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刑事訴訟法その2(令和3年答案構成)

1 調子に乗って、刑訴も答案構成してみましょうか。

  いつものように「知らない問題のように解く」「山の麓から3合目までしっかり登るイメージ」「問題点の指摘を詳しく」です。

  そして、私は、この答案構成をするための勉強をしていません。それは、「知らない問題のように解く」ことを実演するためです。勉強してから答案構成すれば、学問的には正しい内容を書けるでしょう。しかし、実戦的ではありません。「試験本番で出たら、何をどう考えて書くか」を実演したいのです。ですから、学問的な正しさを犠牲にしています。もしかしたら、内容が間違っているかもしれません。そこは、皆さんの方で、適宜修正してください。

2 では、問題はこれで行きましょう。

「令和3年4月16日午後11時頃、東京都H市I町1丁目2番3号先路上において、Vが刺身包丁で左胸を刺される事件が発生し、犯人は、その場から逃走した。

  たまたま同所を通行中であったWは、前記犯行を目撃し、「待て」と言いながら、直ちに犯人を追いかけたが、約1分後、犯行現場から約200メートルの地点で犯人を見失った。

  通報により駆けつけた警察官は、Wから、犯人の特徴及び犯人が逃走した方向を聞き、Wが指し示した方向を探した結果、同日午後11時30分頃、犯行現場から約2キロメートル離れた路上で、Wから聴取していた犯人の特徴と合致する甲を発見した。

  警察官は、甲に対し、職務質問を実施したところ、甲が本件犯行を認めたため、①甲をVに対する殺人未遂罪により現行犯逮捕した。

  一方、犯行現場には、通報を受けて救急車が到着したが、Vは既に心肺停止状態にあり、その後蘇生しないまま、搬送後の病院においてVの死亡が確認された。なお、Vの殺害に使用された刺身包丁は、Vの胸部に刺さった状態で発見された。

  甲は、その後の取調べにおいて、「乙からVを殺すよう指示されたため、殺すつもりで刺身包丁でVの胸を刺した」旨供述した。そこで、警察官は、甲の供述に基づき、乙をVに対する殺人の共謀共同正犯の被疑事実で通常逮捕した。

  乙は、甲との共謀の事実を否認したが、検察官は、関係各証拠から、乙には甲との共謀共同正犯が成立すると判断し、「被告人は、甲と共謀の上、令和3年4月16日午後11時頃、東京都H市I町1丁目2番3号先路上において、Vに対し、殺意をもって、甲が刺身包丁でVの胸を1回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を左胸部刺創による失血により死亡させて殺害したものである。」との公訴事実により乙を公判請求した。

  その後、検察官は、乙に対する殺人被告事件の公判前整理手続において、裁判長からの求釈明に対し、②「乙は、甲との間で、令和3年4月10日、乙方において、Vを殺害する旨の共謀を遂げた」旨釈明した。

  一方、乙の弁護人は、甲乙間におけるV殺害の共謀の事実を争い、「乙は、令和3年4月10日は、終日、交際相手である丙方にいた。」旨主張したため、本件の争点は、「甲乙間で、令和3年4月10日、乙方において、Vを殺害する旨の謀議があったか否か」であると整理され、乙に対する殺人被告事件の公判における検察官及び弁護人の主張・立証も上記釈明の内容を前提に展開された。

第1問 ①の現行犯逮捕の適法性について論ぜよ。

第2問 ②の検察官が釈明した事項が訴因の内容となるかについて論ぜよ。

第3問 裁判所が、証拠調べにより得た心証に基づき、乙について、「乙は、甲との間で、令和3年4月12日、乙方において、Vを殺害する旨の謀議を遂げた」と認定して有罪の判決をすることが許されるかについて論ぜよ(①の現行犯逮捕の適否が与える影響については論じなくて良い)。」

  相変わらず長いですねー。入力するのも大変です。

3 いつも通り、まずは全体のイメージです。小問が多いので、それぞれについて回答できる内容は、限定的になりそうです。

  現行犯逮捕は、当然違法でしょうね。ただ、「当然違法」と書いただけでは、内容が薄すぎる。短い回答の中に、いかにアピールポイントを作るか、でしょう。

  第2問と第3問は、関連してそうですね。2で訴因の内容になるなら、3は当然訴因の範囲外の事実を認定しており、論じるまでもなく違法です。そういう意味では、「第2問では、訴因の内容とならない。その上で、第3問の有罪判決が許されない、という根拠を何に求めていくか。」という流れでないと、書きづらそうな問題です。

  ただ、受験生の皆さんが、試験の本番で、この「第2問と第3問の関連」まで事前に見抜くのは、難しいかもしれません。答案構成しながら、書きやすさを考えるくらいでしょうか。

4 では、まず第1問から。

  こういう場合は、条文からスタートするのがいいですね。

 「現行犯逮捕については、刑訴法212条、213条に規定があり、現に罪を行い、又は行い終わった者について、何人も逮捕状なくして逮捕できるとされている。」

  内容は、適宜膨らませてOKです。

  ここで、いきなり現行犯逮捕の適否の検討に入ってしまう書き方もあります。ただ、そうすると、「設問の状況下では、現に罪を行い終わったとは認められない」と結論を出して終わりになってしまいます。問題の所在の指摘も何もないですね。

  212条の「現に罪を行い終わった」という文言の解釈が問題になるわけです。ですから、「①の現行犯逮捕が適法か否か、甲が刑訴法212条1項にいう『現に罪を行い終わった者』に該当するか、『現に罪を行い終わった者』の解釈が問題となる。」と、問題の所在を指摘してはどうでしょう。

  このようにちゃんと問題の所在を指摘した以上、解釈の指針を示す必要があります。それが、原理原則の「令状主義」ですね。つまり「通常の逮捕は、199条で逮捕状によることとされ、対象者が『罪を犯したと疑うに足りる相当な理由』を要件とし、裁判官による審査を経ることとされている。」と、まずは令状による逮捕を基本とします。そして、「現行犯逮捕は、この例外として、逮捕状なくして逮捕が認められる。従って、現行犯逮捕にいう『現に罪を行い終わった者」の解釈は、厳格になされるべきである。」と解釈の指針を示す訳です。内容的には、条文に書いてあることばかりです。ただ、原理原則からの指針を示すことで、「令状主義の例外の問題だと分かってますよ。」とアピールするのです。

  その上で、約30分、約2キロメートルという時間的場所的な離隔、Wが述べる特徴と逃げた方向との合致、甲の犯行自認をもって、「『罪を犯したと疑うに足りる相当な理由』の有無について、裁判官による審査を経ることなく、無令状で逮捕を認められるか」という当てはめをします。普通は「時間的、場所的な離隔が大きい点に照らすと、『現に罪を行い終わった者』とは認められない。」として、現行犯逮捕は違法、とするでしょう。

  時間的余裕があるなら、212条2項の準現行犯逮捕に該当しないかにも、3、4行触れると、加点事由になるかもしれません。ただ、長く書きすぎるとバランスを失います。さらに、「本件では、緊急逮捕によるべきであった。」という言及も、加点事由かもしれません。

  後の第2問、第3問は、そんなに論述で差がつかなさそうに思います。その意味で、第1問で原理原則に遡れるか、が、最も点数に差がつきそうなところかな、と思いました。

5、で、第2問です。

  実務家の感覚としては、「訴因の内容になる訳ないでしょう」です。謀議自体は、犯罪行為ではないですし。(共謀だけして、誰も実行行為に着手しなかったら、共謀罪の規定がない限り、不処罰か、せいぜい予備罪が問題になるだけですよね。)また、共謀の日時、場所について、検察官が、釈明の後で、主張を変更したり追加する際、訴因変更の手続(312条)がいるか、といったら、いらないでしょう。

  ただ、これを、実務経験がほぼない副検事試験受験生がどう論じるか、を考えると、勉強をしないで答案構成する身としては、難しいですね。

  条文に基づいて書けることとしては、「訴因とは、256条3項に定めがあり、『できる限り、日時、場所及び方法を以って特定された罪となるべき事実』とされている。」と、条文のまんまですね。あとは、「本件において罪となるべき事実は、公訴事実記載の、甲がVの胸部を刺身包丁で突き刺した行為であり、これについては、できる限り、日時、場所及び方法を以って特定されている。」「乙と甲の共謀は、本件殺人の実行行為よりも前に行われた謀議であって、謀議をすること自体は、罪となるべき事実とは認められない。なぜならば、殺人の謀議をすること自体は、予備罪の成否をおけば、何ら犯罪行為ではないからである。」とか書くくらいでしょうか。

  とはいえ、このように書くのは、結構勇気がいりそうですね。自分が受験生だった時に書けたか、自信がありません。この部分が勉強なしで書きづらそうなため、この問題は、あまりやりたくなかったのです。皆さんは、ちゃんと勉強した書き方も身につけてくださいね

6 そして第3問。

  まずは、問題の所在から。「②の釈明は訴因の内容とはならないのであるから、裁判所は、②の釈明とは異なる日時の謀議を認定して有罪判決をすることが許されるようにも思われる。」と、まずは原理原則から導かれる結論を出してみます。

  その上で、不都合性を指摘するのです。「しかし、公判前整理手続において、本件の争点は4月10日の謀議の有無と整理され、公判においても、検察官、弁護人とも、②の釈明を前提に主張・立証を展開した。その上で、裁判所が②の釈明とは異なる日時である4月12日の謀議を認定して有罪判決を下すことは、被告人、弁護人にとって不意打ちであり、その防御の機会を奪っている点で、許されないのではないかが問題となる。」これで、問題の所在が指摘できましたね。

  あとは検討ですが、ここで「公判前整理手続で4月10日の謀議の有無が争点として整理されたのだから、これと異なる日時の謀議を裁判所が認定することは許されない。」と、いきなり公判前整理手続による制限の話を持ち出してしまうと、話が表面的で終わってしまいます。書いてあることはその通りなのに、書き方によって点数が伸びない、という点で、あまり作りの良い問題ではないように感じました。

  第3問は、公判前整理手続がなくても、不意打ちとして許されない認定です。なので、一般論から入り、さらに「しかも本件では公判前整理手続もなされており、、、この点からも、、、」と検討を進めるのが、出題者の意図と思われます。ただ、答え方を限定する問題は、良くないですね。

  一般論の検討として、「刑事裁判において、当事者に攻撃、防御を尽くさせることは、真実発見(刑訴法1条)という目的達成の上で重要なことである。訴因(刑訴法256条3項)にも、被告人、弁護人の防御の範囲を明確にする機能がある。しかし、防御の範囲を明確にする機能は、訴因制度のみに求められるものではない。本件では、乙は共謀共同正犯の成否が問題となっており、謀議の有無は、乙に犯罪が成立するか否かを決する唯一の争点である。このような重要な争点について、検察官の②の釈明に基づき、4月10日の謀議の有無について主張・立証が展開された公判経過に照らせば、被告人、弁護人に防御の機会を与えないまま、4月12日の謀議を裁判所が認定することは、不公正な裁判として真実発見を損なうものと言わざるを得ない(刑訴法1条、憲法37条1項)。」とか書きますかね。何も理由がないと寂しいので、刑訴法1条以外のをちょっと探したら、憲法37条1項に「刑事事件の被告人の公平な裁判を受ける権利」の規定があったので、ちょっと大上段に構えますが、引用してみました。

  その上で、「なお、本件では、公判前整理手続が行われていることから、検察官には、4月12日の謀議に関する新たな立証には制限がかかっている(刑訴法316条の32)。公判前整理手続の目的が争点の明確化、裁判の迅速化にあることを考えると、被告人、弁護人に、4月12日の謀議の存在に関する新たな防御活動を認め、公判を長期化させることについては、裁判所は慎重であるべきである。本件では、裁判所が4月12日の謀議を認定して乙に有罪判決をすることは許されない。」となるように思います。

7 最後の部分は、殺人という重大犯罪であることから、例外的に公判の長期化を許容するのが常識的とも言えます。ただ、実際には、検察官がこんな主張の仕方をすることは考え難く、その意味で、あくまで試験用の極端な事例です。なので、「有罪判決はダメ」と言い切って良いと思うのです。

8 訴因のところは、書き終わってから勉強したくなってきました。こんなんでいいのか、よくわかりませんが、以上です。

  長文失礼しました。