１ 能力的な話ではありません。むしろ、性格とか性質とかと、検察官という仕事の相性の話です。
２ 副検事ではなく、若手の検事を見ていると、こういうことを考えるきっかけになるそうです。
若手検事な訳ですから、司法試験に合格して、司法修習を経て、弁護士、裁判官という選択肢もある中で、検事に任官した訳です。
しかし、そういう若手検事の中に、短いと２年とか、そうでなくとも数年くらいで退官してしまう人がいるそうです。別に能力的に不足がある訳ではないのに、です。
いくつかのケースを見るうちに、「これは要するに、検察官という仕事に向いてなかったんだろうな。」という共通項のようなものが見えてくるそうです。もちろん、人はそれぞれ性格、性質は違うし、置かれた環境も異なります。なので、一つの理由だけで全てを説明できるものではありません。あくまで、一つの意見として「こういう事情があるようだ。」ということです。
３ 若手検事のうち、早くに辞めてしまう人の多くは、「思っていたのと違った」と感じているようです。どういう点に違いを感じているのか、というと、「想像よりもはるかに泥臭かった」という点のようです。
検察官は刑事事件を扱う訳ですから、そこでは暴力沙汰とか、金のむしり合いとか、ありとあらゆる人間の欲望が問題となります。しかも、刑事事件になるケースは、欲望を堪えきれなかった人が犯罪に及んだ訳です。ですから、被疑者、被告人となるのは、多くは欲望を抑える力が弱い人です。そして、そういう人の周囲には、似た感じの人が集まっていたりします。被害者が被疑者の知人という場合もあります。まあ、要するに刑事事件というのは、本質的に泥臭いものなのです。
そして、第一次捜査機関である警察は、こういう泥臭い刑事事件等に対応できるだけの能力を持った警察官を集め、育てます。自然と、警察官は、泥臭さと正義感を併せ持つ方が多くなります。通常、警察官は、検察官に対して、かなり気を遣って下さいます。ただ、ギリギリの場面では、普段は刑事事件に向けられている警察官の泥臭さが、検察官に向けられることもあるのです。
検察官は、このように事件関係者や警察官と日々接し、刑事事件について、捜査、公判を進めます。そうである以上、検察官には、一定の泥臭さが必要であり、また、泥臭い刑事事件に取り組むための理由、モチベーションと「覚悟」が必要なのだと思います。
４ 早期に退官する検事の多くは、この泥臭さや、モチベーションと覚悟がなかったのではないかと思います。なぜそんなことになるのかというと、法科大学院や司法修習の中で、刑事事件に関する泥臭い現実を目にする機会が乏しかったのではないか、と推測しています。司法修習は、指導担当検事が付きますが、「修習生には、比較的問題がないシンプルな事件を経験してもらえば良い」という考えで指導をすると、元々の検事任官希望者が、泥臭さを経験する機会がないままになったり、志望未定者が泥臭い現実を知らないままに検事任官を希望するようになったりしているのではないか？と想像しています。
若手検事が退官に際して「もっとキレイな仕事がしたかった」ということがあるそうで、どいやら「ミスマッチだった」ようです。また、任官の際に「ちょっと育ちが良すぎる」人なんかも、やはり数年後に退官、というケースがあるそうです。
５ 以上から、検察官という仕事に向いている性格、性質とというのは、「一定の泥臭さがあること」「泥臭い刑事事件に関わる理由、モチベーションと覚悟があること」だと思われます。
６ ついでにもう一つ。「裁判官タイプ」の人も、向いていないそうです。厳密には「捜査担当の検察官に向いてない」ということになりますが。副検事の方は、公判専従よりも、捜査専従か、主任立会(捜査、公判を１人で担当)が多いでしょう。「裁判官タイプ」というのは、刑事事件の問題点について、「目の前にある事件記録の中だけで解決しようとする」性質の人です。裁判官はそれでいいんです。日本の刑事裁判は当事者主義ですから、裁判官は自分から真実を探す意欲を燃やす立場ではありません。しかし、捜査担当検察官は、そうはいきません。自ら真実を探す意欲を燃やし、「どうやったら真相を明らかにできるのか」を考える必要があります。目の前にある記録を読み込むのと同時に、記録の外側に何があるのかを全力で考えなければなりません。
ただ、人の性質はそれぞれであり、中には、どうしても「目の前にある記録」の中だけで物事を解決しようとしてしまう人がいるようなのです。指導されるとその時は理解しているようなのですが、どうも身につかないというか、別の事件でまた同じように「目の前にある記録」で考えてしまうようです。こういう人も、多分捜査担当検察官は向いてないんだろうな、と思っています。
