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そんなブログ沢山ありそうですが…

民法その8(令和5年答案構成)

1 引き続いて、民法行ってみましょうか。民法って、頑張って答案構成しても、研修10月号に掲載される「設問の題意」を見ると毎回外してるんですよね。だんだん嫌になってきます。ただ、受験生の皆さんが頑張って解いた問題です。私も頑張ります。

民法

 Bは、Aに対して売買代金債権(以下「本件債権」という。)を有していたが、資金繰りに窮したため、本件債権を、令和5年5月1日にCに、同月2日にDにそれぞれ譲渡し、Cに対する譲渡については同月1日付けの、Dに対する譲渡については同月2日付けのそれぞれ確定日付のある証書でAに通知した。

問1 Cに対する債権譲渡とDに対する債権譲渡について各確定日付のある通知が同時にAに到達した場合、CとDの優劣関係について論ぜよ。

問2 Cに対する債権譲渡についての確定日付のある証書は同月8日に、Dに対する債権譲渡についての確定日付のある証書は同月9日にそれぞれAに到達した。同じ本件債権について債権譲渡の通知が2通も届いたため、Aは、これを不思議に思い、Bにその理由を尋ねたところ、Bは、「一旦Cに本件債権を譲渡したが、その後、Cに対する債権譲渡を解除して、Dに本件債権を譲渡した。」旨Aにうその回答をした。そこで、Aは、前記Bの回答の真偽を確認するため、CとDにそれぞれ事情を尋ねる書面を送付したところ、間もなくして、Dからは、DがBから本件債権を譲り受けたことに間違いない旨の返事があったが、Cからは返事がなかった。Aは、Cに回答を催促する書面を新たに送付することも検討したが、Dから再三にわたって本件債権の弁済を求められてたこともあり、前記Bの回答のとおり本件債権はBからDに譲渡されて現在の債権者はDであると考え、Cの回答を得ることなく、Dに弁済した。CはAに本件債権の弁済を請求することができるか。

  民法は、総則か物権しか出ないと思っていたのですが、なんと債権法からの出題です。ただ、債権譲渡の対抗関係ですから、頻出論点である所有権の対抗関係をちょっと捻ったような印象です。いつもの通り「麓から三合目まで登るイメージ」「知らない問題を解くように」「問題の所在を厚く指摘する」を心がけて行きましょう!

2 まず全体のイメージです。問1は、典型的な問題です。ただ、こういう問題こそ、条文に返って丁寧に検討を進めているかどうかで、意外と差がつくように思っています。とはいえ、問2が主戦場でしょうから、あまり問1に時間や紙面を割くわけにも行きません。問2は、答えがどちらでもOKなように思います。ただ、結論を導くまでに、どれだけ緻密に「比較衡量」ができるか、がポイントでしょう。比較衡量とは、要するに、「バランスをとる」ということです。具体的には、「足して2で割る」ようなバランスの取り方を重ねる、ということだと思います。

3 では問1から行きましょう。そのまんまの条文がありますから、問題文からその条文までをサラッとつなぎたいですね。

「本問では、BがAに対する本件債権を、CとDにそれぞれ譲渡しており、いわゆる二重譲渡となっている。従って、CとDは、お互いに本件債権について、自己の地位を主張する対抗関係にある。そして、債権譲渡の譲受人が第三者に対抗するためには、確定日付のある証書によって譲渡人が債務者に通知する等の対抗要件を備える必要がある(民法467条1項、2項)。

  この点、問1では、CもDも、確定日付ある証書によって、債権譲渡の事実がBからAに通知されており、条文上はいずれも対抗要件を備えており、第三者に対抗できるかのように見える。問1のように、CもDもいずれも対抗要件を備えている場合、本件債権の譲受人であるCとDのいずれが優先するのか、条文上定めがないことから問題となる。」

と問題の所在の指摘を厚くしてみました。ポイントは、「まずは条文を形式的に当てはめる」「その場合の不都合な点を指摘する」「どうして不都合が生じるのか(条文上定めがないから)を指摘する」ということです。これは結構ワンパターンなのですが、ちゃんと書けると「基本ができている」ように見えるので、身につけることをお勧めします。

「この点、確定日付の先後でCとDの優劣を判断する考え方もある。確かに、確定日付の先後は、両者を比較した際に優劣が明確となる。しかし、確定日付ある証書が、極めて遅れて債務者に到達した場合には、先に到達した通知に基づいて債務者が譲受人に債務弁済をしてしまう恐れがあり、法的安定性に欠ける。また、債権譲渡の対抗関係を債務者に対する通知にかからせた法の趣旨は、債務弁済の義務を負う債務者に通知をすることで、債務者が誰に対して債務を弁済すれば良いのか、債務者に明確に認識させることが、最も法的安定性が高いからであると解される。そうであれば、CとDの対抗関係については、通知が債務者であるAに到達した先後によって判断するのが、債務者Aにとって最も明確であり、法の趣旨にも沿う。」

とかどうでしょう。法的三段論法を使うために確定日付で決する立場を引っ張り出してみました。ただ、問1はこれではまだ解決つきません。

「しかし、問1では、CとDの債権譲渡に関する通知が、同時にAに到達している。この場合には、到達の先後でCとDの優劣を決することができない。この場合、CとDの優劣をどのように判断すべきか、条文に定めがないことから問題となる。」

とまた問題提起です。そして解釈。

「この点、確かに、CもDもいずれも第三者に対する対抗要件を十分に備えているとは言えない。しかし、かと言って、債務者Aが、CにもDにも債務弁済をしなくて良いとすることは、債務履行の義務を負うAに、債務履行の猶予という不相当な利益をもたらしてしまう。従って、この場合には、CとDのうち、先に債権行使をしてきた者に対してAが債務を履行すれば、Aは債務を履行したものと解するのが相当である。」

とかですかね。書いているうちにちょっと思い出してきましたが、民法の論文って、別に論理的に結論を導き出す必要って、あんまりないんですよね。足して2で割るような比較衡量を重ねた上で、「これが相当!」と言い切れば、それでちゃんと点数をつけてもらえるような気が、受験生の時はしていました。

4 では問2です。これも、事例をまずは形式的に条文に当てはめて行きましょう。

「問2では、本件債権の譲渡に関する確定日付ある通知について、Cに関する通知がDに関する通知よりも1日早く債務者Aに到達している。従って、Cは第三者であるDに対して、本件債権をBから譲り受けたことを対抗できることとなる。」

  まず形式的な当てはめです。論文を書く際にやりがちな失敗が、論点の先取りです。問2は、条文通り当てはめると、AはDに弁済してはいけないのだけど、設例の場合にAが救済されないか、という問題です。ここで良くないのが、「Aは救済されないか」の部分に飛びついて、ここをいきなり中心に据えて論じようとしてしまうことです。これをやってしまうと、上手く論じられないのです。法律というのは、まずは形式的に当てはめるものなので、そこをすっ飛ばすと、何を言っているのか分からなくなってしまうんですね。麓から三合目まで登るイメージ、というのは、こういうことです。

「しかし、問2では、Aは債権者B、譲受人C、Dと関係者全員に事情を確認した上で、Cから返事がなかったことなどから、Bの言葉を信じて、対抗関係では劣後するDに債務を弁済している。このようなAに対して、Cから本件債権の弁済請求を認めるべきか、条文をそのまま適用すると不適当であるように見えることから問題となる。」

  条文をそのまま適用すればいい、と考えている人だと、ちょっと問題提起が難しくなるかもしれません。それは、「何が問題なのかが認識しづらい」からだと思います。出題意図を読み取れるのも、法律的な能力の一つ、ということでしょうか。

「この点、確かにAは関係者全員に債権関係を確認し、得られた情報に基づいてDに弁済をしている。このようなAについては、なすべきことをなした、と認めて、Dに対する弁済によって債務を履行したと認めるのが相当とも思われる。しかし、Bは、CとDの両名に対する債権譲渡の通知をAに送付してきたものであって、Bが自己の不正を隠すために虚偽を述べる可能性が高いと言わざるを得ない。そのようなBの言葉を容易に信じてはいけないことは、Aにも明らかなことである。また、DはCとの対抗関係で劣後する者であり、このような者が債権行使を債務者に対して強く求めたとしても、それだけでAのDに対する債務履行を認める理由とはなり得ない。CはAからの問い合わせに返事をしていないが、すでに対抗要件を備えているCについて、債務者からの問い合わせに返事をしないことで、対抗要件により得た優先的立場を失うとすることは、法的安定性を著しく欠くものである。従って、CはAに対して、本件債権の弁済を請求することができると解する。このように解したとしても、Aは、債権者がCとDのいずれか不明な場合には、法務局に供託することで債務を履行できるのであるから、Aに不可能を強いるものとはならない。」

とかでしょうか。問2は、結論はどっちでも良さそうですが、Cを保護する方が書きやすそうですね。最後の供託の話は、足して2で割る、をとことんやった結果です。

5 民法は普段ほとんど使わない法律であり、答案構成はいつも撃沈している気がします。今回は行けるんじゃないか?と思っていますが、いつもそれで足元をすくわれていますから。私の答案構成と違ったとしても、不安に思う必要はありません、逆に、私のと似ていたからと言って、安心しないでくださいね。