副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

民法その11(令和6年答案例)

1 まだ令和6年の試験問題をやってますね。言い訳になりますが、これって結構パワーが必要なんですよ。検察庁副検事試験の指導をしている方とか、ネット上で参考答案を扱っている方とか、大変だと思います。そんなこんなで、みなさんに温かい視線を強要しながら、やっていきます。

2 前にも書きましたが、スタイルを変えました。従前は、全く勉強せず、その場の構成力でどこまで答案を書けるか、というやり方をしていました。ただ、そういう能力は、副検事試験では特に重視されていないのではないか、と感じることが多くありました。そこで、研修誌の「設問の題意等」「答案の傾向等」を踏まえて、それなりに評価されるであろう、しかも時間内に書けるであろう答案を出した方が、みなさんの役に立つのではないかと。今回も、そんなスタンスでやっていきます。

3 で、研修誌の設問の題意等を見て、驚きました。問題文は、平成24年から平成30年という設定だったけど、この問題を、配布した令和5年の司法試験用法文に基づいて回答して欲しかったそうです。令和2年の民法改正をどう取り扱うのか、迷った受験生は多かったことでしょう。「この点につき、問題文からは必ずしも明らかではなかった。」とか書いてますけど、「必ずしも」どころかって感じですね。「一定の配慮を行った。」のだそうですが、結構影響大きかったんじゃあないでしょうか。発生から時間が経過した事案については、法改正の有無が問題になるのは、法律家として大切な視点です。気をつけましょう。

4 ではでは、見ていきましょうか。

  問題です。

民法】  Aは、平成24年1月、Bに2000万円を貸し付け、同時に、その担保として、Bの知人であるCが所有する甲建物に抵当権を設定し、その旨登記した。その後、Bからの返済を受けることがないまま、弁済期(同年7月)から5年が経過したため、AのBに対する債権の時効が完成した。

 以上の事実を前提に、次の問いに答えよ。なお、以下の問1~3はそれぞれ独立した設例である。

間1 Bは、平成30年10月、Aから貸付金の支払を求められたため、1000万円を支払ったが、その後、時効完成に気付いたため、残額については支払をせず放置した。同年11月、Cは、Aから前記債権の残額を支払うように求められたが、支払いたくないと思い、Cが支払う必要がないことを主張しようと している。Cは、かかる主張の一つとして、Aに対して、AのBに対する債権が時効により消滅したと主張することができるか。

問2  Cは、平成30年10月、Aから、AのBに対する貸付金の支払を求められたため全額を支払った。CのAに対する支払は、法律上認められるか。これが認められる場合、Cは、Bに対して求償することができるか。

間3 Dは、平成28年4月、 Bに1500万円を貸し付け、同時に、 同債権の担保として、甲建物に抵当権を設定し、その旨登記した。 平成30年10月、 Aは、Bから貸付金の返済がないことから、甲建物に設定した抵当権を実行しようとした。これを受けて、Dは、AのBに対する債権は時効により消滅したため、Aの甲建物に対する抵当権を実行することはできないと主張した。かかるDの主張は、認められるか。

  では、いつものように「知らない問題を解くつもりで」「山の麓から登るイメージ」「問題提起を手厚く」で行きましょう!

5 問題は、小問ごとに別事例、という前提ですね。とはいえ、相互に比較を求める場合もあります。ただ、回答する事項が多いので、そこまで詳細な論述を求めている感じはしません。

6 では行きましょう。

  まずは問1から。

「1 問1について

(1)AのBに対する債権(以下「本件債権」という。)については、すでに時効が完成している。一方、Bは時効完成後に1000万円をAに弁済している。この場合に、Bの債務のために自己所有の不動産に抵当権を設定した、いわゆる物上保証人であるCは、Aに対して債権の時効消滅を主張しうるか。まず、B自身がAに対して、債権の時効消滅を主張しうるかが問題となる。

  本件債権の消滅時効が完成した後に、Bは本件債権のうち1000万円をAに弁済した。その際、Bは時効を援用(民法145条)しておらず、この1000万円の弁済は有効であり、本件債権のうち1000万円については弁済により消滅する。

  また、残りの1000万円の債権については、時効が完成した状態である。この1000万円について、Bは、Aに対して、時効を援用し、消滅時効完成による債務消滅を主張できるようにも思われる。しかし、Bは1000万円を弁済しており、時効の利益を放棄したと見ることもできる。尚、Bは、1000万円の弁済の際には、時効完成の事実に気づいていなかったようである。このような場合でも、1000万円の弁済によって、Bが時効の利益を放棄したものとして、Aが本件債権を行使しうるのか、が問題となる。

  確かに、Bは時効完成に気づかず1000万円を弁済したと思われ、少なくとも、残りの1000万円については、時効の援用を認めても良いようにも思われる。しかし、Bが1000万円を弁済したことによって、Aは、当然Bが時効完成の事実を知りながら時効完成の利益を放棄したものと考えるであろうし、残債務の1000万円についても、当然弁済を受けられるものと期待するはずである。このような場合、Bは、1000万円を弁済したことによって時効の利益を放棄したものであり、残債務についてBが時効を援用することは、信義則(民法2条)に反し、許されないものと解される(判例同旨)。このように解しても、時効期間は民法に定められており、Bが時効完成を知るのは容易である。仮に何らかの事情によってBが時効完成に気づかなかったとしても、それはBの責に帰せられるべき事情であって、法律上の保護に値しない。

(2)では、物上保証人Cは、債権の時効消滅をAに主張できるか。

  民法145条において、物上保証人は消滅時効を主張できる当事者と定められている。同条は、時効の援用を当事者が個別に行うことを想定しており、時効援用の効果も、個別の当事者ごとに相対的に生じるものと解される。これによりAは不利益を被るが、Aはそもそも消滅時効を完成させてしまった点に落ち度があり、これを回避する手段も時間もあったのであるから、やむを得ない。したがって、物上保証人Cは、AのBに対する債権が時効消滅した旨を主張することができる。」

 

でしょうか。書いていて思ったのですが、Bについての結論がどうあれ、Cが別途時効を援用できるという結論は変わらないんですよね。そうなると、Bについて長々と論じる必要があるのだろうか?特に小問が多いので、Bについて割愛するという選択もあるのではないか?ただ、設問の題意等では、Bについてもちゃんと書いて欲しそうですね。

  尚、私も途中で勘違いしましたが、権利の承認とか、時効の更新の規定は、「時効が完成する前」に関する規定なので、すでに時効が完成した後の状態である本問では、出番がない規定になります。こういう似たような規定というのは惑わされ易いですよね。答案の傾向でも、この規定を引用した答案が「相当数見られた」のだそうです。

7 では、問2ですね。

「2 問2について

(1)Cは物上保証人であるが、債務者ではない。そのCがAに貸付金の全額を支払ったことが、そもそも適法な弁済として債務が消滅するかが問題となる。

  Cは物上保証人であるから、債務の消滅に利害関係を有しており、民法474条2項の「弁済をするについて正当な利益を有する第三者」に該当し、Bの意思に反してでも、AのBに対する債権を弁済することができる。これにより、Aの債権は消滅する。

(2)では、CはBに対して求償することができるか。

  Cは物上保証人の立場でAに弁済をしている。したがって、抵当権に関する民法371条が準用する民法351条の規定に基づき、保証債務に関する規定に従い、CはBに求償権を有することとなる。

  CがBから委託を受けた物上保証人であった場合は、民法459条によって、Bに求償権を行使しうる。ただし、Cの弁済は、時効が完成した債権に対するものであった。そこで、Bとの関係でも、Cは弁済により債務を消滅させたといえるかが問題となる。

  消滅時効については、時効の援用によって、初めて効果を生ずる旨規定されている(民法145条)。したがって、時効完成だけでは、時効の効果は生じず、援用によって初めて時効の効果が生じることとなる(不確定効果説、停止条件説、判例同旨)。よって、Bが消滅時効の援用をしていない限り、Cの弁済は有効であり、Bとの関係でも、債務を消滅させたものとして、Bに弁済金額を求償することができる。

  ただし、民法463条の規定により、C が弁済に際して事前にBに通知をしていなかった場合は、BがAに対して主張することが可能であった消滅時効の援用について、BはCに対しても主張することができる。Bが消滅時効を援用した場合、CはBに求償することはできない。

  尚、CがBの委託を受けていない物上保証人であった場合には、民法462条2項の規定により、Bが現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。本件では、Bは、消滅時効の援用によって、債務を免れるのであるから、Cの弁済によってBが利益を受ける関係にはない。したがって、CはBに求償することができない。」

 

  いやー。難しすぎますね。答案の傾向等でも、求償に関して保証債務に関する規定に則って要件を検討している答案は少数に限られた、とされています。尚、採点としては、「保証債務に関する規定に従うことになることが指摘できていれば、基本的な理解はできていると評価し、場合分けを適切に行っていれば加点事由」だったそうです。また、求償に関して、「弁済による代位」を論じている答案も少なからず見られたそうで、適切に条文を引用してBに対する請求の可否を論じていれば、一定の評価をしたそうです。この辺の書き振りは、おそらく、採点してみて問題が難しすぎたことから、採点基準を変更したのだと思われます。

8 では、問3ですね。

「3 問3について

   AもDも、Bへの債権について、甲建物に抵当権を設定している。この場合、抵当権の対抗要件は登記であり、いずれも登記を備える場合、その優劣は、登記の前後によって決まる。従って、Aが先順位、Dが後順位の抵当権者となる。

   では、Aに劣後する抵当権者Dが、本件債権の時効消滅を援用できるか、Dが『当事者』(民法145条)に該当するかが問題となる。

   この点、『当事者』の範囲については、『時効によって直接に権利を取得し、又は義務を免れる者に限る』と解するのが相当である(判例同旨)。時効制度は、本来権利の移転や消滅が生じない場合について、一定の期間経過を理由にこれらを認めるという特殊な制度である。そうであれば、その範囲は限定的に解するのが相当である。

   したがって、Dは、時効を援用しうる『当事者』には含まれず、本件債権の消滅時効を援用することはできず、Aの抵当権実行を阻止することもできない。元々、DはAに劣後する抵当権者だったのであり、D自身もそのことを十分承知した上でBへの貸付や甲建物への抵当権設定を行った野であるから、不公平ではない。」

   答案の傾向等では、抵当権の対抗要件が登記であること、登記の前後により優劣がつくことの指摘がある点を評価したとしています。いきなり「Dは後順位抵当権者」とやってしまうと、その分の評価を得られない、ということでした。一方、「当事者」に関する判例まで指摘できた答案は僅かであり、「Dは当然援用できる」と結論づけた答案も散見されたとのこと。また、DがBの消滅時効援用権を代位行使できるか、という視点の構成については、債権者代位権の要件、行使方法を適切に論じていれば、内容に応じた評価をしたそうです。

9 総括です。

  まあ、参考例として答案を一通りフルで書きました。ただ、正直なところ、本番でここまで書ける人はいないと思います。設例の年代と準備された六法の年代が違う中、問1は時効の更新というワナを回避して信義則違反の判例にたどり着くこと、問2は物上保証人の第三者弁済と求償というややマイナーな分野からの出題でした。問3は、判例さえ知っていればすぐに書けますが、知らないと長々と論じてしまいそうなところでもあります。おそらく多くの受験生が、問題文を見た瞬間に絶望を感じたことでしょう。ただ、そういう時に大事なことは、「みんな絶望しているはず」と割り切り、切り替えることです。研修誌の記載を見ても、当初予定していた採点基準では受験生の評価を適切に行うのが困難で、事後的に大分採点基準を組み立て直した様子が見えます。極端な話、中身がスカスカでも、理由づけがほぼなくても、何とか問題に対する答えっぽいものを書いてさえいれば、今回は何とか生き残ることができたのではないか、とすら思います。

  第三者弁済と求償の部分は、勉強分野としてマイナーな印象がありますが、副検事試験では何度かお目にかかったことがありますね。最近、民法の出題は難易度が上がってきているように感じます。ただ、刑事事件でも、所有関係や債権債務関係が問題になる事件は多くあります。「副検事だから民法は専門外」とは言っていられません。頑張るしかないですね。