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刑法その2(令和3年答案構成)

1 前回から大分間が空きました。

  刑法の答案構成、やってみましょうか。自信ないですけど。

  繰り返しますが、ポイントは「知らない問題のように考える」「麓から3合目までをしっかり登るイメージ」「問題点の指摘部分を詳しく」です。

  問題はこれでいきましょう。

「A(25歳•男)とその職場の同僚であるB(26歳•男)は、日中の職場でのトラブルでうっぷんを募らせ、帰宅のため、職場の最寄り駅に向かう途中の裏道で、一人酒に酔って千鳥足で歩いている甲(50歳•男)の姿を認めた。Aは、Bに対し、『イライラが収まらないから、あいつをボコボコに殴ってスカッとしようぜ。』と申し向け、Bも『それ、名案。』と言ってこれに応じた。A及びBは、甲に近づくや、それぞれ、甲の顔面、胸部等を思いっきり殴ったり蹴ったりし始めた。

 甲に対する攻撃を開始して1分ほどした後、Aは、甲が非常に高価に見える腕時計をしていることや、その身なりから、甲が金持ちなのではないかと思い、どうせなら、このまま甲を攻撃して抵抗できなくさせ、甲が所持している金品も奪ってやろうと思い立った。

 そこで、Aは、Bに対し、頭部、胸部等を思いっきり殴ったり蹴ったりした。甲は、ほどなくしてぐったりとその場に横たわった。その頃、その場に近づいてくる男女数名の話し声が聞こえてきたことから、Bは、Aに対し、『人が来た。やばいから逃げるぞ。』と言ったが、Aは、『まだ何もとっていない。逃げたければお前だけ先に逃げろ。』と言った。Bは、その場から逃走したが、Aは、Bが逃走した後もその場にとどまり、甲の腕から外した腕時計、その着衣を物色して見つけた財布をそれぞれ手に取ってその場から逃走した。

 A及びBによる一連の攻撃によって、甲は顔面打撲、肋骨骨折の傷害を負ったが、これらの傷害が、どの時点におけるA、Bいずれの攻撃によって生じたかは認定できない。

 この場合におけるA及びBの刑法上の罪責を論ぜよ。」

 長いですねー。

2 まず、問題全体を見渡したイメージですね。暴行の共謀と、強盗の共謀は、問題文の記載ぶりからも、直ちに認定できそうです。Bについて、共犯からの離脱が問題になりそうですね。また、暴行と傷害結果の因果関係も、なんとなく問題になりそうな感じです。

 一般的な刑法総論ではなく、共犯がメインっぽいですね。

3 次に、順次「問題の所在の指摘、検討」を繰り返していきます。ただ、この問題、いきなり問題の所在を指摘しようとすると、「AとBは最初に暴行の共謀を、次に強盗の共謀を遂げたが、生じた傷害結果がいずれの共謀の下でなされた攻撃によるものか認定できないことから、いかなる犯罪の成立を認めるべきかが問題となる。」とかなってしまいます。こういうのが、私がよくいう「8合目から登り始める」答案の書き方の例です。この書き方だと、基本的な事項をかなり書き飛ばさないと、うまく論述を進めることが難しいんですね。

 まあ、まずは順番に書いていきましょう。

 「AとBは、甲に暴力を振るう旨を話し合い合意しており、暴行の共謀が成立したものと認められる。そして、実際にAとBは、それぞれ甲に殴る蹴るの暴力を振るっており、AとB

に少なくとも暴行(刑法208条)の共同正犯が成立することは明らかである。」

 ここまでが問題文の第一段落ですね。

4 問題文の第二段落についてです。

 「Aは、甲に攻撃を開始した後に、甲の金品を奪うために攻撃を継続することを思い立っており、Aが、この時点で強盗の犯意を有するに至ったことが認められる。」

 まあ、いきなりBとの共謀についてまで書いてしまってもいいのですが。

 ただ、問題文が、わざわざAの犯意の部分で段落を変えているので、それに合わせて、Aの犯意成立のところで区切ってみました。

5 問題文の第三段落です。

 「強盗の犯意を生じたAは、『ついでに金をとっちまおう』旨をBに持ちかけ、Bは『おう。』と答えてこれに応じた。従って、この時点でAとBの間に強盗の共謀が成立したものと認められる。その上で、AとBは、さらに甲に殴る蹴るの暴力を振るい、その結果、甲はぐったりと横たわった。従って、AとBには、少なくとも強盗未遂罪が成立する。」

という感じですかね。

 おそらく、問題文中の「甲が走って逃げようとしたのを、AとBが取り押さえた」という部分は、「それ以前にはまだ反抗抑圧には至ってなかった。」ということを明確にするための記載でしょう。なので、先ほどの答案構成中に、「AとBが強盗の共謀を遂げた後、甲が逃げ出そうと走り始めたのであるから、この時点では甲がまだ反抗抑圧状態には至っていなかったと認められる。その後、AとBは、甲を取り押さえて暴力を振るい、甲が横たわるに至ったのであるから、AとBの強盗の共謀成立後の暴行によって、甲が反抗抑圧状態に陥ったものと認められる。」とか、甲の反抗抑圧という結果への因果関係の問題だとわかってますよー、と書ければ、加点されるかもしれません。

 「そして、Aは横たわった甲から腕時計と財布を取っており、Aに強盗既遂の罪が成立することも明らかである。それでは、Bにも、Aの共同正犯として、強盗既遂の罪が成立するであろうか。Bは、Aと強盗の共謀を遂げた上で甲に暴力を振るい反抗を抑圧したが、一方でBはAも了解を得た上で、財物奪取の前に逃走したことから、Bには、強盗未遂の限度でのみ犯罪の成立を認めるべきではないのか、Bにいわゆる共犯関係からの離脱を認めるべきかが問題となる。」

 ようやく問題点の指摘ですね。長かったですね。まあ、これだけじっくりと書き進めてくれば、基本的な刑法の構造は分かってるんだな、と読み手に伝わると思います。

 共犯からの離脱は、別に法律上そういう規定があるわけではありません。なので、「いわゆる」と書いた訳です。いきなり「共犯からの離脱」という言葉だけ書いても、ちゃんと意味がわかってその言葉を使っているのかが読み手に分からないですよね。問題の所在をじっくり書くことで、「分かってますよー」と伝える訳です。

 ここからですが、まあ、時間の制約もあるので、さらっと書くなら、

 「共同正犯が、自己の行為のみならず、共犯者の行為についてまで刑事責任を負うのは、共犯者間に相互利用補充関係が認められることを理由とする。そうであれば、共犯者の一部が、相互利用補充関係を完全に解消したと認められれば、共犯関係から離脱したものと認めて、それ以降は共犯者の行為については、離脱者は刑事責任を負わされる理由はないと解すべきである。しかし、本件のBについては、すでに強盗の共謀を遂げた上で、Aと協力して甲に暴力を振るい、反抗抑圧状態に陥れている。このような状態で、BがAの了解を得た上で財物奪取前に逃げたとしても、Aが甲から財物を奪取することは容易である。Aも『まだ何もとっていない。』とBに告げて、財物奪取の意思を引き続き有していることを明らかにしている。このような状態で、Bが逃げたとしても、Bについては、Aとの相互利用補充関係を完全に解消したと認めることはできない。Bにも、少なくとも強盗既遂の罪が成立し、AとBは強盗の共同正犯となる。」

というくらいでしょうか。

 時間に余裕がある人は、「実行行為着手前後における共犯関係からの離脱の要件の違い。」「Bが共犯からの離脱を認められるためには、すでに強盗の実行行為の着手後であることから、単に逃げるだけではなく、積極的にAの強盗の犯行継続を阻止しなければならないこと」などをグリグリ論じるとポイントアップでしょう。ただ、問題の所在について、ちゃんと分かっていることをアピールする方が重要です。問題の所在の指摘があっさりしていて、こういう論点的な部分だけグリグリ書いてある答案というのは、「8合目から登るヨタヨタ答案」になりかねません。時間がないなら、まずは問題の所在の指摘に重点を置くべきです。

6 第四段落です。

 「次に、甲の傷害結果について検討する。甲は、顔面打撲、肋骨骨折の傷害を負っている。これが、AとBのいずれの行為によるものか不明であるものの、AとBは、暴行の共謀、あるいは強盗の共謀を遂げてそれぞれ甲に暴力を振るったのであるから、相互利用補充関係にあったものである。従って、甲の負傷がA、Bいずれの攻撃によるものか不明であっても、共同正犯としてA、B両名に傷害結果の刑事責任を問うことは、問題なく認められる。」

と、まずは基本的な部分の理解を示します。問題文が、わざわざA、Bいずれの攻撃によるか不明、と書いているのですから、少しで良いので、ちゃんと答えておきましょう。その上で、傷害結果の発生時期が不明な点の問題点の指摘です。

 「次に、甲の傷害結果は、どの時点の攻撃によるものか不明である。この点、強盗の共謀成立前の傷害結果であれば、A、Bには傷害罪と強盗罪の共同正犯が成立し、強盗の共謀成立後の傷害結果であれば、A、Bには暴行罪と強盗致傷罪の共同正犯が成立する。しかし、傷害結果は、強盗の共謀成立の前後いずれの攻撃により生じたか不明であり、そうすると、いずれの攻撃にも傷害結果との因果関係が認められず、A、Bには暴行罪と強盗罪の共同正犯が成立するのみで、甲の傷害結果について、A、Bに刑事責任を問うことができないようにも思われる。そこで、A、Bに、甲の傷害結果について刑事責任を問えるかが問題となる。」

と、問題の指摘はこんなもんでしょうか。わざわざ「前ならこう、後ならこう」と書いているのは、問題の所在が分かっていることをアピールするためです。当たり前のことを書く、とは、こういうことだと思っています。

 、、、、、正直に言いますが、全く勉強せずにこれを書いているので、この論点、受験生の皆さんがどのくらい勉強しているものか分かりません。私自身は、任官してから実務で初めて知りました。結構難しい話ではないかと思っているので、その前提で書き続けます。もし、「そんなのみんな知ってるよ。」みたいな論点だったら、勘弁してください。

 私自身は、これは結構難しい話だと思っています。なので、

 「この点、甲の傷害結果が、AとBの攻撃によって生じたことは明らかである。しかも、AとBは、暴行、あるいは強盗という、いずれも甲に攻撃を加える共謀を遂げていたことも明らかである。にもかかわらず、甲の傷害結果が強盗の共謀成立の前後いずれに生じたかが不明であるというだけで、甲の傷害結果について、一切AとBに刑事責任を問うことができない、とすることは、極めて不公正である。従って、AとBには、傷害と強盗致傷の共同正犯が成立する。」

と断定してしまっても、合格点なのではないか?と思っています。

 なお、傷害と強盗致傷の共同正犯を認める場合、傷害を二重評価している点について、AとBに過剰な刑事責任を負わせるものだ、という批判も考えられます。これを回避するためには、罪数処理として「過剰な刑事責任を負わせることを回避するために、併合罪ではなく、一連の犯行を『傷害罪と強盗致傷罪の包括一罪』としてAとBの刑責を問うべきである。」とまで書ければ、素晴らしいと思いますが、私が受験生の時は、絶対そこまで書けなかったと思います。なお、この罪数処理は、判例上「混合包括一罪」と呼ばれているものです。、、、、でも、この問題が出る以上、「この判例知ってるよね?」という問題なのでしょうか?難しいですねー。「知らない問題を考えさせるための出題」だと信じたいです。

 最後の部分は、どうしても分からなければ、「傷害結果について刑責を問うことはできず、AとBには暴行罪と強盗罪の共同正犯が成立するにとどまる。」とか書くことも

考えられます。ただ、実務家として、傷害結果の刑責を問えない、という結論には、かなり抵抗を覚えますねー。これがどういう評価を受けるのかは、分かりません。

7 やはり、かなり長くなりましたね。最後までお付き合い、ありがとうございます。

 

追伸  答案構成と言いながら、だいぶ記述が詳しいですね。本当の答案構成は、もっと骨骨の標題を並べたようなものです。標題の論理的な順番とか、検討事項の漏れがないか確認したりするものです。誤解なきよう願います。