な場面で伝聞法則の原理原則に遡りながら検討を進めることも不可能ではないと思います。ただ、その論述は、かなり高度な論述力を要求されるように思います。敢えて難しいやり方をしなくても良いように思います。

  続きです。

「 (2)     実況見分①、②については、被告人、弁護人の同意があれば、刑事訴訟法326条により証拠能力が付与される。これは、被告人が同意するような書面については、類型的に誤りが混入するおそれが少ないと認められるからである。しかし、本件では、両書面とも、弁護人から不同意意見を述べられており、同意による証拠能力は付与されない。

  (3)     次に、両書面が、刑事訴訟法321条3項の検証に関する規定により、証拠能力が付与されるかが問題となる。

     同項は検証に関する規定である。しかし、検証も実況見分も、五感の作用によって感知された結果を書面に記載したものである点は共通している。両者の違いは、検証が令状に基づくものであるのに対し、実況見分は立会人等が任意に捜査に応じているため、令状によらない、という点にあるに過ぎない。したがって、同項の検証には実況見分も含まれるものと解する。

     では、両書面は、同項により、証拠能力を付与されるか、同項の条文上、いかなる内容の実況見分が証拠能力を付与されるのか、その範囲が曖昧であることから問題となる。

     同項が検証、実況見分を伝聞例外としたのは、犯行現場の状況などについて、言葉では表現が困難だけれども、写真に撮影したり、図面にして長さ等を計測するなど、証言以外の手段によって明確に分かりやすく表現できること、人間が五感で感じられるものが対象であって、対象自体は客観的な存在であることから、書面化の過程、つまり作成の真正さえ法廷で確認できれば、刑事裁判の証拠として一定の信用性が認められることが理由と解される。」

と、例外については、こんな感じでしょうか。326条は、加点があるかもと思い、ちょっと触れました。ちょっと長いかな、とも思いましたが、これでも結構端折りました。論証については、適当に考えてでっち上げたものなので、ちゃんと勉強している方は、自分の論証の方を信じてください。

  あてはめです。

「 (4)    実況見分①は、司法警察職員であるP警察官が作成したもので、被害者が犯人の原付のナンバーを目撃した状況について、その際の被害者と原付の位置、その見通しや視認の可否といった、客観的な内容が図面や書面に記載されている。これは、刑事訴訟法321条3項がまさに予定している内容である。従って、実況見分①については、作成者であるP警察官が、法廷で証人として作成の真正を供述すれば、証拠能力が付与される。

     一方、実況見分②の内容は、被害者の供述する被害状況について、視覚的に分かりやすくするために、当時の状況を繰り返して再現し、それを写真に撮影したものである。従って、これは被害者の供述を内容とするものにほかならない。その信用性は、被害者の知覚、記憶、表現、叙述の過程を確認しない限り判断が困難であり、対象が被害者の記憶等という主観的なものとなっている。これは、刑事訴訟法321条3項が予定する実況見分とは異なるものと言わざるを得ない。従って、実況見分②については、P警察官が作成の真正を証言しても、刑事訴訟法321条3項により証拠能力を付与することはできない。」

でどうでしょう。実況見分②がダメな理由については、論証を練れば、もっと格好良く書けるところと思います。あくまで勉強なしなので、大目に見てください。

4 次です。

「2 問2について

   実況見分②が証拠能力を付与されない以上、設問の再現写真も、直ちに証拠とすることはできない。それでは、被害者の証人尋問に際して、再現写真を使用することは一切許されないであろうか。

   この点、再現写真は、その内容が被害者の記憶する被害状況を可視化したものである。従って、その内容は極めて誘導的であって、証人尋問の当初から再現写真を示して被害者に証言を求めることは、一切許されない。まずは、被害者に言葉による証言を求めるべきである。その上で、言葉だけでは十分な説明が困難な事項について、証言の明確化のために必要であることを主張して、再現写真を被害者に示すことについて裁判長の訴訟指揮を求めることができると解する(刑事訴訟法294条等)。そして、被害者の証言を明確化するために再現写真あるいはその写しを示して更に証言を求め、最終的には裁判所に申し立てて再現写真の写しを証人尋問調書に添付させるべきである。なお、弁護人の反対等により、再現写真や写しを被害者に示す許可が得られなかった場合には、再現写真自体を証拠物として証拠請求し、被害者の証言により証拠物の関連性を疎明した上で、採用された証拠物たる再現写真を被害者に示しながら、証言の明確化を図る方法も考えられる。ただし、いずれの場合にも、あくまで被害状況に関する証拠は被害者の証言であって、再現写真は証言を明確化するための手段にすぎないこととなる。」

   条文の指摘を求められていましたが、探しきれませんでした。なので、訴訟指揮に関する一般規定を引用して誤魔化しています。皆さんはちゃんと調べてみてください。

   こんなやり方、公判の実務経験がないと分からないと思うんですけど。というか、実務についている検察官でも、若手のうちは知らない人が結構いると思います。問2なんて、まともに答案書けた人いるのかな、と思います。

5 いやいや、それなりに難しい問題だと思うのですが。問1は、フワッとは分かるのだけど、原理原則の部分から地道に書いていけるか、が分かれ目かと。問2は、皆んな分からないような気がするので、「伝聞法則の趣旨に照らして、再現写真を被害者の証人尋問に使用する方法はない。」とか書いても、ギリギリ救われたりしないかな、と思いました。

  大分長くなりましたが、以上です!