1 最近、コメントで、民間の方から副検事任官について、相談をもらいました。検察官の仕事に興味を持ってくださったことは、嬉しいことです。ただ、そもそも副検事試験は受験資格が、事実上「現職の公務員、しかも司法警察員が内部にいる役所に勤務しているもの」にほぼ限定されています。民間の方がまず公務員となり、その上で副検事試験の受験資格を得るには、そこに至るまでにかなり時間がかかってしまい、現実的ではなさそうだ、と思い至りました。
こんなことを考えるうちに、検察官を仕事にする時に、他に何を考えるべきなのだろうか、などと思いました。以前にも似たような記事を書いたことがあったと思いますが、また書いてみます。
2 任官前に考えるべきことは、「捜査・公判を仕事にして、自分が楽しいと思えるか。」ということと思います。できれば、試験勉強を始める前に考えた方がいいでしょうね。というのは、勉強を始めてしまうと、そこに自分の時間、労力等のコストをかけてしまいます。人は、一定のコストをかけてしまうと、それを無駄にするのが嫌で、合理的ではないと分かっていながらも、最初の選択を変更、放棄するのが難しくなります。サンクコストに関するコンコルド効果と言われるものですね。採算が取れないことが分かっていながら超音速飛行機を作り続けてしまったという。では、具体的に何を考えたら良いでしょうか。
3 1つ大きな要素は「被疑者、被害者、参考人と接触し、話をしたり説得すること」について、自分がどういう気持ちになるか、と思います。被疑者は、多くは、自分で悪いことと分かっていながら、悪いことをしてしまった人、少なくともそう疑われている人です。大半の人たちは、国家公務員になるような人とはかなり異なる環境で生育・成長し、生活しているでしょう。被害者は、様々です。被疑者に近い知人であればあるほど、その環境は被疑者と近いものでしょう。逆に、被疑者と全く接点がないのに、刑事事件に巻き込まれ、ひどい被害を負ってしまった方もいます。参考人も、被疑者に近い知人の場合もあれば、本当にたまたま通りかかっただけの目撃者みたいな人もいます。後者の中には、刑事事件に関わることを強く拒絶する人もいます。共通しているのは、「誰も検察庁なんかに来たくなかった」という点くらいで、みなさん刑事事件の中で望んでもいないのに検察官と接触しています。こういう人たちと接触し、話を聞き出し、説得するのは、手間もかかりますし、自分のメンタルへの影響もあります。これを、楽しいとまでは思えなくても、「まあ、普通はこんな話に関わるの、嫌だよね。」「普通は、自分に不利なことなんか話したくないよね。」と思いながら、こなしていけないと、なかなか検察官を仕事にするのは辛いかな、と思います。そういう意味では、あまりに育ちが良すぎる方、というのは、自分が検察官を仕事にしていけるか、よく考えた方がいいかもしれません。悪意を持った利己的な人を、「まあ普通人間ってそうだよね」と思えないと、検察官は多分メンタルが持ちません。
4 他には、「真相解明意欲」とでも言うのでしょうか。分からないことについて、「自分で考えて探しまわる」ことができ、しかもできればそれが楽しいと思えることです。逆のパターンは、「目の前にある記録の中だけで物事を判断する」ということになります。裁判官は、これで良いのです。当事者が法廷に顕出した証拠のみに基づいて判断するのが仕事ですから。しかし、検察官は、特に捜査段階では、分からないことが山積みです。目の前にある記録の中身は、不十分極まりないものです。そこで「この事件はどんな事件なのだろうか?」と事件の筋書きを考え、解明すべき命題を考え、実際に捜査をする。記録に出てこない事情を、断片的な情報をつなぎ合わせて考え、見えないものを見つける。こういう業務については、実は結構好き嫌いが分かれます。もし、この業務を面倒臭い、と感じてしまうようであれば、やはり検察官は向かないように思います。
5 勉強を始める前に考えるべきことは、大きくいうと、以上でしょうか。あとは、法律の勉強に抵抗感を感じないか、などもありますが、さすがに副検事試験の受験を考える方なら、そこは普通は問題にならないでしょう。