1 ようやく令和6年刑法です。遅いですね。はい、遅いです。頑張ります。
【刑法】 甲は、消費者金融からの借金を重ねた上その返済を滞らせ、 金融機関等から融資を受けることがもはやできなくなっていた。 また、甲は、住居侵入・窃盗罪で逮捕され、有罪判決を受けて服役したが、その逮捕の際には、インターネット媒体を含め報道機関により逮捕の事実が広く実名で報道されていた。さらに、甲は、自動車運転免許を保有していたものの、服役中にその有効期限を迎え、出所後もその更新手続をとらなかったため、無免許の状態になっていた。
以上の事実関係を前提に、以下の各問における甲の罪責を論ぜよ。なお、各問は独立したものとする。
問1 甲は、A名義の自動車運転免許証 (発行者であるB県公安委員会の記名、公印があるもの)を拾ったことから、これを使って消費者金融から借入れしようと考えた。そこで、甲は、同自動車転免許証の写真部分に自己の写真を重ねた上で電子複写機によって複写した自動車運転免許証の写真コピーを作成した上で、消費者金融C社に電話をしてAを名乗って30万円の借入れを申し込んだ。甲は、C社の担当者から借入申込書及び身分証明書の写しの送付を求められたことから、Aの名前を申込者として記載した上Aの名字が刻印された印を押して借入申込書を作成し、同借入申込書と前記自動車転免許証のコピーをまとめてC社に郵送した。 C社の担当者は、同借入申込書等を受領した。
なお、A名義の自動車運転免許証の入手及び詐欺ないし詐欺未遂に係る罪については、論じる必要はない。
問2 甲は、自身が逮捕された過去がインターネット検索で容易に調べ得る状況であったため、自分の本名では希望する会社に就職ができないと思い、 偽名を用いてD社に就職しようと考えた。 そこで、 甲は、履歴書用紙を用意し、その氏名欄に偽名であるEと記載したほか、生年月日欄、住所欄、経歴欄についても虚偽の内容を記載した上で、 同用紙に甲自身の写真を貼付するとともにEの名字が刻印された印を押して、履歴書を作成した。 さらに、 甲は、採用面接のためにD社を訪れた際、同履歴書をD社の採用面接担当者に提出した。 甲は、採用面接に合格した際には、 D社にEの名で就職するつもりであった。
問3 甲は、生活のためには無免許でも自動車を運転する必要があると考え、そのことを親友であるFに相談した。 すると、甲は、Fから「免許がないと困るだろう。 仮に軽い交通違反が見つかったときくらいなら、俺の名前を使ってもらって構わない。 俺は、お前のために、多少の減点くらい受け入れる。」などと言われた。 甲は、Fの生年月日や住所などを暗記していつでも答えられるようにした上で無免許運転を繰り返していたが、普通乗用自動車を運転中、一時停止違反をしたところを警察官に現認された。 甲は、その取締りに当たった警察官に対し、Fを名乗った上、「免許証は自宅に忘れてきました。」などと述べた。その上で、 甲は、警察官に対して一時停止違反の事実を認め、一時停止違反及び免許不携帯についての交通事件原票の捜査報告書欄の下方にあり、「私が上記違反をしたことは相違ありません。」などと記載された供 述書(甲)の氏名欄にFと署名するとともに自己の指印を押し、これを警察官に提出した。
なお、道路交通法違反に係る罪責については、論じる必要はない。
では、いつものように、「麓から山を登るイメージ」「問題提起を丁寧に」「知らない問題を解くように」行きましょう!
2 まずは全体のイメージです。
来ました、文書偽造です。難しいんです。どういう難しさかというと、「机の上で勉強してても、具体的な事例で何が問題になるのかイメージが湧かない」のが難しいのです。勉強としては、有形偽造とか無形偽造とかやります。ただ、具体的な事例で、何が有形偽造で何が無形偽造か、実例を見聞きしないとなかなか分からないのです。判例をよく勉強している方なら分かるでしょう。ただ、ややマイナー分野である文書偽造について、
ちゃんと判例まで勉強しているなんて、それだけで合格する資格十分な気がします。そう思うのは不勉強な私だけでしょうか。
問題の前振りが長いですが、要するに別個独立の小問が3個です。どれも、書こうと思えばそれなりの分量が書けそうな問題です。そこを、どこまでコンパクトにまとめ、かつ論述の濃度を上げるか、というのが評価の分かれ目になりそうです。そのまえに、そもそも問題の所在を的確に指摘できるか、も難しいのですが。
3 では、問1についてです。
免許の入手も詐欺も詐欺未遂も論じなくて良い、とは豪快な設定です。
文書が借入申込書と運転免許証のコピーの2つ出てきますね。それぞれ何が問題になるのかを見ていくことにしましょう。
「1 問1について
甲はA名義の借入申込書(以下「本件借入申込書」という。)と、A名義の自動車運転免許証(以下「免許証」という。)の写真部分が甲の写真となっているコピー(以下「本件免許コピー」という。)の2つの文書を作成し、C社に郵送した。そこで、それぞれの文書について、甲の罪責を検討する。」
と、まず2つの文書に分けて検討することを示します。そして、本件借入申込書について。
「 まず、本件借入申込書について検討する。甲は、本件借入申込書にAの名前を申込者として記載し、Aの名字が刻印された印を押している。甲は、単にA名義の免許証を拾っただけにすぎず、Aから、その名義を使用することについて何ら許可や了解等をもらってはいない。従って、甲はAの名義を権限なく使用したものである。そして、本件借入申込書は、30万円の借入を申し込む意思表示を内容とする書面であるから、刑法159条の私文書に該当する。そして、甲は、Aの署名および印章を使用して本件借入申込書を作成している。以上から、甲には、本件借入申込書の作成について、有印私文書偽造の罪(刑法159条1項)が成立する。」
というくらいでしょうか。本件借入申込書については、特段問題なく有印私文書偽造の罪が成立します。なので、大袈裟な問題提起などの必要もなく、淡々と事案を条文に当てはめて行けば良いと思います。むしろここは、どれだけコンパクトにまとめて、紙面と時間を他の論述に振り向けられるかが問題と思います。
では次に、本件免許コピーについて。このコピーを偽造の罪に問うた場合、甲側からは、① 作成したのはコピーに過ぎず、コピーは文書の偽造には該当しない、② 免許証自体には加工しておらず、変造等にも該当しない、という主張が考えられます。こういう主張を踏まえて、問題提起をしましょう。
「 次に、本件免許コピーについて検討する。甲は、A名義の免許証には、直接は何ら加工を施していない。従って、免許証自体の偽造や変造には該当しない。一方、甲は、免許証のAの写真部分に甲の写真を重ねた上で本件免許コピーを作成している。そこで、このような本件免許コピーの作成が、各種偽造罪の条文にある『偽造』に該当するかが問題となる。」
ポイントは、「免許自体に加工をしていないので、その変造等に該当しない。」という土台の部分をサラッと指摘しているところです。問題点に気づいていれば、当然のことではありますが、「当然のことをちゃんと分かっていますよ。」というアピールです。
そして、規範定立と当てはめです。
「 現代社会では、本問のように金銭借入の申込に際して、身分証明証のコピーを持って本人確認を行うなど、写真コピーは、その原本の存在を証明する有力な手段となっている。従って、本件免許コピーのように、原本であるA名義の免許証と写真部分が入れ替えられた 写真コピーは、そのような外観の原本が存在することを証明する文書として、独立した価値を有するものと認められる。そして、本件免許コピーには、発行者としてB県公安委員会の記名、公印も複写されている。従って、甲には、公務所であるB県公安委員会の印章を使用して、本件免許コピーを作成したものとして、有印公文書偽造の罪(刑法155条1項)が成立する。」
必要性を強調していますが、許容生について、ちょっと書きづらいですね。今回は、そこはしらばっくれて書きませんでした。不勉強なのですが、確かここは判例があったところだと思うので、自信のある方は「(判例同旨)」と織り込むことで、許容性の論述に変えることができるでしょう。
さらに、忘れてはいけない、偽造文書行使と罪数処理について。
「 さらに、甲は、本件借入申込書と本件免許コピーを、まとめてC社に郵送している。これは、偽造有印私文書及び偽造有印公文書をまとめて甲がC社に行使したものであるから、甲には偽造有印私文書行使(刑法161条1項)及び偽造有印公文書行使(刑法158条1項)の罪が成立する。この両罪は、1つの郵送行為で行われており、科刑上一罪(刑法54条前段)となる。また、本件各文書の偽造と行使は、手段と結果の関係にあり、牽連犯(刑法54条後段)として一罪となる。各文書の偽造行為は、それぞれ別個に行われているけれども、行使行為が1個であることから、いわゆるかすがい現象により、甲の罪責については、各文書の偽造及び行使の行為が全体として一罪と評価されることとなる。」
基本的なことではありますが、「基本が分かっていますよ」と、できるだけコンパクトに示しましょう。
4 では、問2についてです。
「2 問2について
甲が作成したE名義の押印ある履歴書は、Eの経歴という事実を証明する文書であり、有印私文書偽造(刑法159条1項)の客体となる。従って、生年月日欄等の内容の虚偽性は犯罪の成否には影響せず、専ら甲がEという他人の印章若しくは署名を使用したか、有形偽造であるかにより、有印私文書偽造の罪の成否が決まる。この点、Eは甲が勝手に考えた偽名と認められるが、甲は、D社にEの名で就職するつもりであった。このため、甲が自己を示す通称として使用する意図でE名義を使用することが、『他人の印章若しくは署名を使用し』に該当するかが、文言上明らかでないことから問題となる。」
問題提起が結構長くなりました。問題文上、Eが架空人か、論理的には不明ですが、流石にここは「こういう問題だ」と決めつけないと先に進まないでしょう。
小問1つが重いですね。規範定立と当てはめは、コンパクトに行きたいです。
「 確かに、自己を示す通称であれば、『他人の印章若しくは署名』には当たらないようにも考えられる。しかし、現代社会においては、人の本名は、その人の属性とつながる重要な要素である。本問でも、甲の名前は、インターネット上で窃盗等により逮捕された人物、という甲の属性に結び付けられている。このような本名の重要性に鑑みると、自己を示す通称であっても、甲が全くの架空人をでっち上げて成り済ますことは、許されないと考える。そして、私文書偽造の罪の保護法益は、文書に対する社会的信頼であるから、Eが架空人であることは、同罪の成立を何ら妨げない。なお、甲は、インターネット上に自己の逮捕歴が残っていることが、就職や社会復帰の妨げになるとして本件犯行に及んでいる。これは、インターネット上に人の犯罪歴をどこまで残し、どこから削除すべきか、という問題である。甲に架空人に成り済ますことを認める理由とはならない。以上から、E名義の履歴書を作成し、D社の担当者に提出した甲には、有印私文書偽造・同行使(刑法159条1項、161条1項)の罪が成立し、両者は手段、結果の関係にあるので牽連犯(刑法54条後段)として一罪となる。」
コンパクトにするため、規範定立と当てはめをわざとごちゃ混ぜにしながら書いてみました。それでも結構な分量ですよね。まだ問3があるんですが、この問題を出した人は、本当に1時間で書けると思ったんでしょうか?
5 では、問3です。
「3 問3について
甲は、供述書の署名欄にFの署名をし、自己の指印を押している。この点、指印自体は甲のものであるが、Fの署名とともに押されていることからは、この指印もFの指印として押されたものと認められる。一方、甲はFから、軽い交通違反の際には、Fの名前を使ってかまわない旨、事前に承諾を得ている。このように、Fの承諾がある場合に、甲が供述書にFの署名等をすることが、『他人の印章若しくは署名を使用』(刑法159条1項)に該当するかが問題となる。」
まあ、問題提起はこんなものでどうでしょう。規範定立と当てはめです。
「 確かに、私文書偽造の罪の保護法益は、私文書への社会からの信用であり、名義人が予め同意しているのであれば、第三者が名義人の署名等を使用しても、その効果は代理等の制度によって名義人に効力を及ぼすのであり、私文書への社会からの信用は損なわれない。そうすると、甲がFの署名等を使用したことは、有印私文書偽造の罪を構成しないようにも思われる。
しかし、本件の文書は、一時停止違反及び免許不携帯という交通違反に関する交通事件原票の一部である『供述書』という私文書である。同原票には、警察官が作成する捜査報告書も一体となっている。このような事情に鑑みると、本件供述書は、『当然に違反者本人自身が作成すべき文書』であって、違反者が他人の署名等を使用することがおよそ想定されておらず、違反者が他人の署名等を使用することが、当該私文書の社会的信用を著しく損なうことが明白である。
従って、本件供述書のように、違反者が自己の名義で署名等を行うことが当然に予定されている文書については、Fの事前の承諾があったとしても、甲は『他人の印章又は署名を使用』したこととなると解する(判例同旨)。
以上から、供述書にFの署名等をして警察官に提出した甲には、有印私文書偽造・同行使(刑法159条1項、161条1項)が成立し、両者は手段、結果の関係にあり牽連犯(刑法54条後段)として一罪となる。」
この解釈の理由づけは、許容性がなかなか書きづらいんですよね。なので、判例に助けてもらいました。
6 以上、ようやく書き終わりました。かなり端折ったのですが、それでも結構な分量と思います。なお、すでに研修誌に「答え」が出ていますが、それは見ずに書きました。さて、どうなることやら。早速答え見ようかな。