副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

刑法その6(令和5年答案構成)

1 せっかく問題を提供いただいたので、やってみました!いつものとおり、「麓から3号目までを登るイメージ」「知らない問題を解くように」「問題点の指摘を手厚く」行きましょう!

(刑法)

 甲(21歳、男性、無職)は、高校の柔道部の先輩であり、高校卒業後も度々食事を奢ってもらうなど面倒を見てもらっている乙(23歳、男性、無職)から、6月1日午後11時頃、携帯電話のメッセージアプリを通じて、「ちょっと用事があるから、今から出てきてくれんか」と誘われ、これに応じて乙と落ちあい、乙の後に付いて徒歩で移動したところ、同日午後11時30分頃、X社の工場の南側出入口前に到着した。工場に明かりはついておらず、出入口も施錠されており、人がいる気配はなかった。その場で、甲は、乙から「ここで見張っといて。いいものを持ってくるから。」と頼まれた。甲は、それ以前に、乙が盗みをする現場に同行したことはなかったが、友人から、「乙は、深夜工場に忍び込んで銅線を盗んできて、売って金を稼いでいる。自分も工場に連れて行かれて見張りをしたことがあるが、分け前をもらえなかった。」という話を聞いたことがあったことから、乙から見張りを頼まれた時、乙が工場から金目のものを盗み出してくるのだろうと考えた。甲は、日頃面倒を見てもらっていた乙の依頼を断れず、乙が盗みやすいように見張りをすることに決め、「分かった。」と答えた。その後、甲が南側出入口付近に立って周囲の見張りを行う一方、乙は、同出入口の施錠を解いて工場内に立ち入り、同所に置かれていた複数の銅線の束を発見し、これらを盗み出すため、そのうちの銅線の束の一つを手でつかんで持ち上げた。当時、警備会社から派遣されて工場周辺を巡回中だった警備員Y(65歳、男性)は、北側出入口から工場内に入ったところ、ちょうど銅線の束をつかんで持ち上げた乙の姿を認め、走って乙に近づき、「何をしている。警察に通報したぞ。」などと叫びながら、乙の背後からその肩に手をかけた。乙は逮捕を免れるため、銅線をその場に置き、柔道技を使ってYを地面に倒した上、Yの身体を多数回にわたって足蹴にする暴行を加えた。乙は、Yが床に倒れたままぐったりした様子となったことから、その場から逃げることにしたが、重い銅線を持ったままでは駆けつけた警察官に捕まるのではないかと考え、銅線を工場内に残したまま、走って南側出入口に向かい、付近で見張りをしていた甲に対し、「見つかった。逃げるぞ。」と声をかけ、甲とともに走ってその場から逃走した。以上の事実関係を前提に、甲及び乙の罪責を論ぜよ。なお、親族相盗例の適用や、錠の損壊の有無及びそれにかかる罪責について論じる必要はない。 

 もうちょっと短くできそうなもんですが、どうしてこんなに長いのでしょうか。事実関係が詳しいんですね。

2 まずは全体のイメージです。乙が事後強盗未遂になるのは当然ですね。ただ、これだけ暴行を振るっておきながら、怪我をしていない設定は、ちょっと非現実的です。普通は事後強盗致傷でしょう。それは置いといて、窃盗の着手とか細かい点までステップを踏みながら書いていきたいところです。実行行為をしていない甲について、共謀共同正犯を認めるのか、幇助に留まるのか、強盗の刑責まで負わせられるのか、が問題になりそうです。実務上は、見張りについては、実行行為に準じる加担であって、利得があれば共謀共同正犯の成立を認めることが多いです。ただ、出題にわざわざ「乙は見張りに分け前をくれない」と書いてあるので、本問は幇助の方が書きやすそうですね。また、甲は乙の後輩であって、甲の方が立場は下になります。共謀共同正犯は、いわゆる黒幕を処罰する理論であって、立場が上の者を取り込むのは良いのですが、立場が弱い者を取り込むために使うなら、やはりその者が利益目的で積極的に犯行に加担したなどの事情が必要になるでしょう。本問は、この点からも、幇助の方が書きやすそうです。とはいえ、別に共謀共同正犯の成立を認めるのが間違いではないと思いますよ。その場合は、甲が単なる運転等の日常的な行為ではなく、現場での見張りという、犯行に密接に関係した行為を行なった点を強調することになるでしょう。

3 では書き出しですが、まずは乙の罪責から行きましょうか。というのは、実行行為は乙1人でやっているので、その方が書きやすそうだからです。

 「本問では、甲は見張りのみを担当し、犯罪の実行行為は全て乙が単独で実行している。そこで、まずは乙の罪責から検討する。

  乙は、明かりがついておらず、出入口が施錠されて管理されているX社の工場に、施錠を解いて立ち入っている。したがって、乙には建造物侵入罪が成立する。

  さらに乙は、盗み出すために銅線の束をつかんで持ち上げている。この時点で、乙には窃盗罪の着手が認められる。

  そして乙は、警備員Yから逮捕されそうになり、これを免れるために柔道技でYを地面に倒し、多数回足蹴にし、Yがぐったりして動かない状態に陥れた上で逃走している。これは、窃盗罪に着手し、窃盗の身分を有する乙が、逮捕を免れるためにYに暴行を加えてその反抗を抑圧し、銅線を持たずに逃走したものであり、乙には事後強盗未遂罪が成立する。なお、乙は、重い銅線を持ったままでは駆けつけた警察官に捕まると思って銅線を盗まずに逃げたが、警備員Yから発見されたことをきっかけに銅線を盗まずに逃走することとしたものであって、中止未遂(刑法43条後段)の成立は認められず、障害未遂(同条前段)が認められるにとどまる。

  建造物侵入の罪と事後強盗未遂の罪は、手段と結果の関係にあることから、牽連犯(刑法54条)として一罪となる。」

と、こんなもんでしょうか。問題文が長く、状況を細かく設定しているので、各事実が法律の検討に反映するように心がけてみました。ただ、ここまででは、乙の単独犯か、甲との共同正犯かは確定していません。

4 次に甲の罪責についてです。

「では次に、見張りのみを行い、実行行為をしていない甲にはいかなる罪責が問えるか。甲が実行行為をしていないことから、いわゆる実行共同正犯の成立は認められない。そこで、甲に、乙との間に共謀共同正犯の成立が認められるかが問題となる。」

  うーん、あんまり上手い問題提起ではなさそうです。共謀共同正犯って、実務に入ってしまうと、事実認定の問題として処理してしまうので、あまり法理論的なことを考えなくなってしまうんですよね。ちなみに司法研修所で勉強することですが、共謀共同正犯の検討要素は①共犯者それぞれの地位、立場、②共犯者間の関係、③共犯者相互の事件に関する働きかけ、④実行行為以外に担当した役割、⑤動機、、、、、だったと思います。ここからは、共謀共同正犯を論じるのですが、法理論的なことが上手く書けなさそうなので、ちょっと実務家チックな書き方になります。

「甲は、乙から見張りを頼まれ、『いいものを持ってくる』と言われて、乙が銅線を盗んでくることを察し、『分かった』とこれを了解している。甲が行った見張り行為は、実行行為そのものではないものの、乙の窃盗の犯行を成功させる可能性を大きく高める行為であって、犯行への寄与度が大きく、甲には乙との間で共謀共同正犯の成立を認められるようにも思われる。しかし、甲は、友人から聞いたことに基づいて、乙の窃盗の見張りをしても、分前はもらえないものと認識していたと認められる。さらに、甲は、乙の後輩であって、立場が乙よりも下位にあったと認められる。これらの点に照らすと、甲は、自ら窃盗の犯行に加担することで利益を得ようとしていた訳ではなく、日頃世話になっていた乙の窃盗の犯行を手伝おうとしていたに止まる。そうであれば、甲に乙との間での共謀共同正犯の成立を認めることはできない。したがって、乙には、先に検討した通り、建造物侵入、事後強盗未遂の単独犯が成立し、甲には、乙の犯行を容易にさせた幇助罪の成立が問題となるにすぎないこととなる。」

とかどうでしょう。もうちょっと理屈っぽいことが書けるといいな、と思うのですが。

「では、甲に乙の犯行を幇助した罪が成立するとして、どの範囲に幇助の罪が成立するであろうか。甲は、乙との犯行直前の会話によって、乙が工場に侵入して銅線を窃取してくる点については認識している。一方、乙が逮捕を免れるため警備員Yに暴行を加えた点は、犯行前の甲と乙の会話には出てきていない。

  たしかに、窃盗犯が逃走する際に逮捕を免れるため、発見者に暴行を振るう事態はよくあるものである。事後強盗罪が定められているのもそのためである。そうであれば、乙が窃盗の犯行に及ぶ点を甲が認識していた以上、乙が警備員Yに発見されて暴行に及ぶ点についても、甲は当然予想していたとも考えられる。

  しかし、窃盗犯の全てが発見者に必ず暴行を振るう訳ではないし、そもそも甲と乙は、誰にも見つからずに窃盗が成功することを前提として話をしていたはずである。そうである以上、明示的に発見者に暴行を加える点を話していなかった甲に、乙がYに加えた暴行部分についてまで、幇助の刑事責任を問うのは酷である。

  したがって、甲は、乙の建造物侵入、事後強盗未遂の罪を幇助したものの、事後強盗未遂については窃盗の範囲で幇助意思を有していたにとどまり、甲には建造物侵入幇助と窃盗未遂幇助の罪が成立する。甲は、見張りという一個の行為で両罪の罪名に触れる行為をしたものであるから、両罪は観念的競合(刑法54条)の関係となる。」

と、「たしかに、しかし、したがって」の三段論法にしてみました。

5 問題自体はオーソドックスです。こういう問題こそ、法律上の問題点の所在を指摘できるか、とか、与えられた事実関係をちゃんと当てはめに使えているか、という基本的な部分(麓から三合目までの部分)がちゃんと書けているかで差がつくんじゃないかな、と個人的には思っています。

  久々の答案構成、疲れますね。皆さんもお疲れ様でした。