副検事になるための法律講座

そんなブログ沢山ありそうですが…

予備校的勉強と問題点抽出能力のトレーニングの関係

 1 法律の勉強というと、研修教材を読み込んだり、基本書(厚さ3〜4センチくらいの法律書のこと)を読み込んだり、といったイメージですかね。

  司法試験の場合には、予備校というのがありました(旧の方です。今の司法試験の予備校も大差ないとは思っているのですが。)。

  基礎的なコース、応用コース、答案練習会とかいろんな講座があって、それぞれ何万円とか何十万円とかするんですよ。

2 予備校でスタッフのアルバイトしたり、論文の答案添削をしたりすると、ある時、悟ることがあります。厳しい言い方をすれば、司法試験予備校は「夢を売っている」のだということを。

  考えてみれば、当たり前ですよね。予備校は講座の受講料を払ってもらうのが仕事ですから。

  「これをやれば完璧。絶対合格しますよ。」というのが商売ですよね。

3 私は、予備校は全否定はしません。役に立つ部分もあると思っています。

  予備校の強みは、「全く初学の状態から、一定のレベルまで、法律の知識を身につける。」という部分です。ここは予備校がとても良くできます。

  …というか、大学の講義がこの部分が弱すぎるんですよね。大学は、一科目を一年かけて一回教えて終わるので、最初っから難し目の話が出てきます。予備校は、最初のうちは

簡単な内容に絞り込み、そのかわり同じ科目を、少しずつ難易度を上げながら、繰り返し教えます。

  まあ、優秀な学生は、大学の授業でも分かるのでしょうが、凡人はそうはいきません。全体像が見えてないのに、細かい話をされても、それを勉強することの意味がわからない。

  話がそれましたが、要するに、初学の頃は、予備校も(不当なほど金はかかるが)役に立つ、ということです。

4 ただ、予備校は、どこかの時点で卒業すべきです。ところが、卒業されてしまうと、予備校は儲からないですよね。そのために、夢を売るのです。予備校生が「卒業すべきだ」という事実に気づかないように。

  なぜ卒業すべきかというと、予備校的勉強では、問題点抽出能力が鍛えられないんです。そういう講座を提供する力がないから。

  予備校の論文答案練習会が、アウトプットに該当する講座になりますが、これでは問題点抽出能力が鍛えられないんです。なぜなら、問題がしょぼいから。

  考えてみれば、せいぜい1、2年前に司法試験に合格したばかりの人間が、片手間に作ったような問題ですよね。そんなの、問題点がすぐに分かるか、知らないと気づきようがないか、そんな感じです。こういう問題って、予備校的な勉強を積み重ねた人が点数がいいんですよ。問題点抽出能力の出番がなくて、みんな何を書いたらいいかは丸見えの状態で、論述内容の高度さでしか点数の差がつかないから。

  ところが、本番の論文試験では、当代一流の学者が関与して、問題点抽出能力が高ければ高いほど、いろんな問題点が指摘できるような問題が出されます。深みがある、というんでしょうか。この場合、問題点抽出能力が高ければ、色んな問題点を指摘、検討すること自体が評価される一方、予備校的能力が高くても、問題点の指摘自体ができなければ、評価されない、ということになります。

5  この、問題点抽出能力を鍛えるには、どうしたらいいか、というと、やり方は単純なんです。

  まず、題材は論文の過去問です。理由は簡単ですね。すでに話した通り、深みのある問題でないと、そもそも抽出するべき問題点が含まれていないからです。副検事試験の論文問題が、どのくらいのクオリティなのか、まだちゃんと検討したことがないので、わかりませんが、旧の司法試験の問題なら、太鼓判を押せます。なお、今の司法試験の問題は、事例がとても長くなってますね。真剣に解いたことはありませんが、こういうのでも問題点抽出能力は鍛えられるのかもしれません。

  そして、過去問を「知らない問題」として、15分間、答案構成をします。答案構成というのは、問題点を抽出(通常複数あります)した上で、それらを論理的な順序で論述するための骨子です。論理的な順序というのは、「問題点同士の論理的な順序」「問題の所在の指摘→論述という流れ」などです。まあ、これらは、トレーニングで身につける対象ですから、簡単に言葉にするのは難しいですね。やってみて苦しんで理解するものだと思ってください。答案構成が終わったら、45分間勉強します。本番だと45分間で答案を書き上げるのですが、その分を勉強に使うんですね。旧司法試験の場合には、過去問論文問題の解説みたいなものがありました。新司法試験もあるでしょう。副検事試験の論文問題って、解説あるのでしょうか。ここで気をつけなければならないのが、「予備校的な勉強をしない。」ということです。論述の内容に目を奪われない、ということです。問題点抽出能力を鍛えているのですから、「どんな点が問題になるのか」「なぜそれが問題になるのか」を理解することに力を尽くした上で、さらに「どういう考え方、頭の使い方をしたら、自分が初めてこの問題を見たときに、この問題点を抽出できたのか。」を全力で見つけ出すのが勉強です。論述内容なんてのは、その後の話です。

  もちろん、この勉強方法は、一定の法律知識と、当該科目の全体的な構造が頭に入ってないと、難しいです。そこにたどりつくまでは、予備校的勉強がいるんですね。唯一、刑法各論だけは、「その罪名の勉強」さえ終わっていれば、問題点抽出能力のトレーニングはできますが、例外ですね。

  集中的な問題点抽出能力のトレーニングのやり方として、旧司法試験の過去問30年分(60問)を、1日10問(10時間ですね)、連日やる、というのがあります。一科目が6日で終わるので、一日だけ頭を休めて、憲民刑商刑訴と5科目を5週間でやりきれる計算です。真剣にやると、ものすごく頭が疲れますが、日々自分の頭が良くなる実感もあるはずです。

  この勉強方法のゴールは、各科目ごとに、「どんな問題でも、結局これをきいてるだけなんだな。」というものがつかめることです。今は分からなくていいです。その時がくれば、自分で分かります。そして、「大して難しいことを聞かれてきいる訳でもない」と思えるでしょう。

6  この問題点抽出能力は、任官した後も必要ですし、身についていれば役に立つ(というか、必須)な能力です。どうせいるんだから、鍛えておきましょう。