副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

刑事訴訟法その1

1 刑訴法って、まだ書いたことなかったんですね。今更ですが。

  私が刑訴法を勉強していたのは、学生の頃でした。刑訴法については、やや専門的に勉強をしていたのですが、当時担当の先生から言われていたのが、「刑訴法は実務をやっていないと研究できない」ということでした。

  先生の言う実務、というのは、要するに刑事弁護のことでした。刑法は、刑事裁判実務を知らなくても学者として研究を進められるが、刑訴法は刑事裁判実務を知らないと研究が進められない、という意味です。

2 今から振り返ると、学生の頃は、刑事裁判実務を知らないまま、よく刑訴法の勉強をしていたものだな、と思います。自分が勉強していることが、実務上どのように使われ、どのような場面で問題となるのか、ということを一切考えないまま、よく勉強を進める意欲があったものだな、と自分に呆れます。

  逮捕が3日、勾留が最長20日、と文字面では知っていても、それが捜査に必要な期間として長いのか、短いのか、そもそも捜査をしたことがないから、全然実感できない訳です。

  特に公判なんて、「321条1項2号書面?どんな時にいるの?」てなもんです。もちろん「証人が証言で相反供述をしたとき」と勉強はしていました。が、「これがないと、証人が証人尋問で証言をひっくり返した時に、起訴事実を立証する手立てがなくなる。そうすると、証人を脅して証言をひっくり返そうと強い要因となる。ひいては、当事者主義の訴訟構造が揺らぐ。」という意識は、学生の頃は皆無でした。(読者の皆さんも、今はそんな意識を持つ必要はないですからね。)

3 まあ、実際には、刑事弁護等の刑事裁判実務をやらない刑訴法の学者も沢山おられます。なので、「刑事裁判実務を知らないと刑訴法の研究ができない」という意見は、反発もかなりあると思います。これは、私の担当の先生が、他の学者を当てこすってた面も強い言葉だったと思っています。

4 私が言いたいことは、「刑訴法の論文試験は、刑事裁判実務の経験が(ほぼ)ない人を対象とした試験である。」ということです。(ほぼ)は、司法警察員や検察官事務取扱検察事務官裁判所書記官など、捜査、公判の一部について経験がある方もいる、という意味です。

  はっきり言って、副検事試験だろうが司法試験だろうが、試験のために勉強した刑訴法の知識や思考力なんて、実務に出たらほとんど頼りになりません。

  全くゼロではありませんが、実務で刑訴法が問題になる場面は、捜査手続の適法、違法などがギリギリ問題になる訳で、試験とは切迫感や緊張感が全く違います。

  論文試験で「この現行犯逮捕手続の適否を論ぜよ。」とか出たら、「うーん、微妙だなあ。適法か違法か、どっちにしようかな。どっちでも書けそうだな。」てなもんです。

  しかし、実務で現行犯逮捕手続の適法性が問題になるのは、多くは身柄事件送致を受けた場面です。手持ち時間24時間、もし違法ならその後の対応(手続違法の場合、法定刑が重い罪なら弁解録取をして釈放し、直ちに緊急逮捕手続をして更に弁解録取手続をする等)も要ります。適法と判断するなら、後に刑事裁判で現行犯逮捕の違法が主張された際に、弁護側からどのような主張が考えられ、それに対してどのような反論が可能か、それが法律と判例に照らして絶対正しいと言い切れるか、について結論を出さなけばいけません。

  まあ、実務では、周りの検察官、先輩、上司と知恵を出し合って解決するので、1人で背負い込む訳ではないので、不安になる必要はないですよ。ただ、刑訴法は、捜査も公判も、実務をするようになってから学び、身につくことがすごく多い、ということです。

5 なので、受験のための刑訴法の勉強は、「試験に必要な部分に限って勉強する」という意識がとても大切だと思います。「刑訴法を本質的な部分から理解しよう」という考え方は、最終的には正しいのですが、それは任官後にやることです。検察官としての捜査、公判実務経験がない状態では、本質からの理解をするには条件が悪すぎます。

  例えば「公判手続における冒頭陳述と論告と証明予定事実記載書の機能について、それぞれが行われる場面と関連付けながら論ぜよ。」なんて問題も考えられます。刑事裁判実務を経験していれば、それなりに答えられる問題ですが、公判経験がなければ、すごく難しいですよね。こんな問題は、副検事試験では、出ません。(出たら、、、、、私の認識不足ですね。)

  そういう意味では、過去問でどこが聞かれたか、をチェックするのは、とても大事なことだと思います。また、過去問の元ネタがないか、色々情報収集してみるのもいいことだと思います。例えば、司法試験予備試験H29刑訴法の問題とかチェックしてた方は、去年いいことがあったでしょうね。