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そんなブログ沢山ありそうですが…

民法その6(令和4年答案構成)

1 この問題も行ってみましょうか。

「第1問

  Aは、XがX方で使用していた中古品である高級ソファ(以下「本件ソファ」という。)を15万円でXから購入したが、自宅を整理して本件ソファを置くスペースができるまでの間、X方で本件ソファを預かってもらっていた。ところがXは、Aから本件ソファを預かっている間に、Bに対しても、本件ソファを20万円で売却した。もっとも、Bは、多忙のため、X方に本件ソファを引き取りに行くことなく、Xの了解を得て、X方で本件ソファを預かってもらっていた。

  本件ソファの所有権は、AとBのいずれに帰属するか。また、BがX方から本件ソファを引き取っていた場合はどうか。

第2問

  Cは、D所有の自動車(登録名義もDとする。以下「甲車」という。)をDから預かり保管中、甲車を自分のものと偽り、これを信じたEに売却し、その代金を受領した。その後、甲車については、Eが使用していたところ、通りすがりのFによる放火に遭い、全焼した。

  D、Eは、それぞれFに対し、損害賠償を請求することができるか。Eに甲車管理上の過失はないものとする。」

  なんだか大間違いをしそうな気がしてきました。ならやめときゃいいのですが、恥をかく覚悟でやってみます。

  いつものように、「麓から登るイメージ」「知らない問題を解くつもりで」「問題提起を手厚く」です。

2 まずは全体のイメージです。

  動産の所有権移転や対抗関係絡みですね。小問がある場合は、出題者が小問を並べた意図がどこにあるのか、考えた方がいいです。第1問は、Xは本件ソファの所有者であるのに対し、第2問は、Cは甲車の所有者ではないですね。この部分の違いに着目して、それぞれ適切な制度(対抗関係とか即時取得とか)を指摘できるか、がポイントでしょうか。

  なお、そういう私自身、パッとみたときに、「第1問も第2問も対抗関係か?どこか違うのか?」とあっさり問題に振り回されたことを自白します。

3 では第1問です。

「Aは本件ソファの所有者であるXから、本件ソファを購入し、既に代金15万円を支払っている。従って、Aは、本件ソファの所有権を取得したものと認められる。

 一方、Bも、Xから本件ソファを購入し、代金20万円を支払っている。しかし、Xは既に本件ソファをAに売却し、その後は単に本件ソファを預かっていたにすぎず、Xは本件ソファの所有者ではないことから、Bが本件ソファの所有権を取得する余地はないようにも思われる。」

と、こんなあたりがスタートでしょうか。いきなり対抗関係の話に入ってしまうと、やたら論述が短くなりそうです。取引の安全確保という対抗関係の趣旨に触れるためにも、対抗関係を取っ払った原理原則がどうなるか、というのを見せると良さそうに思いました。

「しかし、Bは、元々本件ソファの所有者であったXから、Xの手元で管理されている本件ソファを購入したものであり、たまたまAが先にXから本件ソファを購入していたことで、一切Bが保護されないのは酷である。」

  まあ、別に「絶対酷だ」という理由なんてないんですけどね。ただ、対抗関係の条文を民法が置いている以上、民法は「Bに酷だ」と言ってるわけです。なので、ここは理由なしで「酷だ!」と言い切って良いと思います。ただバランスを取っているだけなので、論理的な理由なんてないと思います。、、、あるのかな?

「そこで民法は、178条に、動産の物件譲渡に関して、『その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗できない』旨を定めている。この規定により、本件ソファをXに預けたまま引渡しを受けていないAは、自己がXから本件ソファの所有権を譲り受けたことを第三者であるBに対抗することができない。ただし、Bも本件ソファをXに預けたままの状態であれば、やはり引渡しを受けていないBは、自己がXからその所有権を譲り受けたことを第三者であるAに対抗できない。この場合、本件ソファの所有権は、AとBのいずれに帰属するか、未確定の状態となる。これに対し、BがX方から本件ソファを引き取っていた場合は、Bは動産である本件ソファの引渡しを受けており、その所有権をXから譲り受けたことを、第三者であるAに対抗できる従って、この場合は本件ソファの所有権はBに帰属することが確定する。」

でどうでしょう。

  単純な対抗関係に関する問題です。簡単な問題って、結構書くの難しいと思います。注意しないと、あっという間に論述が終わってしまうから。「民法178条の適用場面であり、ABとも引渡しを受ける前は所有権の帰属は未確定で、Bが引渡しを受ければBへの所有権帰属が確定する。」という一文で、一応答えが書けてしまうんですよね。こういうときこそ、「麓から登るイメージ」です。

  、、、、Bについて、即時取得の検討とかしなくていいのかな、と頭をよぎりました。でも、192条は、占有してないと即時取得を認めてないですから、Bに即時取得が成立する余地はないですね。ちゃんと勉強している方は、そんなこと当然分かるのかも知れませんが、民法久々だとこんなことでも引っかかり、一応考えてしまいます。

4 では第2問です。

「まず、甲車の所有権がD、Eいずれにあるのかを検討する。

  Dは甲車の所有者であり、Cに甲車を預けていたにすぎない。従って、D自身は甲車の所有権を他人に譲渡する意思は有しておらず、未だ甲車の所有者はDであると認識している。

  他方、Eは、甲車をCのものと信じて、Cから甲車を買い取り、代金を支払って引渡しを受けている。Cは甲車の所有者ではないことから、甲車の所有権はDのままであるようにも思われる。」

と、原理原則はこんな感じでしょうか。

「この点、民法192条は、動産取引の安全確保のため、即時取得の制度を定めている。自動車も動産であることから、Eは、同条の要件を満たせば、甲車の所有権を即時に取得する。Eは、Cとの取引行為によって、平穏に、かつ公然と甲車を使用して占有を始めたと認められる。そして、EはCが甲車の所有者だと信じており、「善意」の要件も満たす。では、Eは善意について「過失がない」の要件を満たすであろうか。甲車の登録名義は、CではなくDとなっている。そして、登録名義は甲車に積載されている車検証を見れば容易に確認可能である。自動車の登録名義は、必ず所有者と一致するものではないが、これがCではなくDとなっている事実は、甲車がCの所有ではないことを通常疑わせる事実である。この場合、Eは甲車をCから購入するに際して、登録名義人のDに所有権の帰属を確認することも容易であって、これを怠ったEは、善意について無過失とは認め難い。Eは、即時取得による保護は受けられず、甲車の所有権はDに帰属する。」

で、どうでしょう。続けていきます。

「Dは、甲車の所有者であるから、これに放火して全焼させたFに対して、所有権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる。

  一方、Eは、甲車の所有者ではないことから、所有権侵害を理由とする損害賠償請求をFに対して行うことはできない。それでは、EはFに対して、何ら損害賠償を請求できないであろうか。Eは、Cを所有者と信じて甲車を購入し引渡しを受けてており、甲車の占有権を取得している(民法180条)。従って、Eは、Fに対して、甲車の占有を妨害したことを理由として損害賠償を請求することができる(民法198条)。」

でしょうか。民法198条は、条文を眺めて見つけただけです。

  そして、おまけです。

「なお、Eは、Cから甲車の所有権を譲り受けたと信じていたことから、所有の意思で甲車を占有している。20年、占有を継続していた場合には、Eは甲車の所有権を取得する(民法162条1項)。その後に甲車が放火された場合には、Eは所有権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をFに対してすることができる。この場合、Dは甲車の所有権を失っており、Fに対しては何ら損害賠償請求できない。」

  このおまけは、書いても減点はされないでしょうが、出題意図から外れている危険もあると感じました。他人名義の自動車を20年占有するって、車検もあるし、そんなに長い間乗らないし、非現実的なことですから。なので、書くとしてもあっさり、短くまとめておくのがいいと思います。

5 第2問は、普通はFが逃げちゃってCDEの法律関係を論じたりしそうなところです。ただ、それだとCD、DE、CEと3つの関係を個別に論じる必要があって複雑なので、問題をシンプルにしたのかも知れません。

  以上です!