副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

刑事関係法の法改正について

1 検察官は、刑事事件に関する法律のプロです。当然、刑事関係法令には精通している必要があります。副検事試験でも、刑法と刑事訴訟法が科目に入っています。検察庁法も、まあ刑事関係法令の一つと言えるかもしれません。

2 そして、法律は、改正されることがあります。当然、改正された場合には、改正内容の勉強が不可欠です。法改正は、主体は国会ですが、事実上、法務省刑事局の担当課が深く関与しています。そして、逐条解説やらQ&Aやらを頑張って作ってくれるのです。法律は、本来は、使い込まれることによって実例、裁判例が積み重ねられ、解釈や運用が安定してきます。しかし、常に、法改正初期に使わなければならない人たちがいるのです。そういう人たちは、実例や裁判例の積み重ねがない状態で、条文を頼りに改正法を解釈適用する必要があるのです。出来立てのホヤホヤで、文献も裁判例もない中で、頼りになる数少ない資料が、逐条解説やQ&Aなのです。また、法改正の内容によっては、実務に大きな影響を及ぼすこともあります。その場合は、現状の実務の運用をどのように変えるべきか、ということも問題になります。

3 どうしてこの話題を取り上げたのかというとですね。最近、刑事関係法に関する法改正がものすごく多いんですよ。そのため、勉強して理解することもものすごく多いんです。まあ、必要があったからこそ、法改正をするんでしょうが。そして、法改正というのは、基本的に、時代の変化に法律を追い付かせるためのものであって、それ自体は必要だし、良いことなのですが。ただ、あまりに法改正が多すぎる上、結構複雑な実務上の変化も多く、「過誤を起こすための罠だらけ」みたいに見えます。「過誤」というのは、実務において、手続的な違法等を引き起こし、上級庁に報告の上、原因究明、予防策の策定等、極めて手間のかかる対応を求められる事態のことです。

4 昔は、刑事関係法令なんて、滅多に改正されなかったんです。平成7年頃に、それまでカタカナ書きだった刑法が、平仮名書きに改正(合わせて、刑法109条の「又は」も密かに改正)されたのが、結構画期的だったくらいです。

  その後、平成11年頃に出入国管理法で不法在留罪が創設(それまでは不法入国罪しかなく、入国後3年で時効にかかっていた)、平成12年にストーカー規制法が制定、平成17年頃に刑訴法の時効期間について改正があった、というくらいが、大きな改正等でしょうか。もちろん、細かい特別法ができたりはしましたが、新しい法律は、勉強すれば、良いことです。改正法が厄介なのは、常に「法改正前の犯罪と、法改正後の犯罪で、取り扱いが違ってしまう」という点です。例えば、時効期間についても、法改正前に時効が完成していれば、そのままなのですが、法改正時点で時効が完成していない場合には、その犯罪については、法改正後の時効期間が適用になる、とか、経過規定により、複雑にルールが決められています。なので、法改正があった場合には、その時に勉強して終わりではなく、「いついつ頃にこんな感じの法改正があった」という事実を、ずっと覚えている必要があるのです。例えば、今でも、不法在留罪で検挙された外国人の中に、「平成5年に日本に密入国しました」みたいな人がいる可能性はあるわけです。そうすると、法改正の経過規定を確認して、不法在留罪に問えるのか(入国から6年後に制定された不法在留罪を適用して良いのか)を、十分検討する必要があるのです。

5 こんな風に、結構対応が大変な刑事関係法の改正が、最近は目白押しなんですね。

  例えば、令和7年6月1日施行の刑法改正で、懲役刑と禁錮刑が、拘禁刑に統一されました。この場合、「改正前の万引き窃盗と改正後の万引き窃盗を同時に審理する場合、刑罰は懲役刑になるのか、拘禁刑になるのか」みたいな話が当然問題になるわけです。そして、そこを間違えると、違法な求刑、違法な判決として、大きな問題を引き起こす訳です。

  また、改正法を勉強する中で、「使い勝手の悪い法律」というのがあったりします。例えば、先ほどの拘禁刑の導入に関しては、起訴状の罪名及び罰条の部分に、法改正前の条文であることを示す必要があります。これが、「刑法の場合(一部例外あり)」「普通の特別法の場合」「令和4年の拘禁刑導入後にさらに法改正があった場合」に区別して、書き分けないといけない状態になっています。拘禁刑導入の法律を一本化しておけば、実務上こんな面倒くさいことをする必要は全くなかったのですが、法改正の担当者は、そこまでは頭が回らなかったのでしょう。他にも、いわゆる医療観察法の身柄のつなぎ方、犯罪被害金の分配等に関する法律の分配手続など、「もうちょっと工夫できたんじゃない?」みたいな法律は、結構あります。

  事件の中身とは、ほぼ関係がない話なのに、やたら気を使わないといけない、という意味では、本当に大変です。言いたいことは、他にもいくらでもあるのですが、キリがないので、この辺で勘弁してあげましょう。