副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

研修誌22年9月号より

1 研修誌には、新任検察官奮戦記というのが、このところ毎号掲載されています。

  22年9月号では、海上保安庁出身の副検事が執筆されています。「他官庁からの副検事志望者に対し、少しでも参考になれば」と書かれています。研修誌を購読されている方はすでにお読みと思いますが、購読されていない方もいるかな、と思い、取り上げることにしました。

2 この方は、20年近く海上保安庁に勤務され、その中で船舶を利用した大量覚醒剤密輸事件の捜査に従事されたことがあるとのことです。船を利用した違法薬物や拳銃等の密輸事件は、海上保安庁の方が活躍されますね。こういう捜査経験がおありの方は、副検事試験に興味が湧きやすそうです。

  受験勉強の際は、研修誌の過去問や合格体験記を参考にされたそうです。海上保安官をしながらも、研修誌を購読されていたのですね。確かに研修誌は、260円の割に内容が充実していると思います。検察事務官の一斉考試(年1回のマルバツ法律科目テスト)向けの講座も毎月載っていますし。法律の勉強を全くしたことがなくても、「何となくこんな風に勉強するもの」みたいなイメージはつかめますしね。

  この方は、ほかにも、旧司法試験向けのテキストや問題集を使われたそうです。刑法、刑訴法は良い選択です。ただ、憲法民法はオーバースペックかな、と思います。深く勉強をするのはいいことなのですが、「そこまでしなくても」という意味です。旧司法試験のテキスト等は、今は需要があまりなさそうですから、神保町(東京の有名な古本屋街)あたりの古本屋に行けば、叩き売りみたいに売っているのかもしれません(あくまで想像です)。

3 無事合格し、任官後は副検事第一次研修(3か月ほどのはず)を受けられました。そこで、特に公判について、同期の方が公判演習を淡々とこなすのを見て「検察官としてやっていけるのだろうか」と心配になる毎日だったそうです。

  公判は、他省庁にいるとほとんど見る機会がないですからね。法廷傍聴をしようとしても、平日昼間は普通は仕事中ですから。休暇をとって裁判を見にいくしかないです。なかなか大変ですよね。ただ、他省庁の方も安心して良いのは、検察事務官出身であっても、公判の実務経験がある者は、基本的に「いない」のです。理屈としては、検察官事務取扱検察事務官は、簡易裁判所の公判に検察官として立ち会えるのですが、実際に検取の方が法廷に立つ機会は、まずありません。「試しにやってみよう」と思うことすらほとんどの検取の方はないと思います。もし経験があったとしても、せいぜい数回くらいでしょう。検察官主導の証人尋問の経験がある検取の方は、おそらくいないと思います。証人尋問ということは、否認事件であって、その公判を検取の方に任せることは普通はしないからです。これを「やって」と検取の方に言ったら、それだけでパワハラになりかねないくらいの重い要求と思います。ですから、筆者の方には、「同期が淡々と証人尋問、被告人質問をこなしていく」ように見えても、その同期の方も内心は「これでいいのだろうか」と不安で一杯だったろうと思います。副検事の方は、多くは公判に苦手意識を持っています。それは、単に経験量が多くない、というだけのことで、数をこなせば解決することなのですが。

4 余談ですが、副検事としての力量が高いと、大規模地検では「区検公判」という部門に配属されることがあります。東京だと、地検公判部の一部っぽい位置付けのようですが、詳しいことは分かりません。区検公判は、簡易裁判所の公判を担当するのですが、その多くは、「略式命令事件の正式申立」です。つまり、被疑者が認めている事件として、罰金を求めて略式裁判を請求し、罰金の命令も出たものの、被告人が不服として正式裁判を申し立てた事件です。ですから、基本的に全部否認事件になるんですね。元々は自白事件でしたから、証拠の詰めが甘い事件もあったりして、簡裁の公判立会は大変です。区検公判に配属される副検事は、それだけで「優秀」と考えて、まず間違いありません。