こちらも、最後に感想を書いておきます。しかし、今年は問題がどれも長いですね。
甲は、X社の経理課長であり、同社の金銭の支出を独自に判断するような権限は有していないものの、X社の現金、通帳、帳簿及び信憑書類を保管する金庫の鍵を事実上管理し、上司の命により同金庫内の現金を出し入れする立場にあった。 甲は、借金返済に窮したことから、同金庫内の現金を持ち出して借金の返済に充てようと考えるとともに、そのことが露見しにくくするため、かねてから親しい仲にあった取引先Y社の乙に依頼して、持ち出した現金相当額のY社名義の領収書を発行してもらい、Y社に代金を支払ったように偽装工作して持ち出しがばれないようにしようと考えた。 甲が、乙に自己の社内での立場や計画内容について説明した上、その協力を依頼し、協力してくれれば持ち出した現金の一部を乙に渡す旨持ちかけたところ、乙は、「あなたとの仲だから、協力しよう。金などいらない。ただ、X社の今後の発注予定が知りたい。発注予定は公表されていないので、それがわかれば、他社に先んじてX社に営業をかけることができ、Y社の利益につながるし、私の営業成績も上がる。この前、X社の発注担当のAさんと会ったとき、「社外秘」と記載された発注予定に関する資料を持っているのがちらっと見えた。その資料を持ち出してきてくれないか」などと言ってきた。甲が、その資料を持ち出してどうするのかと乙に尋ねると、乙は「スマホで写真を撮ったら、すぐ返す」などと答えた。甲は、乙が領収書を用意してくれれば、X社のオフィス内に置かれている発注予定に関する資料を一瞬持ち出して、乙に見せると約束した。 X社内に人気がなくなるある日曜、甲は、計画を実行することとし、X社の前で乙と落ち合い、乙から150万円のY社名義の領収書を受け取った。乙は、X社内に入らずX社の入居するビルの共同エントランス付近で甲を待つこととし、甲が一人でX社のオフィス内に入った。 甲は、自己が事実上管理している前記鍵を用いて前記金庫を開け、同金庫内の現金150万円を取り出してかばんに入れたが、前記の乙から交付された領収書については、いずれY社に対して問合せ等がなされれば虚偽であることが露見するであろうから、むしろ面倒であるし、また後日別の偽装方法を考えればよいと思い直し、これを利用することをやめて、その場でシュレッターにかけた。 さらに、甲は、領収書を使わないこととしたとはいえ、協力する姿勢を示してくれた乙の頼みに答える必要があるだろうと思い、発注担当であるAの机周りを探したところ、「社外秘」と記載された発注予定に関する資料を発見したため、同資料を持ってX社オフィスを出た。 甲は、前記エントランス付近に待機していた乙と落ち合うと、前記資料を乙に渡した。乙は、甲の目の前で、スマートフォンを使って同資料の写真を撮影したあと、同資料を甲に返してきた。甲は、その後再度X社オフィス内に入り、同資料を元の場所に戻した。なお、甲がAの机周りに置いてあった同資料を持ち出してから元に戻すまでの時間は、5分程度であり、同資料はX社の発注に関する資料であって、それが漏洩されることでX社に多大な損失を与える機密情報が記載されたものであったが、乙が求めていたものとは別の発注予定に関するものであり、Y社の営業には影響しないものであった。 以上の事実関係を前提に、甲及び乙の刑法上の罪責を論ぜよ。 なお、文書偽造及び特別法違反の点は考えなくてよい。
業務上横領と機密情報の窃盗に関して、共犯者間でいくつかの行き違いがあった部分をどう論じるか、みたいな問題のようですね。問題文は長いけれども、それは、論じることを限定するため、のように見えました。甲が結局領収証を使わなかった部分は、共犯からの離脱という形で論じて欲しいのかな、などと頭をよぎりました。情報窃盗の方は、一時持ち出しと不法領得の意思とか、窃取対象の錯誤について論じるんでしょうかね。これこそ、研修誌にそのうち答えが出ますので。それを待ちましょう。