1 検察官の特殊な業務の1つに「司法解剖立会」があります。
要するに、ご遺体の解剖に立ち会う訳です。実はご遺体の解剖にもいくつか種類があるのですが、検察官が立ち会うのは、司法解剖です。それ以外の解剖に立ち会うというのは、聞いたことがありません。むしろ、検察官が立ち会う必要がある解剖を、司法解剖以外の形でやることがないのだと思います。
2 司法解剖があったとしても、検察官が全件に立ち会う訳ではありません。司法解剖の前段階として、変死報告が警察から検察庁に上がってきます。その時点で、刑事事件なのか否かの見通し、司法解剖の要否とともに、「検察官が司法解剖に立会するか」についても検討されたりして決まります。やはり、故意の犯罪によって人が亡くなられた疑いが高い場合には、検察官が司法解剖に立ち会う場合が多いようです。
3 故意の犯罪で人が亡くなる、というのは、重大事件ですね。本庁など、検察官の人数がある程度いるところだと、解剖立会は検事が行くことが多いです。じゃあ、副検事は解剖立会しなくて良いのか、というと、そんなことはありません。検事がみんな予定が入っていて、誰も行けない、ということもあります。また、支部勤務の場合には、副検事が司法解剖立会する場合が増えるように思います。なので、「副検事だから解剖立会とかしなくて良い」という訳には行かないのです。
4 じゃあ、司法解剖立会で、検察官は何をすれば良いのでしょうか。解剖自体は、各地の大学の法医学教室の医師が、警察からの嘱託を受けて実施してくれます。というか、ちゃんと医師の資格がないと、そもそも裁判所が解剖に関する令状を出してくれません。なので、検察官が解剖自体をお手伝いする訳ではないんですね。
では、検察官は、何のために司法解剖に立ち会うのか。それは「亡くなられた方がどのような状況で、どんな原因で亡くなられたのか、をご遺体に聞く」ためです。通常の刑事事件では、検察官は、被害者を取り調べて話を聞くことが多いです。それは、被害に遭った方が、一番被害の状況を良く知っているからです。なぜそこにいたのか。何が起きたのか。どんな目にあったのか。犯人は誰なのか。知り合いか。ところが、亡くなられた方には、直接お話を聞くことができません。なので、解剖医という解剖の技術を持った方を通じて、ご遺体にお話を聞くのです。ですから、解剖立会の前には、ご遺体が発見された経緯、発見状況、その他の周辺事情、周辺情報を当然のように警察から入手して頭の中に入れておきます。その上で、「考えられる筋書き」を複数頭の中に思い描きます。そして、その筋書きを絞り込み、実際に何が起きたのかを解明するために、ご遺体に聞くべき事項を考えておきます。もちろん、「これが聞きたい!」といくら思ったところで、都合よくご遺体からその情報が得られるかは分かりません。それでも、解剖医の先生に問いをぶつける必要はあります。
5 なお、解剖医の先生に、どのタイミングで質問をぶつけるか、というのは、ちょっと難しい問題です。
通常は、司法解剖が終わった後で、解剖医の先生が時間を取ってくれて、警察官と検察官に解剖の結果をレクチャーしてくれます。なので、そのタイミングで聞くべき質問を投げかけることが多いです。
上級編として、顔見知りの解剖医の先生については、解剖の執刀中に話しかけることもあります。警察官も、特定の立場の方は司法解剖への立会回数が多く、執刀中に解剖医と話をすることがよくあります。検察官がここに混ぜてもらったり、特にポイントになりそうなところについては、検察官から積極的に解剖医に話しかけることもあります。ただ、解剖医によっては、執刀中に話しかけられることを極端に嫌う人などもいます。なので、実際に執刀中に話しかけるかどうかは、その辺も考慮しないといけません。
6 なお、司法解剖立会は、時間が読めないところがあります。通常は、早いと2時間、長くても4時間くらいで終わるそうです。ただ、事案によっては、すごく長い時間がかかることもあります。典型は、1つの事案で複数の方が亡くなられた場合です。法医学教室に複数の解剖医がいて、複数の執刀台があるなら、並行して進めることもできますが、そこまで施設が充実していないところもあります。
聞いた話にすぎませんが、一番長いので、「24時間」というのを聞いたことがあります。10時間くらいしたところで、立会検察官の交代要員が送り込まれたのですが、交代した人の方がさらに大変だった、ということです。
ほかにも、司法解剖は大変なことが色々あります。総じていうと、人間の五感への影響が強い場合です。年少者のご遺体は、見ているだけで胸が張り裂けそうになるそうです。また、嗅覚関係も色々あるそうです。
とはいえ、検察官は、基本的に見ていて話を聞くだけ。司法解剖で本当に大変なのは、執刀する解剖医の先生と、現場からずっとご遺体に寄り添っている警察官ですよね。