1 ある時、ある司法試験受験生は考えました。
どうやったら、この試験を突破できるのか。
一生懸命考えて、受験生として一つのルールを自分で作りました。
それが「知ってる問題でも、知らない問題のように解答する。」というものでした。
2 この方は、直感的にそう思ってただけなんですね。
何通も答案を書いて、なんだか合格点が出ない。
どうしてだか考えているうちに、ふと思い当たったのが。
「なんだか、よく分かっていないくせに、やたら難しいことを書こうとしてないか?」ということでした。
難しいこと書こうとすると、紙面も時間も全然足りないんですよね。
しかも分かってないし。
「知らない問題のように解答する。」と決めると、簡単なことしか書けません。
スタート地点が、「知らない」ですから。ごく基本的なことからしか書き始められません。そして、難しいことを描き始める前に、紙面も時間も尽きてしまいます。
3 ある方が経験と直感で決めたルールでしたが、これが正解でした。
理屈として正しい、と確信できたのは、合格してから大分後だったそうです。
別に学者さんたちが、自分の後継者を決めるわけではないんですよね。
ある程度法律がわかっている、と確認できたなら、合格、なんです。
そして、確認されることは、「山のふもとから、3合目くらいまで、確実に登れる。」という程度のことでした。
4 難しいことを書く人は、いきなり8合目とか9合目の話から書き始めてしまうのです。
それでは、基本的な部分について、「ちゃんと分かってますよ。」というアピールができないんです。
そして、8合目とか9合目から、ヨタヨタ頂上まで登って見せたところで、「大丈夫かいな?」と思われるだけで、大して評価されない。
ものすごく優秀な、それこそ学者の後継者になれるレベルの人なら、それでも評価されるんでしょうが、普通はそうではないのです。
5 あと、少なくとも昔の司法試験は、「みんなが知らない問題」というのが結構出たんですよ。全員、問題を見て、ヨーイドンで初めて考えさせる、みたいな。
これって、なかなか練習できないんですよね。だって、知らない問題を作るのってすごく難しいから。予備校なんて、そんな問題作るのほぼ無理ですよね。
知ってる問題を知らない問題のように解答する、というのは、知らない問題を解く練習にもなります。
もっと言えば、知らない問題を解くやり方というのは、法的思考の基本なんだな、と思っています。
以前、問題点抽出能力の重要さを力説したことがありました。もし、抽出した問題点の中に、考えたことがないものがあったら?どうします?
何とか考えて解決するしかないんですよね。これも、法律家として大切な能力です。
6 ただ、安心していいのは、試験レベルでは、知らない問題を解く能力については、大した能力を求められていない、ということです。別に、今回書いたことを全く意識してなくても、何となく合格できる訳ですから。
ということは。もし、そこ(知らない問題を解く力を鍛えること)を意識して勉強していれば。その分合格が早くなる、ということですね。