1 研修誌の2月号に、2名の副検事試験合格者の合格体験記が掲載されていました。
お二人とも、どうやら1回目の受験で合格されたようです。合格体験記は、主に勉強方法について述べられていました。かなり以前に、勉強方法について記事を書いたことがありましたが、当時は、まだ副検事試験の実際の問題を十分検討したことはなく、主に司法試験の勉強方法を前提に記事を書いていました。ただ、その後、実際に副検事試験の問題を自分で見て、検討する中で、司法試験と副検事試験の違いを感じるようになりました。その辺も踏まえて、今回の記事を書いてみたいと思います。
まずは、お二入の合格体験記を概観します。
2 一人目はAさんです。女性のようで、民間企業(なんとなく保険会社っぽい雰囲気を感じます)にいたものの、刑事事件に興味が湧き、副検事を目指すため、早いうちに転職して検察庁に入られたそうです。
そして、勉強開始が令和5年7月とのこと。1年の勉強で合格されたのですね。すごい勢いです。当初は参考書を通読していたものの、10月頃に進行の遅さに焦り、リスケジュール。以下、12月まで司法試験予備校出版の入門書(基礎知識、論点が通説・判例の立場からコンパクトに解説されているもの)の読み込みと巻末の論証集の理解・暗記。但し民法は頻出論点に限定。3月まで各科目の論文問題集。4月以降に論文問題集の他に副検事試験の過去問(H23以降)。
なお、論文問題集と過去問については、1回目に、解説や入門書を読みながら、自分のオリジナル答案を作成されたそうです。1問当たり3時間位かかったとか。これによって、2回目以降に解説等を調べる手間を省き、オリジナル答案を読み返せば確認できる状態にしたとのことです。
そして、5月から検察庁法の解説レジュメ(先輩から入手したものとか)。
体験記を拝見するに、おそらく、暗記が得意な方なのかな、と感じました。また、オリジナル答案を作成するのは、かなり労力がかかったと思われます。ご本人も「すごいストレスだった」と書かれています。ただ、これをやり切った、というのは、それだけで結構すごいことだと思います。
3 二人目は、Nさんです。男性のようで、やはり元々副検事志望で高校卒業後に検察庁に入られたそうで。受験資格取得が見通せた時点から、2年3か月計画で勉強計画を立てたそうです。Nさんは、研修誌の合格体験記にも何度も登場しているM検事を紹介してもらい、副検事試験の相談をされたそうです。このM検事という方は、副検事試験の指導を熱心にされている方のようですね。また、試験までの最後の1年間は、お酒を止めたとのこと。結構大変なことだと思います。一人目のAさんも、晩酌の時間を削り勉強に充てていたそうです。こういうところに、それぞれの「覚悟」みたいなものが出るのかも知れません。
Nさんの勉強は、① 過去問等85問の模範答案書き写しを約10か月されたそうです。全部で3回ずつ繰り返し、しかも2回目からは、答案構成を考えた上でやったとか。この模範答案書き写しは、以前にも別の記事で触れたことがありました。できないことを繰り返して失敗体験を重ねるのではなく、できることを繰り返して成功体験を重ねる、という点で、効果があるのではないか、と私は理解しています。しかし、3回繰り返したのは、すごいですね。なお、過去問の模範答案というのは、検察庁内部では、受験指導に熱心な高検、地検の検事が作成したものなどが出回っています。他省庁の方は、検察庁の関係者にアクセスしないと入手は難しいかも知れません。ただ、欲しいなら、何とか入手する方法を自分で考えるしかないでしょう。
次に、Nさんは、② 最高裁調査官解説等の検討を約10か月されたとか。これは、法曹時報という雑誌に掲載されている最高裁調査官が書いた最高裁判例の解説を、1年分ごとに本にまとめて出版しているものです。民事篇と刑事篇に分かれており、最近はさらに上下巻に分かれているような。1冊が結構高いですが、検察庁、裁判所の資料室や、法学系の学部がある大学図書館なら、まず間違いなく置いてあります。なお、Nさんは、検討すべき問題と判例をM検事にピックアップしてもらっていたようです。もし、みなさんが真似をしてみるなら、とりあえずは過去問に出てきた判例について、調査官解説を読んでいくことになるでしょうか。
そして、受験の6か月前になり、Nさんは、③ アウトプットの練習に入りました。六法だけで答案を時間内に書くトレーニングをされたそうです。それ以前のインプットにより、「知らぬ間に身に付いていた論証や判例が頭に思い浮かぶ」状態で、勉強したことがある論点はある程度書けたそうです。すごいですね。アウトプットを中心にしながら、記憶の定着をはかり、知らない論点をなくすよう勉強の幅を広げたそうです。
最後の1か月は、過去問等を1か月で200問解き直したそうです。1日当たり5〜10問で、パソコン利用だそうです。手書きでないとはいえ、かなり負荷の高い勉強と思います。
4 以上、お二人の合格体験記を概観しましたが、お二人とも、結構インプットや暗記に力を入れておられたようです。
そして、私も副検事試験をこの何年間分か見て「副検事試験は、ある程度暗記に重点を置くことで、クリア可能な試験のようだ。」と感じるようになりました。
前にも書いたことがありますが、法律家としての能力の行き着くところは、「見たこともない聞いたこともない事案(問題)だけれども、その場で考えて法律的に検討して答えが出せる。」ということだと思っています。この点は、今でも考えは変わっていません。そして、昔の司法試験というのは、この能力を見るために、敢えて新しい視点、新しい問題点を含んだ出題をすることが多かったのです。さらに、私の個人的な事情として「暗記が大嫌いで大苦手」という制約条件がありました。結果として、司法試験受験に向けた戦略としては、「知っている問題でも、知らない問題のように、ゼロから自分で考えて回答する」というやり方を選択することになりました。これなら、自分で考えるトレーニングを重ねれば、暗記していなくても、問題点抽出や論証は自分の頭の中から出てきます。
ただ、副検事試験の出題は、中には「判例に関する知識があることを当然の前提としている問題」など、判例、論点の暗記で十分対応可能なものも結構あるようです。そういう意味では、副検事試験においては、「まず論点や論証の暗記から入る」というやり方は、結構効率的なのかも知れない、と考えるようになりました。Aさんはストレートに暗記の作業をされましたし、Nさんも模範答案の写し、という勉強は、実は暗記の効果もあったのだろうと思います。憲法は、判例からの出題が多いですし、刑事訴訟法も判例で問題とされたことがある論点が結構出題されているようです。暗記の作業は、端から順番にやろうとすると効率が悪いですが、重要な論点、頻出論点から進めていくと、良いかも知れません。
もちろん、暗記では対応困難な問題の出題もあります。特に、令和6年度の副検事試験は、各科目とも、ややマイナーな論点等の出題が続いたように思います。実際、AさんもNさんも、「見たことがない問題が続き、心が折れそうになった。」という趣旨のことを言われています。もちろん、初見の論点、問題について、自分の力で答えを出し切る実力がついていることが理想です。ただ、AさんもNさんも、おそらく暗記主導の勉強方法によって、令和6年度の難問揃いの試験を突破されています。おそらくですが、暗記の勉強をする中で、「条文と原理原則に遡って法的に検討する」能力も一定程度鍛えられていたのだろうと思います。そういう意味でも、副検事試験の勉強として、まずは「暗記」から入るのは、有効であるように思います。
5 ただ、1つ残る問題は。私は本当に暗記って苦手なんですよね。私は、この勉強法はできません。自分ができないことを勧める、というのは、無責任ですよね、、、、。