副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

他官庁出身の副検事任官者が経験すると良い(かもしれない)検察業務

1 他官庁出身の副検事任官者は、検察事務官出身の副検事に比べて、刑事事件の経験が不足していることは否定できません。元々の仕事が刑事事件メインではなかったわけですから、当然と言えば当然です。その分、他官庁出身の方は、副検事任官後に努力して経験不足の分を穴埋めして追いつく必要があります。そして、最終的には、すべての分野で他の副検事に追いつき、できれば追い越すのが理想です。

  ただ、全ての分野で追いつき、追い越すには時間がかかります。全ての分野に平等に力を注ぎ込むよりは、効果の大きい分野に集中的に力を注ぎ、まずはその分野において追いつき、追い越してしまえば、その分野に関しては、一人前以上の仕事ができるようになります。いわゆる「得意分野」という奴です。こういう得意分野がある検察官は、結構重宝されます。事件を配点する側からしても、「この分野ならこの検察官は大丈夫」となれば、そういう事件を選んで配点できます。そういう点でも、得意分野を早く作ることは、良いことと思います。

2 もし、元々の業務が、刑事事件の一分野に関わっているなら、まずはそこを強化すべきです。海保出身の方なら海事事件、入管出身の方なら入管事件など。ただ、元々の業務が刑事事件に馴染みがない方も結構おられると思います。矯正、公安調査庁自衛隊、法務局など、、、。こういう方は、どの分野から注力すれば良いのでしょうか。

3 逆にお勧めしない分野から行きましょう。一般刑法犯全般です。一般刑法犯は、守備範囲が広い上に、ありとあらゆる問題点が潜んでいて、問題点の形も定型的でないことが多く、これができるようになるまでには膨大な時間がかかります。検察事務官出身の副検事であっても、一般刑法犯がちゃんとできるようになるまでにはかなり時間がかかるはずです。ですから、他官庁出身の方は、一般刑法犯をできるようになるための修行、勉強は継続すべきですが、そこだけに注力するのは、ちょっと違うかな、と思います。

4 まずお勧めするのは、交通事件です。交通は、検察事務官出身の方は検取経験もあり、道路交通法とかはものすごく良くお分かりです。道交法に関しては、他官庁出身の方のハンデは大きいでしょう。ただ、交通事故となると話は別です。検取の方は、そこまで複雑困難な交通事故を担当することは、あまりありません(例外はありますが)。一方、副検事には、結構高いレベルの交通事件捜査能力が求められます。その意味で、スタートラインがみんなそこまでは変わらないのです。しかも、交通事件については、詳しい検事は限られていて、副検事の方の活躍する場面が多いです。さらに、交通事件は、件数が多いことから、実は各地検の実績(受理件数、処理件数等)への影響が結構大きいのだそうです。なので、他官庁出身の方は、交通事件、しかも交通事故に注力してまずは力をつけることをお勧めします。

  ただ、勘違いしないで欲しいのですが、交通事件は、本当はものすごく難しいようです。轢き逃げとか、過失否認事件など、困難事案ができるようになるまでには、かなり時間がかかります。本当の意味で交通事件ができるようになるためには、交通事件と一般刑法犯事件の両方がかなりのレベルでできる必要があります。また、道交法に精通するためには、副検事であっても、「勉強のため」として、交通切符事件を率先してやったり、三者即決手続(交通切符事件を警察、検察、裁判所が集まって一気に終わらせる手続)について、検取の方に混じってやったり、といった努力が必要と思います。

  あくまで、比較的平易な交通事件に限っては、短期間に集中して力を注ぐことで、ある程度できるようになる、というにすぎません。

5 また、違法薬物の使用、所持事案についても、注力する価値がある分野と思います。その理由は、問題点が比較的定型的であり、身につけるべき事項を網羅しやすいからです。

  ただ、あくまで「比較的」定型的なだけであり、やはり簡単ではありません。使用の否認事件なら、被疑者の弁解を出し尽くさせ、その上で裏付け捜査を行い弁解を潰し、その結果を被疑者にぶつけて弁解が変遷したらまた弁解を出し尽くさせ、裏付け捜査を尽くし、、、ということを繰り返す、という地道な捜査を積み重ねる必要があります。薬物の使用、所持事案について、否認事件を安定的に任せてもらえる副検事は、かなりのレベルの力量がある方と思います。

  なお、大規模な部制庁の検取をやっていた検察事務官は、薬物事件の経験がある程度あったりします。こういう人達は、スタートラインが違うんだ、と思ってください。

6 他にもおすすめの分野があるかもしれませんが、私が思うのはそんなところでしょうか。

  他にも、一般刑法犯の中で、万引(窃盗)、無銭飲食、無賃乗車(詐欺)などは、副検事の方が比較的配点を受けやすい事案です。ただ、こういう事件って、本当に何に問題もない、単純な明々白々みたいな事案は、意外と少ないのです。むしろ、何らかの問題点がある事件の方が多く、しかも事件によって、少しづつ問題点の形が違ったりします。こういう類の事件は、一気にできるようにはなりません。目の前の事件にまずは取り組み、少しづつ地道に成長していくしかないのでしょう。