副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

刑事訴訟法その4(令和4年答案構成)

1 研修誌22年10月号に、令和4年副検事試験の問題と解説が出ました。解説を読んでない状態で、刑訴にトライしてみます。いつもどおり、「問題提起を詳しく」「麓から3合目まで登るイメージ」「知らない問題を解く気持ち」でいきましょう。

「P警察官は、◯◯県××市△△1丁目1番1号Aマンション101号室が密売人甲が率いる覚醒剤密売組織の拠点となっているとの情報を得て、必要な疎明資料を収集の上、甲を被疑者とする覚醒剤取締法違反の犯罪事実で、「捜索すべき場所」を「◯◯県××市△△1丁目1番1号Aマンション101号室居室」とし、「差し押さえるべき物」を「覚醒剤、注射器・吸引具等の使用器具、小分け道具、計量器具、覚醒剤容器類、ポリ袋・封筒等の収納用具、手帳、ノート、日記、紙片、メモ類、名刺、住所録、電話番号帳、USBメモリメモリーカード・SDカード等の記録媒体、携帯電話機・タブレットスマートフォン等の機器及びこれらの附属品、その他本件に関係あると思料される文書及び物件」とする捜索差押許可状の発付を請求し、同許可状の発付を得た。

問1 上記のような「差し押さえるべき物」として「その他本件に関係あると思料される文書及び物件」という記載は適法といえるか。問題となる点を挙げつつ論ぜよ。

問2 上記捜索差押許可状による捜索差押えの現場において、警察官は、次の(1)から(4)までのとおり写真撮影を行った。これらの写真撮影の適法性について論ぜよ。

 (1)    計量器、パケ及び覚醒剤の密売に関するノートを、机の引き出し内から発見した際、当該引き出し内を写真撮影すること。

 (2)    部屋の壁に押しピンで貼られたカレンダーに、覚醒剤の密売に係る日別の売上金額が記載されていた場合に、当該カレンダーを壁に貼られた状態で写真撮影すること。

 (3)     部屋の壁に設置され容易に取り外すことのできないホワイトボードに、覚醒剤の密売の売上げが記載されていた場合に、当該ホワイトボードを写真撮影すること。

 (4)     部屋の押し入れの中を捜索したところ、番号部分が変造されたナンバープレートが多数発見されたことから、盗難車両に取り付けるためのものではないかと考え、これらのナンバープレートを、床に置いて1枚ずつ写真撮影すること。」

  長いです。法務省のHPに副検事試験の問題って載ってないんですかね。私が探しきれないだけなのかな。

2 まず、全体のイメージです。

  捜索差押許可状の、いわゆる「べき物」(業界用語です)の記載に関して、令状主義を問う問題です。「べき物」にパソコンが入っていないのが悪目立ちしますね。

  問1は刑訴法の勉強っぽい問題ですが、問2は、令状執行の際の当てはめを問う問題ですね。この当てはめの部分は、通常勉強しないところで、その場で考えさせるための出題でしょうか。4つも小問がありますから、それぞれの違いを意識して当てはめていけば、それなりに書けそうです。ただ、分量過多にならないよう、コンパクトにまとめる必要はありそうです。

3 では、問1からです。

「1 問1について

 (1) 司法警察員は、裁判官の発する令状により差押えや捜索ができるとされ(刑事訴訟法218条1項)、捜索差押許可状には差し押さえるべき物を記載することと定められている(同法219条1項)。

   捜索や差押えは、人の住居に立ち入ったり、人の財産を強制的に取り上げる強制捜査であることから、警察官等がこれらを行う際は、裁判官による事前審査を経た令状に基づくことを原則としたものである。

   しかし、本件の捜索差押許可状は、『差し押さえるべき物』として『その他本件に関係あると思料される文書及び物件』という記載がある。この記載は、結局あらゆる文書及び物件を差し押さえることが可能であるようにも見え、裁判官による事前審査が無意味となりかねないことから、抽象的に過ぎて記載自体が『差し押さえるべき物』の記載を求める同法219条1項に反し、違法ではないかが問題となる。」

と、問題点の指摘はこんなものでしょうか。条文に即していうと、219条1項の「差し押さえるべき物」という文言が、どの程度の限定を要求しているのか、条文上明らかでないことから生じる問題点です。どうして記載が抽象的だと問題になるのか、を指摘するために、令状主義に立ち返ってみました。「問題点を挙げつつ」とありますから、「記載が抽象的ではないかが問題となる」などとフワッとした問題提起ではなく、「あらゆる文書等が差押え可能に見える」→「裁判官の事前審査の意味がない」→「『べき物』を記載することとした同法219条1項に反し違法ではないかが問題」という令状主義や条文に即した問題提起が求められていると考えました。

   次に解釈はこんな感じでしょうか。

「(2) 差し押さえるべき物の記載が、なんら限定なく『本件に関係あると思料される文書及び物件』などと記載された場合には、捜索、差押えに当たる警察官等がほぼ無限定にあらゆる文書等を差し押さえることが可能となってしまう。これでは、裁判官の事前審査によって警察官等の暴走を抑止しようとした令状主義の趣旨を全うすることができない。従って、このような無限定な記載は同法219条1項に反し違法であると解する。

   しかし、どのような文書、物件が発見されるか明らかではない中で、差し押さえるべき物を全て具体的に記載することは、極めて困難である。そして『差し押さえるべき物』は、『覚醒剤、注射器・・・』など、覚醒剤密売に関係があると認められる文書や物件を具体的に多数列挙した上で、『その他本件に関係あると思料される文書及び物件』と記載している。このような記載であれば、具体的に列挙された文書等には該当しない場合であっても、列挙された文書等と照らし合わせることによって、記載のある文書等に類するものとして差押えが可能か否かを判断することができる。従って、このような記載であれば、同法219条1項に反するものではなく、適法と解する。」

   刑訴法の捜査関係では、論述の際に「必要性や緊急性」と「許容性や相当性」を両方書くことを意識しています。「必要性だけ」とか「相当性だけ」だと、捜査機関が好き勝手に手続を進めているだけのように見えます。刑訴法1条に「人権保障」と「真実発見」の両立を目的とすると定められています。なので、「真実発見」のために「必要」なことで、「人権保障上許される」ことだから適法、という説明は、刑訴法の目的とも合致すると思っています。ただ、私が受験中に自分でそう考えただけなので、そこは留意願います。

4 次に問2です。

「2 問2について

 (1) 問2では、捜索差押えの現場において、警察官が写真撮影を行なっている。写真撮影については、捜索の状況や文書等の発見状況等を明らかにする有用な手段であって、同法222条1項が準用する111条1項の『必要な処分』として許されると解する。ただし、捜索差押えに付随する手続であることから、写真撮影が許される範囲は、あくまで適法な捜索差押え手続に必要な範囲に限られる。」

と総論を書いてみました。なお、写真撮影の根拠が「必要な処分」で良いのかは、確信まではありません。なんせ勉強していないので。ただ、条文を見ても具体的な規定がないので、「必要な処分」以外に根拠はないだろう、という読みで書いてみました。書かずに上手く回避できれば良かったのですが、本問では回避の仕方が分からなかったのと、「多分合ってる」という根拠のない自信から、勝負してみました。

   そして、小問ごとの検討です。

「(2) 小問(1)について

   小問(1)の計量器等は、いずれも『差し押さえるべき物』に具体的に記載されている物である。一方、これらが発見された引き出し自体は、差し押さえるべき物には記載されていない。しかし、計量器等がどこからどのような状況で発見されたのか、引き出しに他にどのような物件が入っていたのかは、捜索差押え手続の経過を明らかにする上で必要な事項であり、その写真撮影は適法な行為として許されると解する。」

   小問(1)は当然適法でしょうから、簡単にまとめました。

「(3) 小問(2)について

   小問(2)のカレンダーは、『差し押さえるべき物』に記載はない。しかし、『手帳、ノート、日記、紙片、メモ類』という具体的記載に照らせば、これらに類するものとして、本件カレンダーについても差押えは適法に許されると解する。そして、カレンダーの発見状況を明らかにするため、壁に貼られた状態で写真撮影することも、適法な行為として許される。」

でどうでしょう。ストレートに「メモ類に該当する」と言い切っても良いと思います。

「(4) 小問(3)について

   小問(3)のホワイトボードは、『差し押さえるべき物』には記載がないものの、『メモ類』に準じて、差押えが許されると解する。ただし、容易に取り外すことができないことから、実際の差押えは困難である。この場合、差押えをしない物件についても、差押えに『必要な処分』として写真撮影が許されるのかが問題となる。この点、ホワイトボードの記載は、後に抹消することが可能であり、記載状況を写真撮影して客観的に確保する必要性は高い。また、別途検証令状を必要とするとした場合、改めて令状請求をする手続的負担が大きい。一方、既に捜索差押許可状について裁判官の事前審査を経ており、重ねて検証令状の審査を要求しなくとも、人権侵害の危険は低い。更に、壁面を破壊するなどしてホワイトボードを差し押さえることも可能なのであり、そこまでせずに写真撮影のみにとどめることは、対象者の人権保障上もむしろ望ましいことである。そして、ホワイトボードは捜索の過程で発見されたものであるから、本件ホワイトボードの記載状況の写真撮影は、捜索で発見された物件の状況を明らかにするという「必要な処分」であり、適法に許されると解する。」

とか書いてみました。(3)辺りになると、ちゃんと問題点を指摘して、必要性、相当性を論じた方が良さそうです。

「(5) 小問(4)について

   小問(4)の変造ナンバープレートは、覚醒剤密売の際、移動に使用する車両に取り付ける可能性があり、本件に関係する物件とも言えそうである。しかし、『差し押さえるべき物』の具体的記載に照らしても、これら変造ナンバープレートに類する記載は見当たらない。これらの変造ナンバープレートを本件捜索差押許可状で差し押さえることは許されないと解する。それでは、差押えが許されない変造ナンバープレートの写真撮影は許されるか。

   この点、捜索の過程を明らかにするものとして、例えば押し入れの中に多数の変造ナンバープレートが収納されている様子を、そのままの状態で撮影することは許されると解する。一方、本問のように、変造ナンバープレートを床に置いて1枚ずつ写真撮影する行為は、もはや捜索の手続を明らかにするものとは言えず、むしろ個々の変造ナンバープレートという個別物件の形状等を記録するものであり、差押えに付随する手続と言わざるを得ない。差押えが許されない変造ナンバープレートについて、このような写真撮影をすることは、本件捜索差押許可状を根拠としては許されず、違法であると解する。警察官としては、所有者や管理者から変造ナンバープレートの任意提出を受けるか、別途差押許可状を裁判官から発付させた上で、個別の変造ナンバープレートの写真撮影を行うべきである。」

と最後に違法な手続が出てきました。

   全部を1時間で書き切るのは大変そうですね。もっと削らないとダメかな。まあ、そのうち解説を見て、考えましょう。以上です!