副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

検取事務官について

1 検察庁内部では、「検取」「PG」と短く呼ばれることが多いようですが、正式には「検察官事務取扱検察事務官」です。身分は検察事務官ですが、法務大臣から検察官の事務を取り扱うことを認められているので、こう呼ばれます。検察庁法36条が根拠です。

2 検取の方は、比較的複雑困難ではない刑事事件を担当することが多いです。典型的なのは、交通切符と呼ばれる、無免許運転酒気帯び運転等、道路交通法違反などの事件です。そのほか、軽犯罪法違反(釣り人が禁止場所に立ち入った等)、迷惑防止条例違反などもよく担当されます。ただ、地検によっては、さらに窃盗(万引等)、暴行、傷害などの一般刑法犯を担当することもあるそうです。在宅事件が多いのですが、一部の地検では、身柄事件についても検取の方に担当してもらうことがあるとか。覚醒剤取締法違反の身柄事件で、否認している被疑者を検取の方が割った(自白に導いた)という噂を聞いたこともありました。

  なお、検取の方は、区検検察官の事務取扱なので、簡易裁判所にしか起訴はできません。なので、覚醒剤取締法違反などは、検取の方が被疑者取調べを担当した上で、最終的な起訴は検察官がしているはずです。被疑者調書については、警察官だって作成できるわけですから、検取の方はもちろん、検取ではない検察事務官だって取調べ、調書作成はできます。

  検取の方が担当できる事件の幅が広ければ広いほど、副検事や検事がより複雑困難な事件に力を注ぐことができる、という関係にあります。検取の方には是非頑張っていただきたいところだそうです。

3 検取事務官は、副検事になる前でも検察官の仕事ができます。検察事務官から副検事になる方は、多くは検取事務官の経験があります。任官前から検察官の仕事をしている訳ですから、仕事の中身をよく知っているのです。

  また、検察事務官の場合は、受験資格の関係でも、検取事務官を経験するケースが多いのです。検察事務官副検事受験資格は、「3級以上」ですが、3級になるのは、通常は30歳代半ば以降です。しかし、検察事務官は、2級であっても「検取経験2年」で副検事試験を受験する資格が取れます。そして、検取は、通常は30歳になると資格付与が可能になります。なので、検察事務官の場合、30歳で検取をもらい、2年経って受験資格を得てから一発合格すると、33歳で副検事に任官できます。これがほぼ最年少の副検事任官になります(実際は、もっと若い任官者がいましたが、レアケースです。)。ただ、希望しても必ず検取になれるものでもなく、副検事受験希望の検察事務官は、早くに検取をつけてもらえると、ものすごく喜ぶとか。

4 なお、検取は、副検事受験希望者でなくとも、検察事務官である以上、できた方が良い業務です。広域異動をする際に、検取の経験があると、選択肢が増える、というのがあります。

  検察事務官は、5級以上のいわゆる幹部クラスになるには、広域異動(所属している原庁以外の地検への異動)を経験することが、ほぼ必須です。ただ、異動先に自分にちょうど良いポストがあるかどうかは、不透明です。しかし、検取ポストはどこの地検、支部でも必ずある上、需要もあるので、検取ができる検察事務官は、基本的にどこにでも行けるようになります。

  また、検察事務官として偉くなるためにも、検取経験は重要です。検察事務官としての出世は、各地検の事務局長のほか、首席捜査官、検務監理官というポストがあります。何となくのイメージですが、ある時点で、事務局長になる人と、検務監理官を経て首席捜査官になる人に別れるみたいです。ただ、首席捜査官は、捜査部門の親玉ですから、当然のように検取業務ができることを求められます。地検によって異なりますが、首席捜査官は、検取に事件を配点したり、検取を取りまとめるなどの業務を担当することも結構あるようです。なので、偉くなる検察事務官にとっても、検取の経験は重要なのです。

5 他省庁から副検事に任官する方も、合格した年度の2月頃に検察庁に異動(出向の扱いのようです)して、2か月ほど検取事務官の業務をして、副検事の予行演習をするケースが多いようです。この場合、自宅から通勤可能な検察庁で検取を2か月やり、4月に任官してからは研修(第一次副検事研修)で、集合研修なら千葉県浦安市の法務総合研修所の寮に泊まり込み、2か月くらいしてから任地(全国異動です)に赴きます。2か月だけとはいえ、検取の経験ができるのは貴重な期間だと思います。副検事試験に合格はしたものの、具体的な仕事の内容はほぼ知らないわけですから、本人は心配や不安で一杯だとおもいます。そんな時に、とりあえず2か月間は、副検事よりは少し負荷の軽い状態で仕事の内容を身につける機会となるわけです。

6 とはいえ、検取の仕事は決して簡単ではありません。実は、軽い犯罪、というのは、それはそれで難しいのです。重大犯罪というのは、誰がどう見ても悪いことなので、何らかの犯罪が成立して処罰をすることはできるものです。しかし、軽い犯罪、というのは、犯罪が成立するか否か微妙なものも多く、一歩間違えると、あっという間に犯罪不成立、無罪となる危険性があるのです。また、被疑者も軽い犯罪だと罪の意識が乏しく、それに伴って態度が宜しくない人もそれなりにいたりするそうです。そういう人を呼び出したり取り調べるのも、大変だと思います。また、検取は立会事務官がいないので、検察官の仕事と立会事務官の仕事を両方自分でやらないといけません。検取の方には、是非頑張ってほしいと思っています。